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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

異世界ファンタジー試作25

異世界ファンタジー7-3王宮神祇占術省:白状する神祇官

――結論から言えば、ウルヴォン神祇官は、キリキリ白状した。

《宿命の人》は、非常に出会いにくい存在だ。それが竜人の出生率の低さ、弱体化のしやすさと連動している。それに竜人の気性もあいまって、負傷率・死亡率の高さも連動しているという有様だ。生物学上のこの弱点、どうにかならぬものか。

根っからのロマンチストでもあるウルヴォン神祇官は長年、思っていたのだ。《天人相関係数》そのものに介入して、《宿命の人》を人工的に作り出せれば、解決できるのでは無いだろうか――と。

(少し考えてみれば分かるが、それは倫理的な面で厄介な問題を発生するのだ。遺伝子DNAそのものを、手前勝手な都合で、限度を超えて改変してしまおうという事態に近い。正体も作用も分かっている部分に限っての微小変化だけなら、病気を治すとか、そういった理由での改変は辛うじて許されるかも知れない。しかし、種族の存続に関わる基本を、大きく変えようとする事は――?)

それはともあれ、ウルヴォン神祇官は、自らの目的と行為に何ら疑問を抱かず、突っ走った。種族を救う事だから、絶対的に正しい事だから――と、何年も、何十年も。

その問題の性質上、ウルヴォン神祇官が特に注目したのは当然、恋愛運だった。正体も作用も分かっている部分に限っての微小変化、すなわち《神祇占術関数表》の及ぶ限りのサンプル事例を集め、理論と検証を繰り返した。

例えば令嬢アゼリア〔仮名〕のケースである。淡い予感を抱いた者同士が、一定以上の長い付き合いを得て、《宿命の人》同士に近い合致パターンを作り上げるのだ。《宿命の人》同士には完全には及ばないものの、ウルヴォン神祇官は、《神祇占術関数表》が効果的に作用するポイントを、ついに見つけた。本人の素質とポテンシャル開花の状態が決定的に作用してしまうが、それは間違いなく注目するに足る有効なポイントだった。

そのポイントに集中する事を目指して、《逆ライ=エル方式》を参考に、いわば《逆・恋愛運方式》とも言えそうな方式を作り上げたのである。勿論、実際に使用する前に、穴が無いかどうか徹底的に検討しなければならない。それは、憧れの先達ライアス神祇官が、「もし、そんな局面を見出してしまったとしたら」と、繰り返し繰り返し注意した事でもあった。

――かつて《逆ライ=エル方式》という禁断の木の実を見出してしまった、ライアス神祇官である。同僚や弟子たちの誰かが、自分と同じように《天人相関係数》の秘密に首を突っ込み、好奇心のままに暴走して、取り返しのつかぬ事態を起こしてしまうのを恐れたのであろう。《死兆星》が関わる事もあり、ライアス神祇官は直前で踏みとどまった。しかし《死兆星》では無い領域に関しては?

――結果から言えば、ウルヴォン神祇官は暴走した。

「あれは、今でも覚えてるよ。朝っぱらから快晴でね、室内装飾専門の見本市が開かれてた――二日目のやつだ。研究はドンドン進んでいてね、いつものように《宿命の人》と《運命の人》のサンプル比較をやってたんだ。サンプル収集という事もあって恋愛相談には出来る限り対応してたからね、そういう相談が来るのは、不思議な事でも何でも無かったんだ」

恋愛相談という性質上、男性はマスクをして人相を誤魔化し、女性はベールをかぶって人相を隠して、恥ずかしそうな様子でやって来る。相談に乗る分には、顔が分からなくても良いのだ。手のひらから《宿命図》を読み取れば良いのだから。

――その日の夕方、その相談者はやって来た。完全に人相の分からない、濃い色のベールをかぶって。

このような話になって来るとは――機密会議室に居た者は皆、無言で、ウルヴォン神祇官の説明に耳を傾けていた。

ウルヴォン神祇官は、ダラダラ流れる鼻血を止めていた布を詰め替えると、その時の記憶を改めて振り返った。

「明らかに貴族クラスの令嬢…それも相当、身分の高い令嬢だね。濃いベールで隠されていて人相は分からなかったけど、これは凄い美人だなと直感したよ。自分の美貌に自信持ってる人って、相応の振る舞いをするからね」

