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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

標準理論:対称性の拡張~大統一理論GUT

「群」とは、数字などの数学的な「要素」と、その間に働く「演算子」を持ち合わせた集合の事を云う。群論は、こうした群を扱う数学である。標準理論における対称性の拡張を考える時、この群の概念は重要である。

◇群のルール:整数「…-2、-1、0、1、2、…」と演算子「+」の群の場合

  • 0のように、どの要素に作用してもその要素の値を変えない「単位元」がある/例:0+3=3
  • どの要素にも「単位元」に戻すような対となる要素が存在する/例:3+(-3)=0
  • どの2つの要素同士を作用させて出て来た値も、集合内の要素の1つである/例:3+2=5、5も整数である
  • 3つの要素のうち、[1つ目を2つ目に作用させた結果に3つ目を作用させた結果]と、[2つ目を3つ目に作用させた結果に1つ目を作用させた結果]は、一致する/例:(1+2)+3=1+(2+3)=6

以上のように、例えば「奇数」と「演算子(+)」の集合の場合は、群では無いと言える

◇可換群と非可換群の違い

例:正三角形の対称性の群
※回転操作(時計回り120°回転)を「回」とする
※反転操作(左右方向に鏡像反転)を「鏡」とする
――元の三角形をe(単位元)とすると、正三角形の対称性は次の6個の要素を持つ群を成している:{e, 回, 回2, 鏡, 鏡回, 鏡回2}
(ここでは、鏡回=回2鏡, 回鏡=鏡回2

図で見ると分かるように、[鏡回操作を施した正三角形]と[回鏡操作を施した正三角形]は異なる。このように操作の順番を選ぶ群を「非可換群」と呼び、標準理論など量子的な理論を構築するうえで重要な役割を果たす。

◇標準理論~力の統一に伴う群の拡張

標準理論など量子的な理論では、「行列」を要素として持つ群を扱う。一般的には非可換。

ユニタリ群U(n)…nは行列Uが持つ次元。U=「unitary(単元)」の頭文字。

  • U(1)…1次ユニタリ群。幾何学的には複素平面上の単位円の回転上の点の集合を表す。要素は1つの成分(偏角θ)のみで表す事ができる。ちなみに、U(1)は回転の順番を変えても結果に影響しないので、「可換群」
  • U(2)…2×2の行列によって、2つの成分を、複素2次元空間の中で大きさを変えずに変換
  • U(3)…3×3の行列によって、3つの成分を、複素3次元空間の中で大きさを変えずに変換

標準理論では特に「SU(n)」「特殊ユニタリ群」を用いて論じる。S=「Special(特殊)」の頭文字。特殊ユニタリ群SU(n)は、ユニタリ群U(n)の部分群である。複素n次元空間上にある仮想的な立方体(一辺の長さ=1、体積=1)が、回転(変換)後も「体積=1」を保つような特別な変換であるので、「Special-Unitary」。

SU(n)の自由度=任意に設定できるパラメータ数=n2-1個
――SU(2)ではパラメータ3個、SU(3)ではパラメータ8個
  • U(1)…例:電磁相互作用(光子、1成分…アイソスピンもカラー荷も持たない)
  • SU(2)…例:電子スピン(2成分)、弱い相互作用(弱アイソスピン、2成分)
  • SU(3)…例:強い相互作用(カラー荷、3成分)

電磁相互作用、弱い力、強い力を統合した大統一理論GUTを構築する場合は、標準理論における3つの群を統合する⇒SU(3)×SU(2)×U(1)を含む事が必須条件。この拡張された群のうち最小の物がSU(5)。

SU(5)⊃ SU(3)×SU(2)×U(1)

――「電磁相互作用」と「弱い相互作用」を統一⇒「電弱統一理論」

弱い相互作用について「弱アイソスピン」を想定する(これは、強い相互作用において「アイソスピン」を想定したのと同じ手法である)。

電子と電子ニュートリノは、状態が異なるだけで本質は同じ粒子であるとする。「電子=弱アイソスピン下向き」の状態、「電子ニュートリノ=弱アイソスピン上向き」の状態。弱アイソスピン空間内の回転で互いに移り変われると考える。

