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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

ゲーテ『爽やかな航海』『トゥーレの王』

『爽やかな航海』ゲーテ

雲が切れる
青空の眸がのぞく
しづかにエオルスが
袋のひもをとく
微風はそよぎ
舟子ははしり
ひたひたと
舳(へさき)はみづを切り
舟足かるく
すでに陸地が
眼前に迫っている

『トゥーレの王』

昔トゥーレに王ありき
契りをかえぬこの王に
いとしき人は黄金(こがね)の杯を
遺してひとりみまかりぬ。

こよなき宝と愛でたまい
乾しけり宴のたびごとに
此の杯ゆ飲む酒は
涙をさそう酒なりき。

王、死ぬる日の近づくや
国の町々数えては
世つぎの御子に与えしが
杯のみは留め置きぬ。

海に臨める城の上(へ)に
王は宴を催しつ。
壮士あまた宮のうち
御座の下に集ひけり。

老いにし王は飲み乾しき
これを限りの命の火
いとも尊き杯を
海にぞ王は投げてける。

落ちて傾き、海ふかく
沈み行くをば見おくりぬ。
王はまなこを打ち伏せて
飲まずなりにき雫だに。
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2009.6.27ホームページ更新

編集・校正を念入りにしていたら、予定日を回ってしまいました(驚き)…^^;;

コレがいわゆる、奥義(笑)・締め切り破りとか、原稿落ちと言われる現象かも知れません(実際には個人経営のサイトなので「締め切り」とかは関係ないのですが、メリハリをつけるために、ちょっとした目標を入れていたりします…)。

サイト改装工事と称していた、創作コミックの画像入れ替えが完了しました。
・・・生まれ変わった画像をお楽しみくださいまし・・・^^

新しく完成していた第一部・第三章「坂下宿」のウェブコミックを、ホームページに公開しております(全ページ・チェック済み)。

物語ノ本流]セクションから、コミック作品ページに移動できます。

華夏の時空シリーズ〝青銅華炎の章・古代篇1~6〟を、『深森の帝國』ホームページに公開しました。(歴史を考察して、当サイトなりに、詩的に物語ってみるという試み^^)

直接アドレス:「青銅華炎の章/崩壊篇」
http://mimoronoteikoku.tudura.com/garden/history/china_2.html

・・・以下、「青銅華炎の章/崩壊篇」の編集対象となった過去ブログ記事(参考)・・・

華夏の時空・古代1/天を恐れよ・・・文字と呪術の帝国
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/261/
華夏の時空・古代2/天を恐れよ・・・文字と呪術の帝国(承前)
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/264/
華夏の時空・古代3/殷周革命から春秋へ(推定・前11世紀~前400年代)
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/266/
華夏の時空・古代4/青銅器時代から鉄器時代へ・・・ユーラシア情勢と金属文化の変遷
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/268/
華夏の時空・古代5/諸子百家の時代・・・文明の大断絶と思想の大混乱(前)
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/269/
華夏の時空・古代6/諸子百家の時代・・・文明の大断絶と思想の大混乱(後)
http://mimoronoteikoku.blog.shinobi.jp/Entry/270/

このたびは、以上です…^^

詩歌鑑賞:立原道造「風に寄せて」

風に寄せて/立原道造

その一

しかし 僕は かへつて来た
おまへのほとりに草にかくれた小川よ
またくりかへしておまへに言ふために
だがけふだつてそれはやさしいことなのだ

手にさはる 雑草よ さはぐ雲よ
僕は 身をよこたへる
もう疲れと 眠りと
真昼の空の ふかい淵に……

風はどこに? と 僕はたづねた そして 僕の心は? と
あのやうな問ひを いまはくりかへしはしないだらう――
しかし すぎてしまつた日の 古い唄のやうに

うたつたらいい 風よ 小川よ ひねもす
僕のそばで なぜまたここへかへつて来た と
僕の耳に ささやく 甘い切ないしらべ

その二

僕らは すべてを 死なせねばならない
なぜ? 理由もなく まじめに!
選ぶことなく 孤独でなく――
しかし たうとう何かがのこるまで

おまへの描いた身ぶりの意味が
おまへの消した界(さか)ひの意味が
風よ 僕らに あたらしい問ひとなり
かなしい午后 のこつたものらが花となる

言葉のない ざはめきが
すると ふかい淵に生れ
おまへが 僕らをすこやかにする

光のなかで! すずしい
おまへのそよぎが そよそよと
すべてを死なせた皮膚を抱くだらう

その三

だれが この風景に 青い地平を
のこさないほどに 無限だらうか しかし
なぜ 僕らが あのはるかな空に 風よ
おまへのやうに溶けて行つてはいけないのだらうか

身をよこたへてゐる 僕の上を
おまへは 草の上を 吹く
足どりで しやべりながら
すぎてゆく……そんなに気軽く どこへ?

ああふたたびはかへらないおまへが
見おぼえがある! 僕らのまはりに
とりかこんでゐる 自然のなかに

おまへの気ままな唄の 消えるあたりは
あこがれのうちに 僕らを誘ふとも どこへ
いまは自らを棄てることが出来ようか?

その四

やがて 林を蔽ふ よわよわしい
うすやみのなかに 孤独をささへようとするやうに
一本の白樺が さびしく
ふるへて 立つてゐる

一日の のこりの風が
あちらこちらの梢をさはつて
かすかなかすかな音を立てる
あたりから 乏しいかげを消してゆくやうに

(光のあぶたちはなにをきづかうとした?)
――日々のなかの目立たない言葉がわすれられ
夕映にきいた ひとつは 心によみがへる

風よ おまへだ そのやうなときに
僕に 徒労の名を告げるのは
しかし 告げるな! 草や木がほろびたとは……

その五

夕ぐれの うすらあかりは 闇になり
いま あたらしい生は 生れる
だれが かへりを とどめられよう!
光の 生れる ふかい夜に――

さまよふやうに
ながれるやうに
かへりゆけ! 風よ
ながれるやうに さまよふやうに

ながくつづく まどろみに
別れたものらは はるかから ふたたびあつまる
もう泪するものは だれもゐない……風よ

おまへは いまは 不安なあこがれで
明るい星の方へ おもむかうとする
うたふやうな愛に 擔(にな)はれながら