――離れてしまったあの人の心を、もう一度、繋ぎ止めたいのです。

相談者は、そう告げた。事情を聞いてみれば、その人は《宿命の人》にうつつを抜かし、自分を振り返らなくなったと言う。

《宿命の人》がその人に現れたのなら、いさぎよく身を引いた方が良い。ベタな知恵だが、「失恋には新しい恋」だ。己の力量と努力次第で、もっと素敵な殿方を射止めることは十分に可能だと、最初は、ウルヴォン神祇官は、まともな返答をしたのである。

――でも、先生。その《宿命の人》は、どう見ても「ハッタリ」なんですわ。彼女は、手練手管に長けた、卑しい悪女ですの。あの人は、すごく真面目で、女性に慣れていない性質で。悪女の手練手管に惑わされて《宿命の人》と勘違いしているだけだと、わたくしには分かりますの。此処では言えないけれど、確かな根拠もありますし。ああ、わたくし、あの人が大事なんです。心配で心配で。

謎の令嬢は本当に困り切っているようだった。だが貴族クラスの《宿命図》は、平民クラスのそれと同じ感覚で扱うことはできない。それに第一、悪女の手練手管に落ちてしまったと言うなら、その貴族男性は、それだけの人物に過ぎなかったという事ではないか。

――時間が無いんですの。助けてください、先生。

聞いてみれば、その悪女なる人物は平民クラスの女だという。で、あれば。その女の恋愛運に干渉するという方法も考えられるが。平民クラスの《宿命図》は管理が雑だし、第一、名前も分からないのでは、とっかかりが無い。

すると、謎の令嬢は《宿命図》のコピーを取り出した――これが必死で探し当てた、あの悪女の《宿命図》です。

令嬢は本当に必死だったらしい。そこまで恋い焦がれられて応えないとは、その貴族男性も随分、罪な奴である。ちょっとは苦しんでみれば良いのだ――それが、きっかけだった。かねてから考えていた理論を検証する機会ではないか。

《宿命の人》を人工的に作り出す。その作用を、悪女なる平民クラスの女に施そう。悪女も、その悪女に篭絡されている貴族男性も、謎の令嬢も、いっぺんに救う事が出来る。一石二鳥、いや三鳥だ。ただ、《逆ライ=エル方式》の形をしているから、力を与える貴族が無ければ話にならないのだが――

――居るではないか、目の前に。高貴なる貴族令嬢が。気配を探ってみれば、十分に合格点だ。

ウルヴォン神祇官は、悪女の《宿命図》のコピーを分解し、それで《逆・恋愛運方式》を作成した。そして、貴族令嬢の手のひらに転写した。手のひらが竜の手に変化した時、ターゲットの運命を変える力が発生する。そのように説明した。だが、いずれにせよ最終的には、令嬢の力量と努力によって彼を振り向かせるべきなのだよ、と付け加えたのであった――

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制作プロットのメモ「百鬼夜行」

第二部タタシマ@第八章「百鬼夜行」プロット

日付は全てストーリー上の架空の旧暦のもの

■08/17■

(1)宮中が舞台。叡都王が明日香姫に割り当てられた部屋(縁側)を訪問。話題が、観月宴の時の化け猫騒動の話になる。こっそりと叡都王を見張って忍び込み、会話を盗み聞きしていたネコマタ・ハイネ、「猫の剥製」の話題が出た所で、失神しそうになる。相棒のタスキが支える。

(2)薬務に関する上申は女官取次。女官をやっている明日香姫の姉・蓮姫は、宮中の奥の方で大忙し。宮中の奥では、上役に当たるカモさんや綾敷太政大臣、ほか重役たちが書類選考の業務。カモさんはいい加減に居眠り(観月宴の調査結果の検討で疲れていたのもある)

(3)蓮姫たち女官が頻繁に書類を持って来る。蓮姫は若手の石神井さんに思いを寄せているが、その石神井さんは典型的な「そっち方面には疎い、キマジメ男」で、なかなかピンとこない。一方で、その事務のやり取りを観察していた綾敷太政大臣は目ざとく「ピコーン」と気付いていて、宮廷内の勢力図の流れ含めて、カモさんと検討。

(4)雨が降り始める。やがて本降り。叡都王の上申が、明日香姫の手を通じて書類選考(除目に関する)の場へ。ちなみに、その場に居合わせた女官たちは、叡都王と明日香姫のやり取りを眺めて、「お似合いの二人」と噂する。

(5)その日の夕方、暴走族・恐龍団の暴走事案が持ち上がる。都大路が、暴走馬と不良貴族子弟たちの乱暴にさらされて、人々が難儀。叡都王を含む若手の役人たちが鎮圧のため出動。

