エネルギー問題・雑考&れいわてつ
■遷移金属不使用の触媒を用いて大気濃度CO2から合成ガスを製造する技術を開発/CO2を原料とした液体燃料や化学品製造の実現に前進(産業技術総合研究所2022.05.13)
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2022/pr20220513_2/pr20220513_2.html
遷移金属を使用せず、CO2吸収と一酸化炭素への還元という二つの機能を持つ二元機能触媒を開発
大気中の低濃度のCO2でも効率よく吸収し、CO2の分離や濃縮工程なしで合成ガスの製造が可能
生成ガスの不純物濃度が極めて低く、液体燃料や化学品製造に適した組成の制御に向け前進
失われたバッファーの回復が急務(U3 Innovations)https://u3i.jp/opinionknowledge/sakamoto/
>現下の需給逼迫は、国内に発電用のタネになるカロリー確保を軽視する運用思想に原因があると考えている。「変動再エネを系統に最大限注入したい、需給ギャップは安定電源である火力や揚水が頑張るから大丈夫だろう」という思考でここまで制度検討、実装がなされてきたところ、並行して計画外事象に備える「守備用インフラ」への認識が十分ではなかった
>電力システム改革後に失われたバッファーは主として石油火力だ。今から30年前、当時の東京電力は概算1100万kWの石油火力を擁し、計画段階では30%の稼働率を設定していた。1993年は歴史的な冷夏となり極度の低需要となったが、石油火力の稼働抑制で発電量を下げて対応した。翌年は猛暑、高需要となったが、焚き増しで対応できた。往時の石油系電力燃料の国内在庫は180日分あり、ざっくりいえば200万kWの下方弾力性とともに600万kWの上方弾力性、電力ストック換算で270億kWh相当のバッファーがあった。高コストと批判されつつも、2000年以降の再三に渡る原子力停止時にもこのバッファーは機能し、安定供給に貢献したと総括できる
>EUのガス貯蔵能力は民生用ガス分も含めて1100TWh、800億m3、総需要の17%程度という評価を文献で確認している。日本のLNGとは水準が全く違う。同じように変動再エネ中心のエネルギーミックスを目指すには、日本は基礎体力がなさすぎる
>ストック確保は日本の伝統的なエネルギー思想だった(中略)この発想をベースにしないと、市場約定ルール、系統アクセスルール等をいくら改変しても、需給バランス改善への根本的な解とはなりえない
【石炭火力発電に関する最近の動向】
●石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を開始―CO2分離・回収した石炭由来の高濃度水素で燃料電池複合発電、究極の高効率発電を目指す―(NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構2022.04.19)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101534.html
NEDOと大崎クールジェン(株)は、革新的な低炭素石炭火力発電技術の確立を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」の第3段階に入りました。具体的には、CO2分離・回収型酸素吹石炭ガス化複合発電(CO2分離・回収型酸素吹IGCC)設備に、MW(メガワット)級の燃料電池設備(SOFC)を組み込んだCO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の実証試験を、4月18日に開始しました。
本実証試験では、第2段階のCO2分離・回収型酸素吹IGCC実証設備に燃料電池を組み合わせて、石炭をガス化したガスからCO2を分離・回収後、得られる高濃度水素ガスを燃料電池に供給し、燃料電池の発電特性や燃料電池内部の温度分布を把握します。また、燃料電池モジュールを並列運転した時の運用性、さらに高圧運転した場合の挙動を調べるなど、CO2分離・回収型IGFCシステムの実現に向けた試験を行います。
実証試験の目標は、本実証試験の成果を500MW級の商用機に適用した場合に、CO2回収率90%の条件で47%程度の送電端効率(高位発熱量基準)の見通しを得ることとします。
今後、高効率な石炭火力発電とCO2分離・回収が両立する技術を確立し、CO2排出量抑制(地球温暖化対策)への貢献を目指します。
(補足資料)なぜ、日本は石炭火力発電の活用をつづけているのか?~2030年度のエネルギーミックスとCO2削減を達成するための取り組み(経済産業省/資源エネルギー庁2018.04.06)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/qa_sekitankaryoku.html
テクの雑学-第183回-進化する石炭火力発電,環境にやさしいIGCC、IGFC
