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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

青銅華炎の章・上古7

【夏王朝の社会と古代シナ王権についてのささやかな研究・考察】

伝説の夏王朝の政治を司ったのは、六卿(りくけい)という組織です。以下のように伝承されており、この仕組みは殷・周も継承していたようです。

  • 冢宰(ちょうさい)は、諸政全般を預かる。いわゆる宰相
  • 司徒(しと)は、人民教化(教育)を担当する
  • 宗伯(そうはく)は、祭祀を行なう
  • 司馬(しば)は、軍隊を統率する
  • 司寇(しこう)は、司法にのっとり、警察を指揮する
  • 司空(しくう)は、国土と人民の掌握を担当する

夏の時代には、すでに工業を専門とする職人集の発生があり、青銅兵器の生産も行なわれていたと言われています。特に武器の生産に携わったのは、地方平定を任された将軍(方伯)だったそうです。そのうち、もっとも勢力を誇った方伯が、後の殷の王となる湯王だったという話があります。

当時の武器は戈、矛、矢じり、大型刃(生贄や捕虜の首を切断するため)などだったと言われています^^;

祭祀に使われるような大型タイプ、あるいは金文を鋳込むタイプの青銅器の製作技術は、殷王家ないしは周王家直属の工房の独占であり、周辺諸侯にはそうした高度な青銅器が製造できなかったと言われています。(高度技術を駆使した青銅器が周辺諸侯に下賜され、周辺諸侯はそれをこっそり真似したようである、という事も、当時の出土物の分析から推測されています)

前1100年頃、従来の青銅に鉛を含ませる方法が始まりました。鉛を含ませると、冷えて固まるまでの時間が延びるため、型の隅々まで青銅を浸透させる事が出来るようになります。霊的威圧のための細かな文様や金文を鋳込む――という需要があって、そのための技術が伸びていった、と考えられます。

青銅器が霊的威圧のための呪術的器具であった事も考慮すると、青銅器の霊威によって正統な王を証しする――という伝統が生まれていても、さほど不思議ではありません。それが、おそらくは、「古代シナ王権」の種子であるのでしょう(「鼎の軽重を問う」などの言い回し)。

夏の時代。〈初代五諸族〉の闘争心は、極めて原始的かつ獰猛なものだったのでは無いでしょうか。

曖昧な区分ではありますが、神話伝説が暗示する〈初代五諸族〉の系統は各々、次のようなものであったようです(もちろん、彼ら〈初代五諸族〉は中原に集結した部族なのであり、他の地域には、他の部族が多く栄えていた筈です。巴蜀地域には巴蜀の民が、沿海州には呉越の民が定着していました)。

  • 「夏」=狄系(コムギ農耕を受け継ぐ。王国を作ったが、殷に滅ぼされた。大柄な体格)
  • 「殷」=夷系(沿海州の夷系。混血。酒を伴う祭祀が多く酒池肉林と批判される。氏姓制度なし)
  • 「周」=戎系(武勇に優れた辺境の牧畜系民族。氏姓制度あり。後に羌と同盟して殷を滅ぼす)
  • 「羌」=羌系(チベット系。辮髪の習俗あり。上古、夏王朝と争うが、敗退。岳神を擁する)
  • 「南」=南系(苗族を含む。最古のイネ農耕を受け継ぐ。祭祀に優れ、殷にも恐れられた)

服属を誓わせるために血の盟約の儀礼が発達したという事象、主従の連結を確実にするために、強力な霊的呪力を発揮する青銅祭祀が発達したという事象…そうした諸々の記録が残っている事に、注意しておきたいと思います。

〈前シナ文明〉時代の「王」の権力は、それ程に曖昧模糊としたレベルであったようです。

(編集から洩れているメモ知識)

1.巴蜀地域の民は、崑崙山脈~青海湖ルートをわたってきた遊牧系民族らしいという話があります。

西域から巴蜀に至るには2つのルートがあり、「西アジア~新彊ウイグル~オルドス地方(西戎の地)を貫いて南下するルート」と、「チベット高原を横断し通天河を経て雲南に至り、そこから巴蜀に入るというルート」とが考えられるそうです。前者が「河西回廊」と呼ばれるのに対し、後者のルートは「遊牧回廊」と言われており、場所柄、やはりチベット系民族が多く見られるそうです。地理的には、インド・アッサム地方とつながっています。

前者のルート=地図を何度も見直してみたのですが、多分、ここが「河西」だろう…というような認識レベルです・汗。アムゼルさまからのコメントで知って、探して、見当をつけてみた…というプロセスなので、どうしても知識不足は否めません。現場の光景は想像するしかありませんし、大地そのものが超・広大なので、圧倒されます…;^^ゞ

四川・雲南は森林地帯だったりするので、住みついた人々も照葉樹林系なのかと思っていたので、意外でした。最初に養蚕を確立したのもここに定着した人々で、「蜀」という漢字の由来なのだそうです^^