(6)叡都王と若手役人の1人とで衝突、トラブル。その若手役人はかつて明日香姫へ熱心に求婚の歌を送っていたが、伊勢暴動に関連して取りやめになっていた。その後釜みたいな形で叡都王が現れて来たので嫉妬、この機に、叡都王を落馬させて怪我させようとした。

(7)叡都王、反撃。ひっそり付いて来ていたのが暗殺専門カルト系統の忍者。その忍者が若手役人1人を急襲して呪術的に始末する形。好機なので、叡都王を神格化し、その神威でもって、その役人を粉々に粉砕する。

(8)異次元の物騒な呪術の気配に、ハイタカたち忍者が調査に動く。都大路の暴走族たちで大騒ぎになっていて、雨脚も激しく気配がつかみにくいが、すぐに叡都王が次元を開いて出て来たので気付く。叡都王は異様な雰囲気を纏っていて、大量の血(大量出血があったらしい)の気配が漂っている。

(9)叡都王を追跡してみると、叡都王は、祖母の邸宅へ引っ込んでゆく。普通では無い疲労の気配。ハイタカ・亮・犬上たちは、伊勢暴動の際の異様な呪術(星の呪術の類)と似たものが進行していたのではないかと推測を付ける。

(10)雨上がりの夜。ハイタカ忍者たち、叡都王が活動していたあたりを調査するが、さして手掛かりになるモノは出ず。そのうち、亮が、持ち前の直観力でもって、瀬都に掛かっていた星の呪術の、いままで注目されていなかった要素に気付く。現人神の要素。

(11)さっそく、カモ邸にて検討。ほどなくして、別の調査に出ていたタスキとネコマタ・ハイネが合流。大尊教(実際に影響力を振るっているのは、工作部隊とされている光連衆)のほうで、怪しげな剥製が製造されていたことを報告。(実はそこの部署のリーダーは、剥製を作るのが趣味という危険人物。甲斐国での剥製騒ぎにも関与)

■08/18■

(1)宮中、除目会議。暴走族取り締まりについても評価項目に入れる。叡都王は休暇。

(2)叡都王は本日は休暇なのに、その日の日付で、暴走族取り締まりの実績の報告を含めた上申がされている。綾敷太政大臣、不審点に気付き、文書を取り次いだ明日香姫に調査。実情判明し、カモさんと検討。伊勢暴動の際の妖異成分についての再分析になるが、さしたる内容は出ず。

(3)カモさんが妖異成分について、あれこれ考えながら帰宅すると、昨夜の報告を受けた常陸宮が、伏見からわざわざ訪問して来ていた。星の呪術について検討。瀬都に降りかかった異様な現象については、常陸宮の方が、他者視点で冷静に分析できている。

■08/19■

(1)都大路の下町のほうで、藁人形パニックが広がる。「百鬼夜行だ」という騒ぎになる。町の一角に、人体サイズの藁人形が打ち付けられていた。シッカリ調査すると、その藁人形には、バラバラになった肉片が含まれている。その肉片は、行方不明になった若手役人1人のもの。昨夜の剥製の話ともつじつまが合うので一層、不気味。

緊急的に、伏見・常陸宮へ報告。謎の攪乱団体、鬼面組の話も。ハイタカ、夕星御前を薙刀の名手と理解していて、武者修行を申し込み。しばらく伏見へ滞在。

■08/20■

不破縄将軍、綾敷太政大臣の派閥へ弾劾を仕掛ける。ついでに聖麻についての取り扱いの話も出る。光連衆は町内扇動にいそしんでいる。

■08/21■

百鬼夜行の騒ぎ(鬼面組の面々が工作と扇動)が、上流貴族の済む街区でも広がる。京極家でも血まみれの手跡などで、京極太政大臣が失神。

■08/22■

宮中に血手形の騒ぎが広がる。叡都王、回復して、宮中へ出勤。蓮姫と明日香姫の部屋にも血手形がビッシリで女官たちは怖がるが、蓮姫と明日香姫はリアリズム主義に近く冷静に観察。やがて出勤して来た叡都王と洒落た会話。伊勢暴動を通じて、特定の呪術について見聞きしていた明日香姫、叡都王が普通の様子なので不審に思う。

■08/23■

夜、鬼面組の面々、宮中へさらなる血手形を貼り付けようとして逮捕される。大尊教の教師たちと判明。前々から、巨大な特権を振るい宮中からは煙たがられていたので、この際に大尊教を大胆に手入れする方向で、重役たちの中で方針が決まってゆく。