https://www.tdk.com/ja/tech-mag/knowledge/183
IGCC(石炭ガス化複合発電)とは
http://www.joban-power.co.jp/igcc/unit10/about/
石炭ガス化技術と水素製造/水素エネルギーシステム Vo1.37,No.1 (2012)
https://www.hess.jp/Search/data/37-01-029.pdf
石炭エネルギーセンター第4回、石炭基礎講座、石炭ガス化/九州大学、2013年
http://www.jcoal.or.jp/coaldb/shiryo/material/2012_09_hayashi.pdf
石炭ガス化による水素、アンモニアの経済性とCO2 排出量、石炭ガス化(CCS を含む)による水素、アンモニア製造・物流システムの比較検討/国立研究開発法人科学技術振興機構、低炭素社会戦略センター(2019年)
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-13.pdf
(コメント)
日本の石炭火力発電テクノロジーは世界トップレベルという話!頼もしいです。アンモニア発電設備への変更も、それほどコストをかけずに可能だそうで、応用が利くのは便利だと思います。エネルギー需要の大きい関東エリアなど都市圏への建設については、土地住民の説得が必要なので、この辺り困難が出そうですが…
特に印象深く思うのはドイツの動き。ロシアからの天然ガス輸送が途絶えたために、急遽、石炭火力を復活させるとのこと(※環境テクノロジーがあまり進展していない旧式のものがほとんどで、もともと廃棄予定だったようです。酸性雨がスゴイ事になりそうな…)。天然ガス備蓄は通常の半分ほどで、夏の間にこれを取り崩してしまうと今冬を越せないという事情があるようです。
いまから法律整備に入っているというドイツ、果たして今冬までに間に合うのか?と、いささか、かなり怪しく思われるところです。発電所は1ヶ月や2ヶ月で新設・増設できるようなシロモノでは無かった筈。
それから、燃料の輸送のほうも、パイプラインでは無く船舶や列車などで…労力的にも大変な筈…(石炭は、パイプラインでは運べないので、船舶や列車、トラックが必要)
⇒インフラ物資の輸送力は、整備や技術者のレベル、スケジュール調整力がモノを言う世界
⇒(参考資料)JR貨物の意地を懸けた緊急燃料輸送列車。東日本大震災石油輸送振り返り
⇒https://train-fan.com/banetsu-west-2011/(鉄道ファンの待合室 2021.10.19)
東日本大震災の時は、大きな幸運がふたつあった、とのこと。
(1)それまで積み重ねていた耐震技術のお蔭があって、大量の石油備蓄が無事だった(※一方で、津波や火事に襲われた備蓄はやられてしまい、震災地での燃料枯渇につながっていた。まだ冬気候の時期だったので、石油の需要は大きい状態)
(2)たまたま、全国汎用型の機関車の一斉退役タイミングで、老朽化しているものの、充分な数の機関車を全国から集めることができた(ディーゼル型なので電力が無くても走れる。ただし旧式ディーゼル型だったので、輸送力も旧式のもの)
●ドイツ、石炭火力を拡大 ロシア産ガス供給減で緊急措置(日本経済新聞2022.06.20)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR194200Z10C22A6000000/
ドイツのハベック経済・気候相は19日、ロシアからの天然ガス供給が大幅に減る事態に備え、ガス消費量を抑える緊急措置を発表した。代替策として石炭火力発電の稼働を増やし、産業界にガス節約を促す新たな仕組みも導入する。家庭の暖房需要が高まる冬に向けてガスの貯蔵を積み増し、ロシアの揺さぶりに対抗する。
19日の声明で明らかにした。発電に利用するガスの消費量を減らす代わりに、石炭火力発電の稼働を拡大させる法整備を進める。
ガス節約を促すため、消費量を減らした企業ほど有利になる新たな仕組み「ガスオークション」の導入も計画する。足元では、ドイツのガス貯蔵量は最大能力の5~6割程度にとどまっている。夏場にガスを節約し、暖房需要が高まる冬までに貯蔵量を最大能力の9割まで引き上げる目標だ。
ロシア産の天然ガスを巡っては、同国国営ガスプロムが15日、ドイツに送る主要パイプライン「ノルドストリーム」の供給量を従来計画から60%削減する方針を示した。14日に40%減を公表していたが、矢継ぎ早に削減率を高めた。ロシア側の揺さぶりが強まっている。ドイツはロシアが侵攻を続けるウクライナに重火器などの武器供与を進める一方で、天然ガスの調達をロシアに依存してきた。
ハベック氏は19日の声明で「ガス供給の安定性は保証されているものの、状況は深刻だ」と指摘した。供給不安を受けて資源価格が高騰しており「我々を分裂させようとするプーチン大統領の明確な戦略であり、許すことはできない」とロシアを強く非難した。