2種類のフェルミオンのペアの間の相互作用を考えるため、弱アイソスピン2成分を変換するSU(2)を設定する。これにゲージ原理を適用する。そうすると、弱アイソスピンのゲージ理論からは、力を媒介する3つのベクトルボソンが導ける。

次に、対称性を拡張して、弱い力のSU(2)ゲージ場と電磁力のU(1)ゲージ場を結合する。

この拡張されたゲージ対称性は、積の形「SU(2)×U(1)」で書かれる。このゲージ理論からは、光子と3つのウィークボソン(ゲージ粒子)W+、W-、Z0が導かれる。


――標準理論の要「自発的対称性の破れ」…粒子が質量を持つ機構について

電弱統一理論の方程式には、ゲージ粒子の質量を表す項が追加されているが、弱い力のSU(2)ゲージ粒子の質量をうまく説明できない(無限大の困難が生じる上、繰り込み可能な理論になっていない)。

これを解決したのが、「自発的対称性の破れ」いわゆる「ヒッグス機構」である。

「自発的対称性の破れ」とは、ある対称性を持った系が、エネルギー的に安定な真空に落ち着くことで、その対称性が破れる現象の事である。この現象は素粒子理論以前にも発見されている。超電導は「自発的対称性の破れ」で説明できる現象である。

素粒子物理学では、「自発的対称性の破れ」が起きると、必ず質量0、スピン0の粒子が出現する事が示されている。ヒッグス機構は、「このスピン0の粒子が出現する代わりに、その自由度を元々質量0であったゲージ粒子の質量に転換できる」というものである。電弱統一理論は、「ヒッグス機構」を備える事で完成した(ワインバーグ=サラム理論)。

ワインバーグ=サラム理論は、だいたい、以下のような事を記述する。

(1)電子&電子ニュートリノの対(或いはミューオン&ミューニュートリノの対)の運動方程式は、「局所的SU(2)×U(1)ゲージ対称性」を満たしている。この段階では、S(2)の3つのゲージ粒子とSU(1)の1つのゲージ粒子は全て質量0の状態である。

(2)局所的SU(2)×U(1)に、4つの成分を持つヒッグス場を導入する。この4成分は、SU(2)×U(1)のゲージ対称性とゲージ粒子の数を考慮した物である。

(3)ヒッグス場のポテンシャル(滑らかなWのような形)は、中央部分が安定な状態で無いため、ゲージ粒子は、すぐに最も低いエネルギー状態に落ち込んでいく。つまり場は、0以外の値を取る。これが「自発的に対称性が破れた状態」である。

(4)「自発的対称性の破れ」によって、ヒッグス場の4成分のうち、3つがSU(2)の3つのゲージ粒子の質量となり、ヒッグス場の余った成分がヒッグス粒子として残る。元々あったSU(2)×U(1)のゲージ対称性が破れた後は、電磁力のU(1)ゲージ対称性だけが残る。つまり、光子の質量のみが0である。

(5)ゲージ対称性が自発的に破れる前は、カイラル対称性も満たしている状態である(※弱い相互作用は左と右を区別する「カイラル」である。左巻きしか存在しないニュートリノ以外のフェルミオンは、右巻き・左巻きスピン成分が混合した状態=「カイラル対称性」)。ヒッグス場の状態が変わってゲージ対称性が破れる⇒カイラル対称性も破れる。結果として、フェルミオンは質量を持つようになった。

※電子の場合:

左巻きeL、右巻きeRという2つの状態が仮にあるとする。左巻き電子には弱い相互作用が働くので弱電荷を持つ状態になるが、右巻き電子には弱い相互作用が働かないので電荷を持たない。

カイラル対称性を満たしている(質量0)時は、左巻き・右巻きが混じり合っている状態。

このような電子がヒッグス場と相互作用すると、スピン状態が左巻き→右巻き→左巻き…と転移して行く事になるが、これは、「弱電荷が生じたり消えたりする(弱電荷が保存されない)」という過程である。カイラル対称性が破れたために起こる現象である。