■08/24■

緊急閣議、大尊教の中で鬼面組にかかわった者たちをまとめて逮捕するため、武士メンバーも居る捜査部隊を入れる事を決定。大尊教のほうは、不当弾圧だと抗議するが、あえなく撃沈。大尊教の施設の大捜索が開始。

■08/25■

不破縄将軍の討伐隊、大尊教へ討ち入り。ほかの捜索隊も入るが、大尊教にさらなる重罪をかぶせようとする裏分子たち=光連衆が大暴れ、特に紫銅が、大量殺戮にいそしむ。国家反逆罪も加わり、大尊教の解体は決定的になる。

なお紫銅は、将来の禍根となることを予期して、大尊教の大教主を殺害。その折に、雨竜島を経由してもたらされた「玉手箱」の話題が出る。情報をしぼり取り、紫銅らは、「玉手箱」が吉備国の鬼ノ城へ運ばれる予定であるということを察知する。

紫銅を含む光連衆のグループ、大尊教の施設が完全に爆発炎上する前に脱出、ひそかに鬼ノ城を目指して走り出す。別途、奴隷扱いとなっていた昔の紅蓮教団の残党たちも気付き、紫銅たちよりも前に「玉手箱」を奪おうと、つづいて動く。

■08/26■

大尊教、壊滅。宮中では報告を受けて、色々な憶測が飛ぶ。不破縄将軍は、大尊教の財宝をネコババして、私有財産を増やす。

ガロ=ローマ時代の覚書(2)

ガロ=ローマ時代の覚書(1)から続きます^^

さてこのガロ=ローマの繁栄をものした属州ガリアですが、地続きという条件のもと、次第にゲルマン民族の姿がちらほらと見られるようになります。

ゲルマニアの方面からゲルマン民族が流入してきた訳なのですが、当時のゲルマニアが具体的に、ローマ帝国から見て何処にあったのか?は、ウィキペディア「ゲルマニア」の項をご参照くださいまし。ゲルマニアは、ローマ帝国の版図には遂に含まれる事の無かったエリアで、最初からゲルマン的要素の濃密なところでした。


フランスとドイツの境界を定めた重要な戦いが、「トイトブルクの森の戦い(西暦9年)」だそうです。トイトブルク(現・オスナブリュック近郊)の森は、フランス・ドイツの国境付近(?)にあります。以後のガリア語がロマンス語にシフトしていったのに対し、ゲルマン語は父祖からの言語を強く引き継ぎました…だそうです。

19世紀はとりわけ国粋主義が燃え上がった時代でしたが、フランスがケルト民族に源流を見出したのに対し、ドイツはゲルマン民族に源流を見出したわけで、西暦9年という昔の出来事であるにも関わらず、ローマ帝国がもたらした因縁の深さが、十分に伺えるものであります。

(19世紀は、ローマ帝国の方が良く知られていて、フランク王国の実態については、研究があまり進んでいなかったと思われます。何せシュリーマンの時代ですしね…^^;)

言語的資料フランス語とドイツ語の分布境界の歴史的経緯についての概観](ブログ)


ゲルマン人の流入は、パックス・ロマーナの絶頂の2世紀から急速に拡大しました。狩猟生活から農耕生活への転換のため、人口爆発があり、いっそう大量の土地を必要としたのが理由だと言われています。

ローマ帝国がゲルマン侵入・第一陣(235年~)への対応で不手際を重ねるようになり、属州支配どころでは無くなったのが、3世紀。俗に「3世紀の危機」とも言われています。

この異民族流入という出来事…、すごく身につまされるような気配がします^^;
現代のアメリカで言えばヒスパニック系の流入であり、現代の日本で言えばシナ系の流入でありましょうか(敢えてバランスを取るためシナという事で・汗)。うむむ、日本の中央政府、超・頑張ってほしいです。

この3世紀、ローマ帝国は滅亡もかくや、という程の迷走と混乱を極めました。軍人皇帝と僭帝の時代です。あらゆる政治的暗殺&社会動揺のドラマの種を、ここから取材できるのでは無いでしょうか?異民族侵入に対抗するための重税、蛮族の略奪による耕作地の放棄と荒廃、そして入れ替わり立ち替わる数多の皇帝と、属州政治の機能不全…