ショルツ政権は石炭火力について、「理想的」な目標として、2030年に廃止することを打ち出してきた。メルケル前政権では38年だったものの、前倒しした。35年にほぼ全ての電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーで賄う計画で、4月に新たなエネルギー戦略を採択したばかりだった。
2月の侵攻前、ドイツはガスの55%をロシアからの輸入に頼っていた。安全保障の観点から、天然資源のロシア依存脱却は急務だ。ただし、再エネの発電能力を積み増すには時間を要する。「脱炭素」に逆行する石炭に一時的に頼らざるを得なくなっている。
●ドイツ、天然ガス生産拡大へあらゆる選択肢模索を=エーオン(ロイター2022.06.24)
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-germany-gas-fracking-idJPKBN2O50B9
ドイツのエネルギー大手エーオンのレオンハルト・ビルンバウム最高経営責任者(CEO)は、天然ガスの国内生産拡大に向け、禁止されているフラッキング(水圧破砕によるシェールガス採掘)を含め、あらゆる選択肢を模索する必要があるとの見解を示した。
独誌ビルトシャフツボのインタビューで「状況を改善するためにあらゆる解決策をタブーなく模索しなければならない」と述べた。
独経済省は23日、ロシアからの供給減と価格高騰を受け、天然ガスに関する3段階の緊急計画で第2段階の「警報」を発令した。ただ、高騰するガス価格を消費者に転嫁する条項はまだ発動していない。
ビルンバウム氏は「われわれは国内でさらにガス田を開発することが可能かどうか自問自答しなければならない」と述べ、国内生産の最大化が解決策の一つで、他の代替案よりも環境に優しい可能性があるとの見方を示した。
ドイツでは主に非従来型のフラッキングが禁止されていることや自然保護法により新規掘削の許可獲得が困難なことから天然ガスと石油の生産が減少している。
※(補足資料)ドイツのエネルギー関係データ
https://www.de-info.net/kiso/atomdata06.html(ドレスデン情報ファイル)
2021年度のデータを見ると、国内消費エネルギー30%が天然ガスと原子力。再エネ、石油、石炭系で60%~70%。2022年の冬、ドイツは、いつもの半分ほどしかエネルギーを使えないという状況になりそうですが、EU各国から融通を受けて、しのぐ?
でもEU各国も、ロシア産の天然ガスに依存している状況だったから、融通の余力については苦しいかも。この前のように日本から天然ガスを譲ってもらうとか、インド転売の石油を入れるという形になるのかなと想像してみる…
※(補足資料)ドイツはガス供給の非常警報を発令~冬場のガス不足で高まる景気後退リスク~
https://www.dlri.co.jp/report/macro/193243.html(第一生命経済研究所2022.06.24)
要旨
ロシアがドイツ向けのガス供給を絞るなか、供給不足の懸念が高まっているとして、ドイツ政府は(2022年6月)23日、ガス供給の「非常警報」を発令した。ノルドストリーム1は来月(2022年7月)に定期点検が計画されており、ロシアが何らかの理由をつけて、定期点検後も稼働を認めない恐れもある。このまま冬場のガス不足が深刻となれば、資源価格の更なる高騰が避けられない。ECB(欧州中央銀行)が利上げを強化し、景気をオーバーキルする恐れが高まる。欧州にスタグフレーションの影が忍び寄っている。
※(参考情報)ECB欧州中央銀行:2022年7月に利上げ0.75%確定、2022年9月に利上げ0.5%予定(緩やかなインフレ率=2%程度を目標としているため)
(ドイツは、ロシア天然ガス断絶の危機に対して、どのような対応をしようとしているのか?についての補足記事)
ドイツ、ノルドストリーム2の一部改造を検討=雑誌
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-germany-pipeline-idJPKBN2O50RI(ロイター2022.06.24)
(対応内容:専門家による推測)https://twitter.com/gomatsuo/status/1540374001352028160
国内の電力不足・原発再稼働について(エネルギー政策)
【全文】「節電ポイント」参加家庭に2千円相当付与 官房副長官会見(6/24午前)
https://news.ntv.co.jp/category/politics/594fe6ee67bf454ebf16923c8a5f748d
>この夏の電力需給に向けて、安定供給に必要な予備率3%を確保していたところでありますが、政府として、さらなる供給力向上のため、追加の供給力公募を行い合計135万キロワットの供給力の確保を行ったところであります。
>これらの電源は7月から稼働することとなっておりますので、予備率は更に改善が見込まれるということでございます。引き続き電力の安定供給に向けて万全を尽くしていきたいというふうに思います。
