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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:トルストイ(ロシア詩人)

◆アレクセイ・トルストイ(ロシア詩人)

海は泡立たず、波はしぶかない。
鬱蒼として暗い樅(もみ)の枝に風はそよがない。
世界をば鏡のように己が姿に宿しつつ
澄み切って、海は静かに横たわる。
    私は岩に腰掛けている。頭上には羊毛のようなちぎれ雲が
    藍青の空深くじっと浮かんで動かない。
    私の魂はふかぶかと鎮まって行く。
       静かな海と私は一体だ。

砕け、飛び散り、怒濤は私の瞼(まぶた)に塩辛い涙を投げつける。
身動きもせず岩に腰掛けた私の胸にすがすがしい清涼の気が流れ込む。
寄せては返し、また寄せて、激浪は絶え間なく私の城塞に打ちかかる。
波頭には白雪のような飛沫がきらきらと輝く。
    一体私は誰に闘いを挑んだらいいのだ、力強い海よ。
    漲(みなぎ)り来るこの力を誰に向かって試したらいいのだ。
    私の心は今こそ生命の美に触れた。
    おお 波よ、お前達はわが胸の憂愁を洗い流した。
    お前達の咆哮とその水しぶきは私の魂を呼び醒ました。
        この潮騒と私は一体だ。

◆<カラマーゾフ>

わが陥りし幽暗の深淵の底より
われ汝の憐みを乞い求む、「汝」わが愛する唯一のものよ。
世界は陰鬱に、見はるかす地平は鉛にとざされ、
恐怖と冒瀆は夜の闇に漂う。
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