このスピン状態の転移が、電子の動き(加速度)に対する抵抗力となり、光速より遅くなる。これが電子の(慣性)質量の起源である。

◇「強い力」の起源~量子色力学

クォークモデルの困難⇒分数電荷の問題、スピンの問題

例:Δ++粒子におけるクォークの組み合わせuuu、Ω-粒子におけるクォークの組み合わせsss

クォークはスピン1/2を持っているので、3つのクォークのスピンは全て同じ向きを向いていなければ、Δ++粒子やΩ-粒子のスピン3/2を構成する事はできない。しかし、クォークはフェルミオンであるので、Δ++粒子やΩ-粒子のスピン3/2に関わるクォークのスピンの向きは、フェルミオンが満たすべき「パウリの排他原理」に反している。

この矛盾を解決するため導入されたのが、3つの「カラー荷」と呼ばれる内部自由度の概念である。カラー荷(赤、青、緑)が組み合わさって白色になった場合のみ、観測可能とする。

これで記述すると、

  • Δ++粒子におけるクォークの組み合わせuuu
  • Ω-粒子におけるクォークの組み合わせsss

となり、スピンが同じでもカラー荷が違うため、同じ状態にはならず、パウリの排他原理を満たしていると解釈できる。

「カラー荷」は3つの自由度を持つ事から、SU(3)対称性に基づくクォークのゲージ理論を構築できる。このゲージ理論から導かれる「力の媒介粒子(ゲージ粒子)」が、「グルーオン(質量0)」である。

SU(3)のパラメータは8個であるから、8種のグルーオンが存在する筈であるが、赤、緑、青のカラー荷を持つため、クォークと同じように、直接には観測に掛からない。

――量子色力学から導かれる「クォークの閉じ込め」

クォーク同士を引き剥がした場合、電磁力とは違い、「強い力」は距離と共に減衰せず一定値を保つ。従って、クォークを引き剥がすために投入されるエネルギーは、クォークの距離と共に増大し、真空から新たにクォーク・反クォークのペアを作り出すエネルギーになる。新たに生成されたクォーク・反クォークのペアは、引き剥がされたクォークとカラー荷の総和が白色となるように結び付き、新たなハドロンのペアとなる。

これが「クォークの閉じ込め」である。このため、グルーオンは無限大まで到達する事ができず、核の外には働かなくなる。

――量子色力学から導かれる「漸近的自由性」

クォーク同士が近づくにつれ、その間に働く力は弱くなる。無限小の距離では力は全く働かなくなる。すなわち、核の中のクォークは、力に束縛される事なく自由に動き回っている状態である。


★標準理論が抱える問題…大統一理論GUT(=電磁力、弱い力、強い力の統一理論)は、まだ完成しているとは言えない。

※標準理論の正確さを検証するため、ハイパーカミオカンデで陽子崩壊の観測が計画されている
http://www.hyper-k.org/physics/phys-protondecay.html

◇ヒッグス粒子の質量に関する根源的な謎

重力を統合する際の「階層性問題」に関わる。量子重力に関わるプランクエネルギーのスケール~1019GeVと電弱統一エネルギーのスケール~102GeVとの間には、1017ものスケールの乖離がある。

このような大きすぎるエネルギースケールの乖離を扱うのは、困難が伴う。これが「階層性問題」である。

最近の実験でヒッグス粒子の質量は125GeVと求められている。これを標準理論に投入してヒッグス粒子の質量の高次補正を求めようとすると、標準理論が扱えるエネルギー限界を超えてしまうのである(発散)。

つまり、ヒッグス粒子の質量は、量子重力理論のような根源的なレベルで無いと、高次補正を加えた理論値を弾き出せない事を示している…と見えるのである。

しかし、プランクエネルギーのスケール1019GeVから、一気にヒッグス粒子質量125GeVに収束するような――1017ものエネルギースケールの乖離を解消するような物理学的なプロセスがあるのかどうかは、今でも分かっていない。

現在時点では、数学的には、標準理論を高エネルギーレベルまで拡大した改良版=SU(5)ゲージ対称性を満たす超対称性理論(supersymmetry,SUSY)が有望視されている。

◇その他の謎…重力の謎、消えた反物質の謎(この宇宙には、何故、物質しか残っていないのか)、暗黒物質や暗黒エネルギーの正体

量子重力理論、超ひも理論、ブレーン理論など、幾つかの候補が考案されている。

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標準理論:強い力と弱い力

標準理論は、素粒子の振る舞いや、素粒子が質量を得る機構を組み込んだ、矛盾のない理論体系として組み立てられた理論です。

この標準理論が描く宇宙誕生の様相は、以下のような物になります:

