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〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)
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『マニ教』(講談社選書メチエ2010)青木健・著より、興味深い部分を抜粋&覚書。

マニ教の教祖は「マーニー・ハイイェー」と尊称する人物で、216年4月14日出生、メソポタミア平原南部のバビロニア地方マルディーヌー村。ハマダーン出身のパルティア貴族の父パティークと、パルティア王族カムサラガーン家出身の母マルヤムの間に生まれた(「ハイイェー(ハイヤー)」=東アラム語で「生きている」の意。つまり「生けるマニ」)。

マニ8才のとき、中央アジアのイラン系遊牧民パルティア人による連合王国支配(前247-後224)が終わり、イラン系定住民ペルシア人による中央集権を旨とするササン朝(224-651)が始まった。ササン朝はゾロアスター教を国教としていた(※パルティア時代は多くの宗教に寛容で、ミトラ教が流行。パルティア語「ミフル」、アヴェスター語「ミスラ」)。

マニは多くの文献を残したが、パルティア王国の言語だった中世パルティア語は使わず、ササン朝の言語だった中世ペルシア語を新たに覚えた(書記言語はセム系東方アラム語)。ササン朝治下においては、前王朝の残党という政治的に微妙な立場だったためだと言われている。

(補足)中世ペルシア語は書記文字が確立していなかった。アラム文字系のパフラヴィー文字を使用したが、正確な表音文字では無く、解読が困難。イスラム時代には、言語そのものが既に死語となっていた。現在、マニ教が書物に残したマニ文字を通じて、中世ペルシア語の再建が研究されているらしい(=マニ文字は、パフラヴィー文字に比べて比較的正確な表音文字であると評価されている)。

また、教祖マニは、絵を描くのが上手かったと言われている。絵画作品は残っていないが、周辺の言及からすると、中世パルティア美術の系統をひくものであったらしい。なお、その当時、周囲にはグノーシス主義諸派のシモン派、カルポクラテス派、マンダ教などがあった。特にマンダ教は「ディーヴァーン・アバートゥール」と呼ばれる絵画で可視的に教義を示す伝統があって、マニ教の布教様式(書物と絵画を使って布教)との類似関係が指摘されている。

▼20世紀に発見されたマニ教の文献

  • 『タイトル不明』(ラテン語)3世紀末か4世紀にパウロ文書を活用してグノーシス主義の意義付けをしたマニ教文献
  • 『シリア語・コプト語辞書』(シリア語・コプト語)3-4世紀のマニ教教会が翻訳活動に使用した辞書
  • 『大いなる福音』注釈(コプト語)400年頃にコプト語訳されたマニ教聖典の注釈
  • 『生命の宝庫』注釈(コプト語)400年頃にコプト語訳されたマニ教聖典の注釈
  • 『ケファライア』(コプト語)400年頃にコプト語訳されたマニ教教義概説書
  • 『マニ行伝』(コプト語)400年頃にコプト語訳されたマニの行伝
  • 『マニ教讃歌』(コプト語)400年頃にコプト語訳されたマニ教聖典の讃歌
  • 『マニ説教集』(コプト語)4世紀のマニ教教会がエジプトで受けた迫害を反映した説教集
  • 『彼の肉体の成立について』(ギリシア語)5世紀頃にシリア語からギリシア語に翻訳されたマニの前半生の伝記
  • マニ教讃歌(中世パルティア語)6-10世紀に属すると考えられるマニの涅槃を詠った膨大な量の讃歌。断片資料である
  • マニ教讃歌(中世ペルシア語)6-10世紀に属すると考えられるマニの涅槃を詠った讃歌。断片資料である
  • マニ教信仰告白文(ソグド語)6-10世紀に属すると考えられるソグド人マニ教徒の信仰告白文。断片資料である
  • 『摩尼光佛教法儀略』(中国語)731年に唐王朝政府に提出された教義の説明書
  • 『老子化胡経』(中国語)唐代の加筆部分にマニ教の痕跡がある
  • 『波斯教残経』(中国語)10世紀頃に仏教と混淆したマニ教神話
  • 『下部讃』(中国語・韻文)ソグド語またはウイグル語から中国語訳されたマニ教の讃歌
  • マニ教徒書簡(ソグド語)10世紀の西ウイグル王国のマニ教徒による書簡3通
  • マニ教徒書簡(ウイグル語)10世紀の西ウイグル王国のマニ教徒による書簡5通
  • 『ハーストワーニーフト』(ウイグル語)10-11世紀頃にソグド語からウイグル語に翻訳された懺悔祈禱文
  • 「泉州摩尼教草庵石碑」(中国語)14世紀に創建されたとみられるマニ教寺院の石碑
  • 「選真寺記」(中国語)元代に造刻されたとみられるマニ教碑文

特にマニ教の聖典(20世紀以降)

