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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

風水と陰陽道と星神信仰

大陸の風水は、日本列島に渡来すると陰陽道として発展した。この陰陽道には星神信仰がまつわりついている。

荒神(こうじん)=陰陽道では北西(乾)の方角の神とされる。

陰陽道には八将軍と呼ばれる星の神があり、「星が地上に降りて神となる」という考え方がなされていた。当時、流星や隕石が落下したと判断された土地には、「星下り」などという地名が付けられ、星神が祀られた。また、星は金属の素材ともされた。呪術的には「星=金属」の関係がある。

八将軍は「将」という漢字が使われている事から分かるように、軍事や戦争と深く関わった。八つの星から成り、その年によって支配する方角が異なるため、年毎に吉凶の方角が変化するとされた。八将軍は八王子とも呼ばれており、牛頭天王の八人の王子と言う説が加わっている。

八将軍のうち、最も恐れられたのが「大将軍」であり、これは「地上に降りた金星の精(太白星)」とされる。大将軍は吉凶の方角を全て支配し、かつ守護する。「将軍」という官職名は、その霊的猛威にあやかった名称でもあった。

八番目の将軍が「豹尾神」と呼ばれた。地上では「荒神」とされた。豹の尾を引いているから流星の神である。豹尾神が存在する方角に向かって尾のある動物(牛・馬・犬など)を飼ってはならない、粗相をしてはならない、などの禁忌があった。

陰陽道は、星の魔力を操り、帝都を守護する呪術である。風水の考え方によれば、都市や建物は正しい方位に造らないと災いに襲われるという事になっていた。この正しい方位を司ったのが星である。星が地上に降り、神となって帝都を守護するという結論は、このようにして自然に導かれるものであった。

星神は八王子・八将軍と言われるように8柱である。年毎に方位を変えるため、遊行神と呼ばれる。

太歳(たいさい)
十二支の方位に居する。木曜星(歳星〈さいしょう〉)の神格。移転普請は吉。訴訟、伐木は凶。
大将軍(たいしょうぐん、だいしょうぐん)
金曜星(太白)の神格。3年同じ方位に留まるため三年塞がりといい万事に大凶。
太陰(たいおん)
土曜星(塡星〈ちんしょう〉)の神格。縁談出産は凶。
歳刑(さいぎょう、さいけい)
水曜星(辰星〈しんしょう〉)の神格。耕作は凶。
歳破(さいは)
土曜星(塡星)の神格。移転旅行は凶。
歳殺(さいさつ、さいせつ)
金曜星(太白)または火曜星(熒惑星〈けいこくしょう〉)の神格。縁談に凶だが仏事には吉。
黄幡(おうばん)
羅睺(らごう)星の神格。武芸に吉。移転普請は凶。
豹尾(ひょうび)
計都星の神格。豹のように猛々しく、家畜を求めるに凶。大小便も凶。

八坂神社、大将軍八神社、将軍塚といった造成物は、帝都を守護する星の霊威を期待して造成されたものである。

実際、征夷大将軍などの「将軍」は、帝都を守護する軍人専用の官職である。

例えば将軍塚は、桓武天皇の時代、まだ平定されぬ蝦夷からの敵を防ぐために造ったものである。敵の来襲を受けると、塚の中に埋められた鎧人形(将軍)が鳴動して危機を知らせると期待されていた。

平将門もまた「将軍」である。7人の影武者を引き連れていたという伝説があり、影武者を合わせて合計8人となる将門は、星神である八王子(=八将軍)と同一視されていた可能性がある。

将門は殺された後、祟り神と化した。バラバラにされた首や胴体など8個のパーツが、死んだ後も元の体を捜してお互いにさ迷ったという伝説がある。これは、遊行神でもある8柱の星神になぞらえたものと解釈する事もできる。


《簠簋内伝・ほきないでん》

死者を蘇らせる北極星の神の奥義「泰山府君祭」の由来を含む。内容は蘇民将来の伝説である。ここでは、牛頭天王はスサノオノミコトと同一視されている。

つまり、「黄泉の国の支配者たるスサノオ」=「冥府の支配者たる閻魔大王」=「北極星・泰山府君」=「北方に住む牛頭天王」という関係が成り立つ。全て死と復活に関わる神である。

牛頭天王は、八王子=八将軍の父親とされている(つまり、ラスボスである)。牛頭天王の8人の子たる星神、「八王子=八将軍」もまた、陰陽道において、生死に関わる吉凶を司る決定的な存在と考えられたのである。


稲荷と陰陽道には深い関係がある事が指摘されている。実際、陰陽道の名人・安倍清明の母親は、葛葉という名前のキツネ(稲荷)だったとされている。

大将軍系の神社は「辰狐(しんこ)」という神を祀るところが多い。辰狐には八人の童子が居て、第七童子は陰陽道の術を使って人々を助けるとされている。そして辰狐自身も、2人の式神を伴っており、常に遊行して福徳と寿命を司るとされている。この役割は、星神と同じである(昔は、流星をアマツキツネとも言った)。

キツネは、稲の神であると同時に、火を司る神ともされている。この性質から、害虫から稲を守る火、灯台の火、城や砦を照らす篝火といった各種の火の象徴を引き受けた。城や砦との関係では、「将軍」の解釈と連結する事も可能である。

稲荷の御遣いのキツネは、夜になると、狐火を持ってあちらこちらと移動(遊行)する。これは星の火とも同一視されていた。夜間の光は導きの光であり、「火知り」=「聖」との連想も働く。

稲に関わるもう1つの火は、かまどの火である。これは火の神とも荒神とも同一視されている。星神、稲・稲荷、火神、荒神は、こうして連結してゆくのである。


「艮の金神」として知られる神も、恐ろしい荒神であり星神とされている。「金神」は「コンジン」と読むが、古くは「ゴンジン」と呼ばれた可能性がある。古くは、大将軍は「ダイショウゴン」と発音されていた。「ショウゴン神」が省略されて「ゴンジン」である。

大将軍は金星の神(太白星)であるが、これは「土用」の季節を司るとされている。四季節を五行の木・火・土・金・水に合わせると「土」が余る。そこで四季節から終わりの2週間程度の日数を集めてきて、「土用」という第五の季節を作った。

ゆえに「土用」は、最も恐るべき「季節の境目/終わりと始まり/1年の死と復活」なのである。

「艮の金神」は「土用」=「巡回する季節の終わり」を司るゆえに恐れられた。方位で言えば、十二支の終わる方位「戌」「亥」で「乾」、つまり北西である。

「終わり」を汚せば、「始まり」「復活」は無い。だから北西の方位は恐れられた、と解釈できるのである。

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