  1. およそ138億年前、ビッグバン
  2. 誕生直後の宇宙=「ゲージ対称性」に支配された物理学の時代。すべての粒子が質量を持たず、光速で飛び回っている状態
  3. 100ピコ秒(1/100億秒)後=「ゲージ対称性」の破れ、素粒子が質量を持つ
  4. 以降~=宇宙の膨張と共に、これらの素粒子の速度が充分に遅くなると、クォークが結びついて陽子や中性子となり、原子核、原子となり、物質が形成されて行く
標準理論の要
「ゲージ原理」…場の理論(波動関数の量子化)での「ゲージ対称性」(複素平面上の回転対称性)/ネーターの定理が通用する
「繰り込み可能性」…計算の発散を食い止める機構
「自発的対称性の破れ」…粒子が質量を持つ機構

――標準理論の構築は、ディラックの相対論的量子力学からスタートしました。

相対論的量子力学(電子スピンの導出)⇒量子電磁力学(電子と電子場の相互作用を記述する場の理論)⇒量子電磁力学が「弱い力」を統合+量子色力学が「強い力」を記述⇒標準理論として統合

こうして構築された標準理論では、多種類の素粒子がスピンの分類で綺麗にまとまります。

  • スピン1/2を持つクォークや電子などの「フェルミオン」=「物質を構成する素粒子」
  • スピン1を持つ光子やグルーオンなどの「ボソン」=「力を媒介する素粒子」/ローレンツ変換に対してベクトルとして振る舞う「ベクトルボソン」
  • スピン0を持つヒッグス粒子は「ボソン」に分類される=「素粒子の質量の起源」/ローレンツ変換に対して不変「スカラーボソン」

――標準理論の要「ゲージ原理」…「ゲージ対称性」について

ネーターの定理「ある物理系が連続的対称性を持っている時、それに対応する保存則が存在する」

ある物理系を記述する運動方程式が――
――時間並進対称性を満たす時⇒エネルギー保存則
――空間並進対称性を満たす時⇒運動量保存則
――回転対称性を持っている時⇒角運動量保存則

電荷の保存則の場合、次のようになる:
量子電磁力学で記述される方程式(複素波動関数)において、位相変換に対して不変という「ゲージ対称性」を満たす⇒電荷の保存則

――量子電磁気力学=電子と電磁場の相互作用を量子化した「場の理論」。電子の波動関数と同様に光子の波動関数を考え、それを場として量子化し粒子性を出す理論。ディラックの理論を基礎にしている。「場の量子論」「量子場の理論」とも。

"場"とは、時空の各点で定まる物理量の事で、数学的には「時空の関数」として記述されます。物理量はスカラー、ベクトル、テンソルという形を取るので、それに応じて、スカラー場、ベクトル場、テンソル場で記述されます。例えば、電子はスピノル場で記述され、光子はベクトル場で記述されます。

電子の状態はディラック方程式(波動関数)で記述されますが、この波動関数は複素数で表されており、その絶対値だけが物理的に観測可能な量になります。

波動関数には複素関数としての位相がありますが、これは絶対値に影響しないため観測できません。つまり、波動関数の位相を任意に取っても、観測される物理量は不変という事になります。

波動関数の位相を任意に取るという作業――物理的には「観測に掛からない変換」ですが、数学的には(複素関数の中では)確かに位相変換が為されているのであり、これを「ゲージ変換」と呼びます。

複素平面の記述(Wikiより)

  • 動径(絶対値):r=√(x2+y2)=|z|
  • 偏角(位相):θ
  • 極形式:z=r(cosθ+i sinθ)=re
    • オイラーの公式:e=cosθ+i sinθ
    • 「複素平面上の回転(位相変換)」=「ゲージ変換」⇒U(1)群に相当

つまり、電荷の保存則の源となる「ゲージ対称性」は、幾何学的には、「複素平面上の回転対称性」と理解する事が出来ます。ディラック方程式は、U(1)ゲージ対称性を持つ…とも言えます。

