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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:石原吉郎「位置」

しずかな肩には

声だけがならぶのではない

声よりも近く

敵がならぶのだ

勇敢な男たちが目指す位置は

その右でも おそらく

そのひだりでもない

無防備の空がついに撓(たわ)み

正午の弓となる位置で

君は呼吸し

かつ挨拶せよ

君の位置からの それが

最もすぐれた姿勢である


ウィキペディアより:

石原 吉郎(いしはら よしろう)

1915年(大正4年)11月11日~1977年(昭和52年)11月14日

日本の詩人。シベリア抑留の経験を文学的テーマに昇華した、戦後詩の代表的詩人である。

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山吹挽歌、近代ソネット、東は東

◆山吹の立ちよそひたる山清水汲みに行かめど道の知らなく・・・(万葉集)

立原道造〈みまかれる美しき人に〉より:

まなかいに幾たびか 立ちもとほったかげは
うつし世に幻となって 忘れられた
見知らぬ土地に 林檎の花の匂うころ
見おぼえのない とおい暗夜の星空の下で

The Road to Anywhere/Bert Leston Taylor

Across the places deep and dim,
And places brown and bare,
It reaches to the planet's rim ------
The Road to Anywhere.

Now east is east, and west is west,
But north lies in between,
And he is blest whose feet have prest
The road that's cool and green.

More sweet these odors in the sun
Than swim in chemists' jars;
And when the fragrant day is done,
Night ------ and a shoal of stars.

Oh, east is east, and west is west,
But north lies full and fair;
And blest is he who follows free
The Road to Anywhere.

《翻訳=『英詩の歓び―青春、そして夢と追憶』松浦暢・編訳/平凡社2000》

深く おぼろな国を 越え
荒寥とした 褐色の国を越え
それは この世のはての
どこかへ 通じる道。

おお 東は東 西は西
しかし 北は その間に横たわる。
ひんやりとした みどりの道を 辿った人は
めぐまれた人だ。

陽光をあびる この香りは
いやさらに美しい 科学者の試験管に
ながれる あの香りよりも。
かぐわしい昼間が 終わると
夜が訪れ――満天の星はきらめく。

おお 東は東 西は西
しかし 北は はてしなく美しく横たわる
おお 幸せな人だ それは
どこかへの道を 自由に辿る人。

詩歌鑑賞:ディキンスン258,764,1078

(作品258番)/エミリー・ディキンスン

冬の午後には
ななめの陽差しがある
聖堂の重い調べのように
人の心に塞がる

それは天上の痛みを負わせる
しかしだれもその傷を見つける事はできない
ただ深い意味の世界で
見えない変化がある

だれもまたそれを変える事はできない
それは絶望の相
空からわたしたちに加えられた
至高の苦悩

その訪れるとき風景は耳をそばだて
影も息を殺す
またその去るときは死者の顔に浮かぶ
あのよそよそしさに似ている

(作品764番)/エミリー・ディキンスン

予感は芝生の上の長い影
太陽が沈むしるし、
驚いている芝草への通知
暗闇が経過しようとしていることへの

(作品1078番)/エミリー・ディキンスン

死んだ朝の
家のざわめきは
地上で行なわれる
最も厳粛な仕事

心を掃き清め
永遠まで
二度と使う用の無い
愛を片付ける