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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:伊藤静雄「帰郷者」

「帰郷者」

自然は限りなく美しく永久に住民は
貧窮してゐた
幾度もいくども烈しくくり返し
岩礁にぶちつかつた後(のち)に
波がちり散りに泡沫になつて退(ひ)きながら
各自ぶつぶつと呟くのを
私は海岸で眺めたことがある
絶えず此処で私が見た帰郷者たちは
正(まさ)にその通りであつた
その不思議に一様な独言は私に同感的でなく
非常に常識的にきこえた
(まつたく!いまは故郷に美しいものはない)
どうして(いまは)だらう!
美しい故郷は
それが彼らの実に空しい宿題であることを
無数な古来の詩の讚美が証明する
曾てこの自然の中で
それと同じく美しく住民が生きたと
私は信じ得ない
ただ多くの不平と辛苦ののちに
晏如として彼らの皆が
あそ処(こ)で一基の墓となつてゐるのが
私を慰めいくらか幸福にしたのである

「同反歌」

田舎を逃げた私が 都会よ
どうしてお前に敢て安んじよう

詩作を覚えた私が 行為よ
どうしてお前に憧れないことがあらう
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詩歌鑑賞:千家元麿「海」「星よ」

「海」

海が見える
充溢した歓喜で
張り詰めたやうな
海面の美しさ
何といふ静かな力のこもつた海
永遠の緑を深く湛へて
盛り上がつている海
日に輝いて純白な帆が
花のように流れている

「星よ」

星よ
地球の友達よ
君達の方にも人類はゐますか
君達の方の生活はどうですか

詩歌鑑賞「犬吠岬旅情のうた」

犬吠岬旅情のうた/佐藤春夫

ここに来て
をみなにならひ
名も知らぬ草花をつむ。
みづからの影踏むわれは
仰(あふ)がねば
燈台の高きを知らず。
波のうねうね
ふる里のそれには如かず。
ただ思ふ
荒磯(ありそ)に生きて松のいろ
錆びて黒きを。
わがこころ
錆びて黒きを。