このようにして、電磁力の機構は、「ゲージ原理」で美しく解明する事が出来るのです。「対称性」のたまものです。

更に、標準理論では、「強い力」「弱い力」も、「対称性」すなわち「ゲージ原理」で理解する事が出来ます。

――標準理論の要「繰り込み可能性」…計算の発散を食い止める機構について

量子電磁力学の方程式は、ディラック方程式に電子と光子の相互作用の項を付加した形です。数式そのものは単純ですが、実際に解くには、特別な手法が必要になります。

それが「摂動法」です。これは、最低次の近似計算からスタートして、第1次近似の項を加えて補正、第2次近似の項を加えて補正…という風に、順繰りに補正を繰り返して精度を高めていくという方法です(かなり面倒で、高次補正を掛けようとすると、スーパーコンピュータの計算能力が必要になって来ます)。

この摂動法が成り立つためには、高次の補正項が次第に小さくなっていって、全体として収束する必要があります。

しかし、量子電磁力学の計算では高次の補正項が収束せず、理論値の精度を高めようとすると、計算結果が無限大になる(発散する)という困難がありました。

そこで朝永振一郎やファインマンらが、めいめいに困難を解決しました。今日では「繰り込み理論(renormalization;再規格化)」と言います。

  1. 量子電磁力学の式では、電子の電荷と質量がパラメータ(未知数)になっている
  2. 摂動法を適用し、仮に決めた電荷「裸の電荷」と質量「裸の質量」を式に投入
  3. 電荷や質量に対して高次補正を計算
    • ⇒「裸の電荷」+「高次補正の分」=「電荷の実測値」
    • ⇒「裸の質量」+「高次補正の分」=「質量の実測値」
  4. 結果的に、電荷・質量ともに、補正項が持つ無限大は、裸の値が持っていたと考えられる負の無限大と相殺して解消されるとする

この「繰り込み処方」による理論値と、実測値との一致は、最新技術による精密測定では10億分の1以下の精度まで確かめられています。

数々の素粒子の振る舞いを探るうち、核に働く相互作用「強い力」「弱い力」が浮上して来ますが、これらの相互作用を説明する理論体系では、粒子が持つべき質量をうまく生成できない事が明らかになって来ました。

この「質量の起源」の問題を解決したのが、標準理論で記述される「自発的対称性の破れ」、すなわち「ヒッグス機構」です。


◇「強い力」「強い相互作用」~ハドロン(バリオン&メソン)を成り立たせている結合力

ハイゼンベルクは、原子核(陽子&中性子の塊)を成り立たせている力に付いて、化学結合の場合と同じように、陽子と中性子の間で電子が交換される事による「交換力」を想定しましたが、電子には、原子核の結合力の条件を満たす程の力は、ありませんでした。

※ハイゼンベルクの想定⇒原子核を成り立たせている結合力は、量子力学的に「交換力」で説明されるとする。陽子と中性子は「核子の異なった状態」であるとし、めいめいの状態を「アイソスピン」で記述する。陽子は上向きアイソスピン、中性子は下向きアイソスピン。

湯川秀樹は、核子の間で力を媒介する粒子があると考えました(中間子説)。この粒子の質量は、計算によると電子質量の270倍となりました。核子と電子の中間くらいの質量であったので「中間子」と呼ばれました。

今日では、この粒子は「π中間子(π+, π-0)」と言います。ハドロンの一種「メソン」に分類されています。

ハドロン一覧
【バリオン(3種のクォークの組み合わせ)】…核子、反核子、Δ(デルタ粒子)、Λ(ラムダ粒子)、Σ(シグマ粒子)、Ξ(グザイ粒子)、Ω(オメガ粒子)
【メソン(2種のクォークの組み合わせ)】…π(パイ中間子)、K(ケー中間子)、ρ(ロー中間子)、J/ψ(ジェイプサイ中間子)、Υ(ウプシロン中間子)、η(イータ中間子)、φ(ファイ中間子)、ω(オメガ中間子)、θ(シータ中間子)、B(B中間子)、D(D中間子)、T(T中間子)

※クォークモデル=初期は、3種のクォークの組み合わせで全ハドロン(バリオン&メソン)の存在を説明した。現在では、ハドロンは、6種類のクォーク(スピン1/2のフェルミオン)とハドロン内部で強い相互作用を伝播する8種類のグルーオン(ゲージ粒子の一種)とから構成されるものとして考えられている。