ここも身につまされるところです。日本も、地方財政が危機だと言われてます(汗)。夕張は破綻してしまいましたし…大阪も何だか騒いでいますし。中央政府も「審議拒否」か何かで、首相がコロコロと替わって、国政の機能不全を起こしかけているらしいし…

3世紀の危機を通じてローマの財政を支えていた奴隷制度が乱れ、税収も上下身分も確定しない社会が出現します。そのため、この時代のローマ皇帝は、たびたび奴隷を耕作地に拘束するための勅令を出しています。この部分は、重要だと考えられます。なぜなら、後の封建制度へ移行する可能性を秘める、多数の因子のうちのひとつであったと考えられるからです。

ローマ帝国・3世紀の危機について詳しいページを見つけました:
http://members.jcom.home.ne.jp/0425590601/ca12.htm
解説がテンポ良く、詳細かつ面白かったです。キャラも可愛いです(笑)^^
長い内容になっていますので、ゆっくりどうぞ。他ページも見物かと。

さて、ガリア属州では、未来の姿を予兆させる、重要な出来事がありました。

3世紀の混乱の中、ササン朝ペルシャが時のローマ皇帝を捕虜としてしまい、その息子が帝位についたものの、「ローマ皇帝、敵の手に落ちる!」というニュースは、属州全体(ブリタニアの西端からゲルマニアの東端まで)をあっという間に駆け巡りました。

この衝撃が何をもたらしたかと言うと、いっそうの異民族の活動とローマ帝国の分裂です。

属州はローマ中央政府をあてに出来なくなったため、自らの領土と安定を守るため結託し、あるいは地元の軍事的リーダー(僭帝)の下に何となく集まり(?)、最終的には「ガリア帝国(トランサルピナ系属州の派閥が中心)」、「ローマ帝国(元老院の派閥)」、「パルミラ帝国(パルミラ地縁の派閥)」という3つの帝国ができました^^;

ガリア帝国は、もともとの政治的根拠が脆弱だったため独立を維持できず、後に復活したローマ帝国の権威に再び服属することで、たった15年(260~275年)で解体しましたが、ガロ=ローマ時代が生み出したガリア帝国こそは、微妙にフランク王国の前身とも言える帝国では無いでしょうか。その首都は、現ドイツ南東部の辺境、ラインラント=プファルツ州のトリーアにありました。

ガリア帝国の版図は、ウィキペディア「ガリア帝国」の項をご参照ください^^

その後のローマ中央政府に現れたのが、統治の天才、ディオクレティアヌス帝。官僚制度を整備し、皇帝権力の強化(専制君主制・ドミナートゥス)を図り、もとは40程度であった属州を100以上に細分し、「分割して支配する」という手法でローマ帝国を統治。

この属州再編で、属州の自立性は奪われました。(地方政府の首長の権限を制限したようなもの。これが後々の混乱を呼ぶことになります。これもまた、封建制度成立の種子となった…と考えられます^^;)

西暦375年は、ヨーロッパ激震の年です。ゲルマン第二波に続いてフン族が侵入、この時、西ゴート族がフン族に追われて西進をスタート。フン族が世界最強の騎馬民族(ゲルマン族より強かった!)だった事もあり、ゲルマン諸族は西に南に追われてローマ帝国とその属州に次々に流入。アッティラ大王の件は有名です。

ウィキペディア「アッティラ大王」の項目にあるフン族の勢力範囲のすごさにびっくりして下さい^^

そんな訳で、ヨーロッパ全体が、本格的な民族大移動で大混乱になりました。当然、ローマ帝国を支えていた各種のローマ制度は、完膚なきまでに崩壊。ガロ=ローマ文明は、またたく間にゲルマン色に覆われてゆきます。

この頃、各地でやたらと城壁の建設(ゲルマン風かな?いずれにせよ、中世っぽい城壁かも。)が進んだそうです。事実上の暗黒時代にふさわしく、ゲルマン諸王国の前身となる統治組織――後に封建制度に変わってゆく統治組織――があちこちに作られてゆく、戦国乱世下にあったと言えるでしょうか。

後にフランク王国を打ち立てることになるフランク族が、遂にベルギカ(現・フランス北部辺境)に達したのも、この375年であります。ここから、中世の雄、フランク王国は始まったのです。

総じて、ガリア北部&東部からゲルマン民族の定着と支配が進むという流れがあり、海を隔てたブリタニア(現イギリス)ヘも、ゲルマン諸族(特にアングロ=サクソン)が組織的に出没するようになっていました。
※アングロ=サクソンが先で、ノルマン人は後の時代のようです^^;