データ:日本の原子力発電所マップ2022年版(2022年6月時点で稼働中の原発)
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01365/
大手商社で加速するブルーアンモニア生産 三井物産、1,000億円超投じ、豪州で年産100万トン
https://energy-shift.com/news/0afa0b7c-3ca7-493c-a8c4-fa53d508fc7f
天然ガスなど化石燃料から水素をつくり、窒素と反応させて合成するのが一般的だが、アンモニアを完全な脱炭素燃料とするには、再生可能エネルギーを使った電気で水を分解してつくった水素から合成する「グリーンアンモニア」、あるいは製造過程で出たCO2を回収、貯留(CCS)する「ブルーアンモニア」を合成しなければならない。
(欧州の再エネ技術は、豊富なロシア天然ガスによる電力を通じて生産したグリーン系燃料がメイン。露宇戦争の影響がどれくらい拡大するのか不明ですが、供給断絶の話もあり、最悪、後退またはストップする可能性が考えられる)
新技術の石炭火力発電「IGCC、石炭ガス化複合発電(エネルギー効率48〜50%)」「IGFC、石炭ガス化燃料電池複合発電(エネルギー効率55%)」は、従来の石炭火力発電では発熱量が低く、使用に適さなかった品質の石炭でも利用可能な技術。今まで活用されなかった小規模ガス田の天然ガスや褐炭が有効利用できるとのこと。国産の石炭は品質が余り良くなかったのですが、これも活用できるようになる
三井物産、UAEの燃料アンモニア生産計画に参加(日本経済新聞2022.06.10)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC105DZ0Q2A610C2000000/
三井物産は10日、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)が計画する燃料アンモニアの生産プロジェクトに参画すると発表した。原料となる水素の製造過程で出る二酸化炭素(CO2)を地中に貯留する。2025年から年間100万トン生産する計画で、三井物産は日本への輸出を視野に入れる。
総事業費や出資比率などの詳細は今後詰める。ADNOCのもつ製油所などで副産物として出る水素を原料として、製造過程で出たCO2を地下層に注入する「ブルーアンモニア」を生産する。計画にはADNOC子会社で肥料メーカーのファーティグローブ(アブダビ)や韓国のGSエナジーも参画する。
アンモニアは燃焼時にCO2を排出しない次世代クリーン燃料として注目されている。三井物産はアンモニア製造大手の米CFインダストリーズ・ホールディングスともブルーアンモニアの生産計画で協業するなど、日本向けのアンモニアの確保へ取り組みを広げている。
石炭火力発電IGCCとIGFGで使われる「石炭ガス化技術」(大崎クールジェン)
https://www.osaki-coolgen.jp/technology/faq.html
ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/methanation.html
メタネーション技術=水素と二酸化炭素から天然ガスの主成分であるメタンを合成する技術。日本では、都市ガスの原料である天然ガスを、合成メタンに置き換えることで、ガスの脱炭素化を目指す。2030年時点で、既存インフラへ合成メタンを1%注入(年間28万トン)。2050年時点で90%(年間2500 万トン)を合成メタンに置き換える (残り10%は水素直接利用・バイオガス・その他脱炭素化の手立てでカーボンニュートラル化)
重要文化財で初適用…竹中工務店などが「和鉄」を現代技術で再現した鋼材のスゴイ特性
https://newswitch.jp/p/39668(ニュースイッチ2023.12.14)
竹中工務店と日鉄テクノロジー(東京都千代田区、谷本進治社長)は共同で、江戸時代末期まで国内の木造建築に使われていた和鉄の特性を現代技術で再現した鋼材「REI―和―TETSU(れいわてつ)」を開発した。重要文化財である太宰府天満宮末社志賀社本殿(福岡県太宰府市)の保存修理工事に初めて適用した。
れいわてつは、和鉄の特性を最新の科学技術で分析・評価し、成分組成を忠実に再現した鋼材。現代の鋼材に比べて鉄の純度が高く、耐食性や柔軟性に優れる江戸時代の和鉄の特性を引き継いだ。安定供給が可能で、主に文化財建造物の保存修理工事や伝統木造建築の復元工事で活用が見込める。
江戸時代を中心に製造年代を特定できる和釘(わくぎ)を入手し、原料や製造方法の新たな視点から成分組成を詳細に評価・分析した。この結果、和鉄から作られた和釘は、表面を覆う錆が木材の中で使用年数とともに強固な酸化皮膜を形成。内部の鉄を保護して錆の進行を抑えていたことや、極微量のニッケルなどが耐食性に影響することが分かった。
(コメント:ロストテクノロジーを現代技術で復活できた事例。頼もしい)