◇「弱い力」「弱い相互作用」~核の崩壊を引き起こす力

放射性崩壊
【アルファ崩壊】…原子核がヘリウム原子核を放出する放射性崩壊。放出されるヘリウム原子核をアルファ線(α線)と呼ぶ。
【ベータ崩壊】…原子核の核子(陽子または中性子)が他の核子に変化する放射性崩壊の総称。主に、原子核の中性子が陽子に変化する崩壊(β-崩壊)を指す。このβ-崩壊において放出される電子線をベータ線(β線)と呼ぶ。
【ガンマ崩壊】…励起状態の原子核の持つ余剰なエネルギーを電磁波として放出することで、原子核のエネルギー状態を安定化させる変化をガンマ崩壊と呼ぶ。放出される非常に波長の短い電磁波をガンマ線(γ線)と呼ぶ。電磁相互作用が原因である。ガンマ崩壊はアルファ崩壊・ベータ崩壊とは異なり、陽子や中性子の数は変化しない。

アルファ線とガンマ線は一定のエネルギー値で観測されますが、ベータ線は連続的なエネルギー値で観測されます。この謎について、パウリは「観測に掛からない非常に軽い中性の粒子がベータ線と共に出ている」と解釈しました。

この「観測に掛からない非常に軽い中性の粒子」が、「ニュートリノ(スピン1/2ℏ)」です(フェルミが名付けた)。

弱い力の源となる粒子はW粒子と呼ばれ、負の電荷と、非常に大きな質量を持つとされました(媒介粒子が重い場合は、力の到達距離が短くなり、結果的に相互作用が起こりにくく、見た目には「弱い力」に見える)。

クォークモデルによるベータ崩壊の説明:
中性子nの中のダウンクォーク(d、電荷-1/3)がW-を放出し、アップクォーク(u、電荷+2/3)に変わる現象。
後に、実験によって正しさが確かめられた。W-はゲージ粒子の一種。

(ベータ崩壊図、Wikiより)

この「弱い力」は、左巻きスピン状態にのみ作用するという特性を持ちます。したがって、ニュートリノには左巻きスピンの物しかありません(反ニュートリノ⇒右巻きスピン)。

この左右を区別する「弱い相互作用」の特性を、「カイラル対称性を持つ」と言います。理論的に、フェルミオンの質量の由来につながっていく性質であります。

レプトン(スピン1/2のフェルミオン)一覧
⇒荷電レプトン…電子、ミュー粒子、タウ粒子(いずれも電荷1)
⇒ニュートリノ…電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ(いずれも電荷0)
ゲージ粒子(スピン0のボソン)一覧※相互作用の力を媒介する粒子
※電磁相互作用…光子γ(電荷を持つレプトンとクォークに働く)
※弱い相互作用…W±ボソン、Z0ボソン(レプトンとクォークに働く)
※強い相互作用…グルーオンg(クォークにのみ働く)

スピン状態の場~時空の幾何学

話は原子スペクトル線にさかのぼります。

飛び飛びのラインとなって輝くと言う原子スペクトルの振る舞いは、ニュートン古典力学では記述できない現象でした。ボーアの原子モデルが原子スペクトル現象を上手く説明しましたが、ボーアの原子モデルに出て来る不明点(何故、決まった電子軌道しか無いのか?)を解決したのが、ハイゼンベルクとシュレーディンガーです。

ハイゼンベルクは、行列を用いて、位置xや運動量pなどの物理量を記述した運動方程式を提唱。

シュレーディンガーは、波動関数を用いた波動方程式Ψを提唱。この方程式では、位置xや運動量pなどといった物理量に、それぞれ特有の演算子が対応付けられるようになっています。

ハイゼンベルクとシュレーディンガーの提唱したスタイルは、外見は異なっていますが、中身は全く同じ事を言っています。

古典力学では、位置xや運動量pと言った物理量は、ただの数なので、xp=pxというように、数式の中で交換する事が可能です。xp-px=0です。しかし量子力学ではxp≠px、xp-px=iℏとなります。こうした交換関係を、非可換と言います。

xp-px=iℏ

この記述(非可換である事を示す記述)は、物理的には以下のような意味を持ちます:

  • [位置x]と[運動量p]を同時に確定する事はできない
  • [位置の測定精度]×[運動量の測定精度]≧ℏ/2・・・「不確定性関係」

ここで、改めて、原子スペクトルが飛び飛びの値を取るのは何故か――を考えてみます。

電子の持つ軌道角運動量をlとします。x軸、y軸、z軸に対応する3つの成分を含むベクトル量です。

lr×p

この意味記述は、古典力学と共通のルールです。ここでのrpも、x軸、y軸、z軸に対応する3つの成分を含むベクトル量です。

量子力学を支配する不確定性原理により、各成分を同時に測定する事は出来ません。この条件の中では、軌道角運動量の大きさlは、1つの成分だけ測定可能と言う風になります。ここでz成分を採用し、これを磁気量子数lzとします。

角運動量は量子化されているので、軌道角運動量lの取れる値は、0ℏ、1ℏ、2ℏ、3ℏ…という整数値のみ。

ゆえに、磁気量子数lzは、-lから+lまでの間の整数値に限定されます(lzが取れる値の数は、2l+1個である)。

以上の考え方をシュレーディンガー方程式に適用すると、「主量子数n」が出て来ます(n=1、2、3、…)。

この主量子数nがボーアの軌道番号に相当する物で、原子内部の電子のエネルギー準位は、この主量子数nで決まります。

n=1の状態が、最もエネルギー準位が低く、安定している状態。nが大きくなるにつれて、エネルギー準位も上昇。なおかつ、「軌道角運動量l<主量子数n」であります。

電子軌道が励起されることによって高エネルギー準位になり、そこから低いエネルギー準位に落ち込む時、飛び飛びの量子数に伴って、このエネルギー差が、電磁波として放出されます。原子スペクトルが飛び飛びの値を取るのは、これが理由なのです(例:水素原子スペクトルのバルマー系列、パッシェン系列、ブント系列etc)。

そして、ここで新たに浮上する謎は、ゼーマン効果。磁場中で原子スペクトル線が分裂する現象です(ゼーマン効果=スペクトル線が3本になる、異常ゼーマン効果=スペクトル線が3本超・多数になる)。

しかし、電子が持つ軌道角運動量からは、奇数個の磁気量子数(2l+1個)しか出て来ません。2本に分裂するスペクトル線は、電子の自由度に由来すると考えられました(=電子の二価性)。

この余分な自由度を「古典的記述が不可能な二価性」と見抜き、説明したのは、パウリです。この説明が「パウリの排他原理」です。

量子力学に、「電子の二価性」と「パウリの排他原理」を取り入れると、原子の安定性や元素の周期表がキッチリ説明できるようになります。ただし、「パウリの排他原理=同じ量子状態には2個以上の電子は存在できない」は、現代物理学の謎です(まだ解明されていない)。

「古典的記述が不可能な電子の二価性」が、回転の概念からどのように生じるか?――

まず、物体の回転を、一般的な座標軸の回転として数学的に記述してみます:

  • 3次元ベクトルJ=(Jx, Jy, Jz)――これで、空間内の全ての回転を表現
    • Jx=x軸まわりの回転
    • Jy=y軸まわりの回転
    • Jz=z軸まわりの回転

次に、Jの各成分について、量子力学の交換関係を適用し、許される電子の量子状態を求めると:

J値=0、1/2、1、3/2、2、…(軌道角運動量では解釈できない半整数値が含まれてくる)

ここで、

もっとも単純な半整数J値=1/2の場合、Jの持つ成分の一つ磁気量子数Jz=-1/2、+1/2

これを電子が持つ二価性の元と考えると、原子スペクトル線の分裂(ゼーマン効果)を上手く説明できるようになります。

この、電子が内在的に持つ回転成分(自転に対応するように見える成分)を、「スピン」と言います。

そして、1/2角運動量は0を除く最小の角運動量であり、1/2角運動量からあらゆる角運動量が合成できる…と言えます。

  • スピン角運動量+1/2状態=上向きスピン、または右巻きスピン
  • スピン角運動量-1/2状態=下向きスピン、または左巻きスピン

しかし、電子の自転(スピン)を、古典力学における惑星の自転運動と同じように考えると、光速より速い自転速度を考えなければならず、相対論との矛盾が生じてしまいます。パウリは、新たな空間を想定する事で、この困難を解決したのです。