こうした中、軍管区といった軍事的保障のある将軍が常駐した区画では――特に以前からゲルマン族の将軍が優勢だった地域においては――ゲルマン社会の伝統的な構造も考慮すると、必然として、属州将軍から封建領主への移行ルートが開けていた筈です。

中世ヨーロッパ全体に均一な封建制度が広まった基礎的要因として、このローマ帝政末期の改革の一として、属州全体で分割支配のための行政区の細分化が行なわれていた事実は、注目に値するのでは無いでしょうか。

西暦395年、ローマ帝国の東西分割。西暦476年、西ローマ帝国滅亡。

そして、この混乱の中で、ヨーロッパ中世前期が幕を開けたのであります^^
上手くまとまったかどうかは分かりませんが(汗)、こうしてざざっと見てみると、ガロ=ローマ文明の繁栄と3世紀の混迷は、まことに重要なチェックポイントであったと考えられるのであります。

〔おまけの想像〕ローマ滅亡の原因=官僚制度の肥大化?

末期ローマに起きた統治組織上の大きな変化が、専制君主制・ドミナートゥスの成立に伴う、元老院から官僚制への変化です。この官僚制度、どうも恐ろしく財政を食うもののようで、それ以後、ローマの財政は見る見るうちに資金繰りに苦しむようになりました。

それで、属州に派遣された税官吏がいっそう中産階級から税を取り立てるようになり、しまいには税官吏と異民族が結託して、ガロ=ローマの中堅農民の子供をさらって、奴隷市場に売り飛ばして、不足金額を埋めるなんていう出来事も、多々起こっていたようです。(何だか、北朝鮮が絡んでいる拉致問題を思わせるようで、嫌ですね・汗)

これが官僚タイプ利権食いとか、マフィアの始まりだったのでは無いか、という指摘もありますが…複雑な気持ちです。

そして、ますます肥大する官僚組織を維持するための税金の高騰に伴い、ローマ帝国の財政を最後まで支えていた、中産階級の崩壊が起こります。その後に生まれたのは、異常なまでの格差社会であり、犯罪多発の荒廃社会でした。

中産階級の喪失と共に起こったのは、中堅教育界の崩壊です。ある地域では大理石などの建材を綺麗に刻む熟練の職人がいなくなった為、奴隷をかき集めて、過去の壮麗な建造物を分解して、パーツだけ組み合わせて、官僚や資産家のための邸宅を造成する、という出来事もあったそうです。ローマ文明&文化の広範な維持が不可能になっていたのです。ローマの「知」の伝承の断絶…、これこそ、まさしくゲルマンの優越を可能とした、暗黒時代(ローマから見て)と言えるものでありましょう。

格差の激化と利権争い含む犯罪の増加は、同時進行で従来の社会を大きく損なってゆき、異民族の安価な労働力に頼らないと、財政維持も治安維持も不可能な状態にまで追い込まれていたであろう、ということは確かに言えます。(実際に、奴隷や傭兵に関しては、人件費の安いゲルマン人の割合が多かったそうです)

深刻な危機の中にも関わらず、いや逆に深刻な危機に放り込まれてしまったからこそ、なおも財産と権限の安定を要求するローマの官僚組織自体が、異民族勢力を積極的にローマ領内に引き込み、ローマ帝国内の内乱を頻発させ(今で言えば、外国人犯罪&振り込め詐欺の増加)、売国よろしく領土は失われてゆき、結果としてローマ帝国を滅ぼしてしまったのだと、そういう風に言うこともできるかも知れません。

以上の事は、あくまでも「異民族の流入」、「帝国内の略奪と混乱」、「ローマ財政の崩壊(税金の高騰)」、「官僚制度の維持」といった要素から編み出してみた物語的占いであって、歴史の真実はどうだったのかは分かりません。ローマ帝国衰亡の原因としては、水道管の鉛毒とか、気候変動とか色々あるみたいですし…

金融危機といった混乱の中に放り込まれると、かえって財産と権力に必死にしがみつき始める(ますます大きな利権を欲する)…という心理や、人間の行動パターンというものが、昔も今もあまり変わらないものである、とすれば、こういう想像も割と有効なのかも知れません。

しかし…、とりわけ日本に関しては、最大級の不吉な結末を暗示するものでもあるので、本当は有効な想像であって欲しくないです。ここの部分は、是非とも他の人に考察して頂いて、「それはみな杞憂である」と余裕で論破して頂きたいところです^^;