忍者ブログ

制作日誌/深森の帝國


詩歌鑑賞:伊東静雄「水中花」

水中花/伊東静雄

今歳(ことし)水無月(みなづき)のなどかくは美しき。
軒端(のきば)を見れば息吹(いぶき)のごとく
萌えいでにける釣(つり)しのぶ。
忍(しの)ぶべき昔はなくて
何(なに)をか吾の嘆きてあらむ。
六月(ろくぐわつ)の夜(よ)と昼のあはひに
万象のこれは自(みづか)ら光る明るさの時刻(とき)。
遂(つ)ひ逢はざりし人(ひと)の面影
一茎(いつけい)の葵(あふひ)の花の前に立て。
堪へがたければわれ空に投げうつ水中花(すゐちゅうくわ)。
金魚(きんぎょ)の影もそこに閃(ひらめ)きつ。
すべてのものは吾にむかひて
死(し)ねといふ、
わが水無月(みなづき)のなどかくはうつくしき。
PR

私製詩歌「あじさい」

(新しいバージョン)

緑も深き 木下闇に
五月雨そそぐ 降りそそぐ

あやに群ら咲き 彩るものよ
薬玉 薫(くゆ)る かたちして

誰恋うゆえに 赤にや咲くらむ
誰待つゆえに 青にや咲くらむ

色を定めぬ あじさいの
花に宿るは 天の水

涼しき野辺に 五月雨なおも 降りそそぐ
雨だれを 鳴らしつづける 風神雷神
緑の袖の 梅雨美人(つゆ-びじん)

雨上がり はるか青空 虹かかる
あじさいの如くに 色を定めぬ 天の妙(たえ)

(挿絵イラスト試作)

*****

(古いバージョン)

緑も深き 木下闇に
静かなるもの あじさいは
ためいきしろく ほの匂う

夢 食(は)む如き 五月雨の
薬玉 薫(くゆ)る かたちして

誰恋うゆえに 赤にや咲くらむ
誰去ぬゆえに 青にや咲くらむ

色も定めぬ あじさいの
雨の水色 妙(たえ)に思ほゆ

水霊(みづち)に巻かれて 色こそ匂え
緑の袖の 梅雨美人(つゆ-びじん)

誰か心を 思わざる――

私製詩歌「花の影を慕いて」

緑の岸辺、
黒のわだつみ、
遠い日の丘の夕映え、
花の影を慕いて。

虚空遥かに、
水は巡りて、
夜と昼とをおし渡る。

風は吹き抜け、
雲は波立ち、
流転を重ねて幾星霜。

悠久の時の声は、
雪闇に、
幽(かそけ)く閃(ひらめ)く未生の欠片(かけら)、
一片の細雪(ささめゆき)より微かなる、か細き御声。

魂は生を贈与して、
運命は死を贈与する――

しかしこれら二つのものは、
来し方行く末、
一つの軌道を辿るのだ、
花の影を慕いて。

無限の連関、
星辰の階梯、
はかなきかなや、現世(うつしよ)の、
一期(いちご)の仮面舞踏会。

畢竟、謎は花の影、
雲間より洩る光の如く。


プラグイン

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

プロフィール

HN:
ミモロン
性別:
非公開
自己紹介:
ツイッター=徒然草
漫画ハック=コミック物語の公開中

最新記事

フリーエリア

〝自分が疑えないのは最も知的でない。自分が無謬であると考えるのは最も知的でない〟・・・福岡伸一(生物学者)

リンク

カテゴリー

ブログ内検索

最古記事

RSS

アーカイブ

バーコード

NINJA TOOLS