パウリは、「スピンは、我々が認識する通常の空間内の回転では無い」と解釈しました。パウリが想定した空間は「複素2次元空間」です。これは、虚数(イマジナリー・ナンバー)の成分を併せ持つ空間です。

パウリが考案した2×2の「パウリ行列」は、電子のスピン状態を、右スピンと左スピンの2成分を持つ2次元複素ベクトルで表しています。

電子のスピンとは、複素2次元空間における回転であります。

量子力学では、スピン1/2とスピン1/2とを合成すると、角運動量1と角運動量0が得られます。複素2次元空間におけるスピン角運動量と、実空間における角運動量との間の対応関係を計算してみると、次のようなことが分かります。

実空間における1回転は、複素2次元空間における半回転に相当します。したがって、3次元空間内で1回転(360度の回転)した時、複素2次元空間内のスピンの向きは半回転、つまり逆を向いている状態(180度の回転)です。スピンの向きが元に戻るには、実空間で、更にもう1回転する必要があります(実空間において総合720度の回転が必要)。

このスピンが住まう時空は、数学的にはリーマン面で表す事ができます――通常の時空から見ると、幾何学的には、2重構造を持つ時空となります。スピンの向きを回転して、元の向きまで戻って来るには、通常の時空で2回転しなければならない事が見て取れます。


リーマン面(Wikiより)…場の理論においては「スピノル場」波動関数の幾何学的構造である

これが、電子の「古典的記述が不可能な二価性」の本質です。

電子スピンの状態量は、複素2次元空間ベクトルで表されますが、量子力学の方程式に従う特殊な変換性を持つ量なので、「スピノル」と呼ばれます。2つのスピノルから通常の1ベクトルを構成する事が出来るので、スピノルは「半ベクトル」とも呼ばれます。

粒子の持つ、この摩訶不思議なスピノル性は、ディラックの相対論的量子論(ディラック方程式)で説明されます。

ディラックは、量子力学をミンコフスキー時空で構築し直したのです。ディラック方程式を解くと、パウリの行列式と2成分のスピノルが現れます。つまり、相対論的量子力学によって、電子の1/2スピンを自然な形で導けるという訳です。

※ミンコフスキー時空は虚数軸を含む4次元ユークリッド空間です。そこでは、世界長さsは、3次元空間における距離を4次元空間に拡張した量であり、次の式で定義されます。

s2=x2+y2+z2+(ict)2

ローレンツ変換は、ミンコフスキー時空においては回転で表されます(4次元ユークリッド空間における虚数軸と他の実数軸との間の回転)。

実際は、ディラック方程式を解いて得られる解(波動関数)には、正のエネルギーの解と負のエネルギーの解があります。そして、4成分のスピノルがあります。

4成分のスピノルのうち2つは正のエネルギーを持つ電子の自由度と解釈され、残りの2つは負のエネルギーを持つ電子に由来する自由度と解釈されました。

負のエネルギーを持つ電子の海が「ディラックの海」です。そこで1つの状態に空きが出来た場合、欠けた負のエネルギーの分が正のエネルギーとなって観測されるとするのです。こうして、観測に掛かる反粒子(陽電子)の存在が予言されました。そして、後に、宇宙線の観測から陽電子が発見されました。

ディラック方程式が含む4成分のスピノルは、更に「超対称性」につながる興味深い内容を暗示しています。

相対論におけるベクトル(位置ベクトルや運動量ベクトル)は、4元ベクトルです。これはローレンツ変換の規則を満たす量で「ローレンツ共変量」と呼ばれます。複数のベクトルを組み合わせたテンソルもローレンツ共変量です。

世界長さや質量はローレンツ変換に対して不変な量で、ローレンツ不変量、ローレンツスカラー、スカラーなどと呼ばれますが、これもローレンツ変換の規則を満たしており、「ローレンツ共変量」として扱います。

ディラックの4成分のスピノルは、特殊相対論とは異なるローレンツ変換性を示しますが、それでも「ローレンツ共変量」の一種です。更に特殊相対論における種々のベクトルとは異なり、「古典的記述が不可能な二価性」を持っています。

――つまり、ディラックのスピノルは、パウリのスピノルと同様な「半ベクトル」なのであり、なおかつ、「最も基本的なローレンツ共変量」なのです。