なお、華北の絹は細い繊維(三眠蚕)を使った絹であり、華中・華南(淮河以南)の絹は太い繊維(四眠蚕)を使った絹だそうです。そして、日本の古代遺跡(吉野ヶ里遺跡)から出土した絹は、太い繊維(南蚕)のものだという事です…

2.巴蜀王国(仮称)は多くの謎に満ちています。

「遊牧回廊」の東端に、かの三星堆文化が栄えたと言われています。青銅器出土は前1600年以降だという事ですが、どういう訳なのか、技術は殷より上で、古代シナ世界ではダントツらしいです。古代王国の時代に内部抗争があって滅び(前850年頃)、その後、巴と蜀の、2つの民が興ったと言われています。

本当かな?というようなお話ですが、古代巴蜀文字(未解読)は、何と、インダス文字に似ているのだそうです。インダス似の印章も出土しているそうです…^^;

3.南部・長江エリアから出土する青銅器は、殷・周に比べて技術が高いのが多い…という話です。しかもその殆どは呪禁用だったようで、明らかに恣意的(=魔術的)な方法で埋められていたそうです。…壮絶な呪術合戦の存在を想像するものであります…^^;

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異世界ファンタジー試作35

異世界ファンタジー9-6エピローグ

翌日も相変わらず空は曇天に包まれていたが、令夫人の顔は明るかった。

ジル〔仮名〕の狭量で気難しい性格からして、昨夜のジル〔仮名〕とロージーの話し合いが決裂したら、きっと血を見る事になる――と心配でたまらなかったのだが、あにはからんや出て来たのは冬薔薇の花束。それは、頬を染めたロージーの腕の中に収まっていた。

「あの気の利かない息子にしたら、上出来じゃないの」

令夫人は、昨夜以来ずっと気恥ずかしそうな様子のロージーが、タイプライター作業のため部屋に戻った機会を捉えると、早速、息子を、説教部屋もといサンルームに拘束し、昼食時になるまでビシバシと問いただした。

当然、最初に北部辺境の雑木林で巡り合った見ず知らずの女性『ロージー嬢』を、いわば『ローズマリー』と上手くやるための練習相手にしていた――という突拍子もない経緯は、令夫人を呆れさせた。

人知を超越する運命の力が働いたのであろう。ジル〔仮名〕は、『ローズマリー』への時折の手紙や贈り物を欠かさない事からわかるように、その気になれば面倒見の良い性質である。少なからぬ好意を抱いた『ロージー嬢』に対してそれに準ずる態度を取った事は明らかだ、本人同士だったから良かったようなものの、冗談が本気になったら血の雨が降りかねないところである。

この時になって襲撃事件の顛末が明らかにされ、ロージーが怪我をし、記憶が混乱するほどのショックを受けた出来事があったという説明の後、馬車内での告白のエピソードに至った。そこで令夫人は、呆れ果てた余り、こぶしを振り回した。

「あんた一体、何やってるの…ホントにバカよね!おバカさんよね!」

ジル〔仮名〕は小首をかしげ、黒髪を片手でかき回した。苛立たしくなる程の非人間的な無表情だが、令夫人は知っていた。ジル〔仮名〕が困惑したり赤面したりする代わりに、この仕草をする事を。

――令夫人の説教が、一段落した後。

「昨夜、《宿命》の盟約を交わしたので、正式な婚約指輪に交換したいと思います」

そう言って、ジル〔仮名〕は、珍しく心からの綺麗な笑みを浮かべたのであった。

《了》


《異世界ファンタジー試作連載/あとがき》

今回のファンタジー物語を思いついた「きっかけ」は、夢の中のストーリーです。いつ見た夢かは覚えていませんが(今年に見た夢です)、「これは絶対に物語になる」と確信しました

記憶に残っている場面はランダムで、時系列も滅茶苦茶な状態だったので、場面のポイントをザッとメモした後、時系列を推測しながらストーリー順番を整理しました

夢で見た情景は、主にフルカラー系の場面と薄暮(グレー&オレンジ系)の場面が多く、人物より風光の方が、存在感が強烈でした。物語の初めの頃の場面で、「紅葉シーズンの雑木林」が出て来ます。これも、夢の中で見た情景をできるだけ描写してみた物です

特に強い印象に残った夢の中の情景は、「抜けるような群青に近い真っ青な青空を背景に、万年雪をいただいてそびえる、高く巨大な山脈」であります。このたびの物語を彩る底流的なイメージになりました。物語の中では「雪白の連嶺」という名前で登場します

ユーモアイラスト:おじさん「友よ」

おじさん同士のラブシーンを、ユーモアたっぷりに。

電車の中でよく見かける平均的なオジサンを適当にモデルにしています。

Shall we ダンス?』のワンシーンを参考にして、(色っぽいと思う)真剣なラブシーンに仕立ててみました。

「おや?偶然、誰かさんに似てる?」とか、そういうツッコミは、無しです…(もしかして似てしまったかも知れない、未知のオジサンの名誉のためにも)

※これから日本は高齢化社会になるので、こういう「仲良し」も案外増えるかなと…

「目撃した人がどう思うか?」は抜きにして、結構、いろいろ、楽しかったです♪