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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

命の闌曲…「チハヤフル」考

「桜の花の満開の下」というのは、特別な、濃厚な気配に満ちている。

チハヤフル――祝祭の時空である。

桜の花が満開になり、そして散り落ちるまでの過程。不動の樹木が発するもの、それは、動物である人類を圧倒する程の、濃厚な生気に満ち溢れているものなのだ。人によっては、神秘的な意味での「生の爆発」を感ずるものもあるかも知れない。

それは、オーラであり、霊気であり…梶井基次郎が「桜の樹の下には屍体が埋まっている」と書いたように、死と隣り合わせの狂気や妖気すら感じられる、というのもあるだろう。

桜の花が散り乱れるときの、凄まじい「気」の奔流――それは、霊気というような静的なイメージで想起され語られることは、決して無い。生きてあるものの霊威、霊力、或いは神威――それは、「猛っているもの」として語られるものなのだ。

「たける」という言葉は、「猛る」、「長ける」、「闌ける」――などというように、或る語感を持った漢字で書かれるが、そこには、古代日本人が持っていた命の哲学、神観念といったものの一端を窺うことが出来る。

中世の頃、高度に発達した舞踏の芸術「能」には、「闌位」という概念がある。「闌(た)けたる位(くらい)」――「闌位」。そして「乱曲(闌曲)」とは、全ての曲風を含み、なおかつそれらを超越した曲。世阿弥が最高の曲風とした音曲である。

「乱曲(闌曲)」と、古代の神観念と、舞い散る花との間には、深い関係がある。

猛るもの、闌けるもの――闌曲。乱れる曲。むせ返るほどの命の霊気――それは、もはや霊威と言っても差し支えない程の激烈なものである――それに触れるとき、人は正気を失って「物狂い」になると、中世の日本人は考えた。

一瞬の中の永遠――その中を猛り、舞い狂い、生成消滅する命――そして荒らぶる神々。

能の物狂いは、「荒らぶるもの/すさぶもの」に由来を持っているのである。

そして、荒らぶる命(ないし神々)は、古代日本語で「チ」と呼ばれたものであった。

「チ」は、医学的な意味で言う赤い血をのみ指すのでは無かった。もっと広く、深く、命の生成消滅の哲学全体を示す、観念的な言葉だったのである。猛るもの、闌けるもの、長けるもの――その観念全体をはらんだ言葉が、「チ」なのだ。

「チハヤフル」とは、恐るべき言葉である。命の闌曲を表す言葉である。

歌人・在原業平は「千早ぶる-神代もきかず-龍田川-からくれなゐに-水くくるとは」と歌った。ここで歌われたのは紅葉散り敷く秋の光景であるが、桜の花が散り乱れ、川面に壮麗な花筏を成す――という春の光景に変えてみても、一向に差し支えないものであるだろうと思う。

猛り、頂点を極めた命のエネルギーは、盛りを過ぎて崩れていくことで、次の季節を創造する。「闌曲」という観念を、命そのものの移行、遷移、生成消滅のプロセスとして理解することも、或いは可能であるだろう。

春の嵐が来て、桜の花はあらかた散り落ちた――その次に創造されたのは、初夏につながっていく時間であり――本格的な春なのである。嵐の前とは、明らかに異なる季節。

そのようにして新たに創造された季節も、頂点を極めた後、やがて崩れていくのである――

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メモ:白骨の御文章など

★白骨の御文章(御文章五帖目十六通)蓮如

それ人間の浮生なる相をつらつら観ずるに、
凡そはかなきものはこの世の始中終、幻の如くなる一期なり。
されば未だ万歳の人身を受けたりという事を聞かず。一生過ぎ易し。
今に至りて、誰か百年の形体を保つべきや。
我やさき、人やさき、今日とも知らず、明日とも知らず、
おくれさきだつ人は、本の雫、末の露よりも繁しといへり。
されば、朝には紅顔ありて、夕には白骨となれる身なり。
既に無常の風来たりぬれば、すなわち二つの眼たちまちに閉じ、
一の息ながくたえぬれば、紅顔むなしく変じて桃李の装を失いぬるときは、
六親眷属集まりて嘆き悲しめども、更にその甲斐あるべからず。
さてしもあるべき事ならねばとて、野外に送りて夜半の煙と為し果てぬれば、
ただ白骨のみ残れり。あわれというもなかなかおろかなり。
されば、人間のはかなき事は老少不定のさかひなれば、
誰の人も、はやく後生の一大事を心にかけて、
阿弥陀仏を深くたのみまゐらせて、念仏申すべきものなり。

★時宗(踊念仏)

六道輪廻の間には ともなう人もなかりけり
独り生まれて独り死す 生死の道こそ悲しけれ

★松岡国男「野辺のゆきゝ」

夕ぐれに眠りのさめし時
うたて此世はをぐらきを 何しにわれはさめつらむ
いざ今いち度かへらばや うつくしかりき夢の世に

制作プロットのメモ「観月宴」

第二部タタシマ@第七章「観月宴」

日付は全てストーリー上の架空の旧暦のもの

観月宴(基本プロット)
中秋の名月を愛でる大きな宴を鳩屋敷右大臣家で開催する。政敵の派閥や中立の派閥も招待されていて、かなり大規模になるので、政敵の事情を探り出す機会とする

■08/15■

(午後)賀茂大納言の邸宅にてカモさん・鹿深どの(カモの友人)・忍者ハイタカが打ち合わせ~出発前の刻まで

※鏡さんが属していた聖麻王の邸宅では目下あやしい動きがみられる=鳩屋敷の派閥に与する気配。聖麻王(現在は聖麻氏として朝廷に優遇され重役として扱われる)は、外交に関わる部署の次官の立場で、貿易の中継に関する利権は、都の中の豪邸を維持するのに充分な額面になっているが、それを鳩屋敷派閥へ流しているとの情報