  • 『シャーブフラガーン』・・・トルファンから中世ペルシア語原文がほぼ完全形で出土。D.N.マッケンジーとM.フッターが多くの断片を付け加えて校訂
  • 『大いなる福音』・・・ケルン・マニ・コーデックスの中にギリシア語訳断片が3つ保存されている。トルファン出土の断片のいくつかも、本書に属すると考えられる。コプト語文献では「マニの新約聖書」と呼ばれている。本書の中で、マニは「イエス・キリストの使徒」と名乗っている
  • 『生命の宝庫』・・・ベルリン国立博物館所蔵のコプト語注釈は未公開
  • 『伝説の書』
  • 『奥義の書』
  • 『巨人の書』・・・ヘニンクがトルファン出土のソグド語訳断片から全体を復元。かなりの部分を旧約外典の『エノク書』から抜粋したと考えられている
  • 『書簡集』・・・コプト語コーデックスにコプト語訳が含まれていたが、ベルリン攻防戦(1945)の際に消滅。その後、ケリスで一部分が発見
  • 『讃歌と祈禱文』・・・コプト語、中世パルティア語、中世ペルシア語、ソグド語、中国語で膨大な讃歌の断片が現存しているが、それらがマニによるアラム語讃歌の翻訳なのか、各言語でのオリジナルなのかは不明
  • 『アルダハング』・・・マニが描いた原画ではないが、その系統をひくと考えられる日本国内所蔵のマニ教思想絵画7点

宗教の比較(最高神、宇宙論、神々、二元論、人間論、使徒論、倫理、終末論の項目を比較)

★3-5世紀のゾロアスター教ズルヴァーン主義
=最高神=時間の神ズルヴァーン
=宇宙論=ズルヴァーンから、自然発生的にアフレマンとオフルマズドが誕生し、前者が後者に挑む
=神々=アマフラスパンドたちがオフルマズドに助力。アフレマンも「最悪の7悪魔」で対抗
=二元論=善は精神界(メーノーグ)と物質界(ゲーティーグ)の両方に宿るが、悪は物質界に限定される
=人間論=善神に創造されたが、悪魔と共に死ぬことで、悪魔を滅却する悲劇的存在
=使徒論=ザラスシュトラが聖呪を伝えて悪魔に対抗
=倫理=聖呪を唱えて聖火を拝む。善の勢力を増すために子孫を繁栄させる
=終末論=善悪の闘争は、人類史以前に決着がついている。人間が悪の要素と心中して世界を浄化し、最終的な復活がある
★3世紀のマニ教
=最高神=偉大なる父ズルヴァーンと暗黒の王アフレマン
=宇宙論=アフレマンがズルヴァーンの王国へ侵入。ズルヴァーンは最初の人間オフルマズドを派遣して対抗
=神々=オフルマズドとアマフラスパンドたちは敗北し、ミフル神が主力になる
=二元論=光は精神を代表し、闇は物質を代表する
=人間論=転落した光の要素を捕囚するために悪魔が創造した呪われた存在
=使徒論=ザラスシュトラを含む使徒多数。マニが最終預言者
=倫理=殺生・暴力・肉食・性交などを禁止し、禁欲主義を推奨する
=終末論=ズルヴァーンが光の要素の大部分を吸収し、宇宙は崩壊、人類は死滅する
★6-9世紀の二元論的ゾロアスター教
=最高神=善神オフルマズドと悪神アフレマン
=宇宙論=アフレマンがオフルマズドの王国へ侵入
=神々=アマフラスパンドたちやミフル神がオフルマズドに助力
=二元論=善と悪が精神界(メーノーグ)と物質界(ゲーティーグ)の両方で対峙
=人間論=悪との闘争のために善神が創造し、最終的に勝利する存在
=使徒論=ザラスシュトラが聖呪を伝えて悪魔に対抗
=倫理=聖呪を唱えて聖火を拝む。善の勢力を増すために子孫を繁栄させる
=終末論=善が悪を圧倒して封印。宇宙と人間は至福に包まれる

時間軸に沿った影響関係としては、「ゾロアスター教ズルヴァーン主義⇒マニ教⇒二元論的ゾロアスター教」と変容した…という風に議論することが可能であるという。近年ではマニ教をグローシス主義の範疇に含めるべきかどうかの再検討も迫られているらしい(=どちらかというと、「グノーシス主義とは別らしい」という意見が半数?)


コメント・メモより転載

マニ教は、ユーラシアにまたがる世界宗教だったのに、ゾロアスター教、キリスト教、シナ教すべてから異教として弾圧されたために消滅してしまったのでした。『シナにつける薬』で若干の考察を試みたのですが、なにしろ資料が不足、十分なことはできませんでした。美月さまもどうか無理はなさいませぬように♪ - 丸山光三
《返信》コメントありがとうございます*^^*(先ほど=2011.7.15-21:01=関東地方で震度5弱の地震が発生して、ギョッとしていたところです。幸いこの近所は震度3でした)資料にしている書籍は随分いろいろ書いてあって、興味深く読み直しているところです。マニ教はどちらかと言うと、当時の様々な宗教を混交した、人工的なハイブリッド宗教だったようです。何となくピンと来る部分があるので、また思案してみる予定です…^^ゞ
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