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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:「珊瑚礁」エレディヤ

珊瑚礁/ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ/上田敏・訳

波の底にも照る日影、神寂(かみさ)びにたる曙(あけぼの)の
照しの光、亜比西尼亜(アビシニア)、珊瑚の森にほの紅く、
ぬれにぞぬれし深海(ふかうみ)の谷(たに)隈(くま)の奥に透入(すきい)れば、
輝きにほふ虫のから、命にみつる珠(たま)の華。

沃度(ヨウド)に、塩にさ丹(に)づらふ海の宝のもろもろは
濡髪(ぬれがみ)長き海藻(かいそう)や、珊瑚、海胆(うに)、苔(こけ)までも、
臙脂(えんじ)紫(むらさき)あかあかと、華奢(かしや)のきはみの絵模様に、
薄色ねびしみどり石、蝕(むしば)む底ぞ被(おほ)ひたる。

鱗(こけ)の光のきらめきに白琺瑯(はくほうろう)を曇らせて、
枝より枝を横ざまに、何を尋(たづ)ぬる一大魚(いちだいぎよ)、
光透入(すきい)る水かげに慵(ものう)げなりや、もとほりぬ。

忽ち紅火(こうか)飄(ひるが)へる思の色の鰭(ひれ)ふるひ、
藍(あゐ)を湛(たた)へし静寂のかげ、ほのぐらき清海波(せいがいは)、
水(みづ)揺(ゆ)りうごく揺曳(ようえい)は黄金(おうごん)、真珠、青玉(せいぎよく)の色。
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