【観月宴の開始】

(1)綾敷太政大臣がカモ到着を待ちかねていて、自らの派閥の席に招き、目下、都内で噂されている不穏な内容を情報交換

(2)宴の主役・鳩屋敷の父子がオカルト踊りをしながら「十六夜のオカルト予言」披露。「この満月以降、オカルト百鬼夜行が始まる。鳩屋敷を信じよ。信ずるものは救われる」という内容

(3)カモ方の忍者たち、鳩屋敷邸に侵入。鳩屋敷邸を警備する表の人員と裏の人員。ネコマタ・ハイネが猫の姿の利点をもって大量の情報収集。ついでに忍者ハイタカの遠縁にあたる重役・白川氏は鳩屋敷派閥に参入済み。

(4)京極家の美女姉妹も観月宴に招待され参加している。若い独身の姫が多く、お見合いの側面も。女たち一同で噂話~情報交換。「十五夜の予言(百鬼夜行の発生)」をしたのは「殺生石の女」と呼ばれる謎の女。

(5)カモ方の忍者による鳩屋敷邸宅の内部調査が進む。同時に、京極家の明日香姫が忍者の気配に気づき、こっそり部屋を抜け出す。ネコマタ・ハイネは明日香姫の侍女・峰さんに捕まり、明日香姫の不在の間、姫に化けて代役を務める事に。鳩屋敷家の御曹司が接近していたので、明日香姫の代わりに御曹司へ対応。

(6)忍者ハイタカ、鳩屋敷邸の奥の院で、伊勢暴動に関わった謎カルトの祭壇を発見する。強い術はあるが意外にシンプルな祭壇で、種や仕掛けは分かりにくい。そこへ明日香姫が闖入。明日香姫、持ち前の「女性の勘」で、あっと言う間に隠されていた財宝など見つけ出す=雨竜島の密輸貿易の証拠となる。鳩屋敷家は、密貿易で暴利をむさぼっていたということ。

(7)一方、明日香姫に化けたネコマタ・ハイネと鳩屋敷御曹司の間で「秘蔵の猫の剥製」の話題になり、鳩屋敷御曹司、ウキウキしながら、鳩屋敷邸の奥の院へ向かう。

(8)鳩屋敷御曹司が奥の院の祭壇の間まで入って来たので、忍者ハイタカと明日香姫、あわてて天井へ身を潜める。鳩屋敷御曹司、何も知らない状態で、祭壇の大掛かりな仕掛けを動かす。祭壇の間の床下全体が、持ち上がり式の秘密の蔵(財宝の隠し場所)になっていた。目も眩むほどの大量の財貨。その中に、「秘蔵の猫の剥製」があった。

(9)鳩屋敷御曹司、(明日香姫が物音を立ててしまった)異変に気付き、少し辺りを見回し始めるが、ハイタカの部下タスキが、「扉が開いていたので、うっかり入って来た侍女」変装で、誤魔化す。鳩屋敷御曹司、「秘蔵の猫の剥製」を持って、ネコマタ・ハイネ(明日香姫に化けている)へ見せに行く。

(10)忍者ハイタカと明日香姫、タスキは祭壇の間で見た諸々について申し合わせの後、それぞれの持ち場に戻る。

(11)鳩屋敷御曹司、ハイネに、ネコの剥製を見せる。ハイネは、ショックで化け猫の姿をさらし、御曹司はビックリして「化け猫」と騒ぐ。観月宴の場が騒然となる。その隙に明日香姫はネコマタ・ハイネと入れ替わる。忍者ハイタカとタスキの方でも、「化け猫騒動」により見張り人員たちが混乱した隙を突いて、鳩屋敷邸から退去。

(11)深夜、カモ邸にて、調査結果の検討。「殺生石の女」正体を明らかにする必要がある。わからなければそのままで良いが、早期に判明した方が良い。いずれにせよ雨竜島へ乗り込んで調査する必要が出て来た。

■08/16■

(1)観月宴の後の日、忍者の亮や器物屋たちは引き続き、カルト大尊教の施設を監視。大尊教の中は、大教主の耄碌に伴い、3つの派閥に分かれて後継者闘争しているところ。うち1派閥の手先が、大量の赤土(血の色に見えるほどに赤い)を運搬しているという、謎めいた怪しげな動きを見せる。

(2)忍者ハイタカ、調査結果をまとめ、伏見稲荷の方面にある常陸宮の別荘へ赴く。常陸宮と情報連携するため。(常陸宮は皇族の立場から、カモさんたちをバックアップしている)

(3)ちょうど、常陸宮は、鏡さんや友人の僧形商人・無欲案たちと市場へ出ていて不在。ハイタカと、常陸宮の侍女(留守を預かっていた)夕星御前とで、「殺生石の女」正体を解き開かす。一応のめどはついた=廃太子・叡仁王の侍女らしい。侵入して来ていた敵方の忍者を捕らえる。そこへ常陸宮たちも帰宅していて、さっそく尋問するが、忍者は自決。

(4)常陸宮が戻って来たので情報交換。内容が長引き、夜に至る。ハイタカと夕星御前、問答歌を交わす。(周囲の人たちは「あの2人、良い感じなのでは?」と噂をしているが、本人たちは色気は無い※ただし、互いをシッカリ意識し合ってはいる)

■08/17■

(1)雨天。鏡さんと常陸宮、かつての皇太子だった叡仁王について情報交換。過去の因縁の話。現在の叡都王は、廃太子・叡仁王の息子。こじれてしまってはいる。

(2)話題は桜照君の話にうつる。「言問い」の話。熊野道での神託の考察など。