西欧中世の数ゲーム「リトモマキア」
数学の歴史の一コマ、西欧中世を席巻した"数のゲーム"「リトモマキア」について…チェスと同じくらい流行していたのですが、廃れてしまったという話。
用意するのは8×16のマス目があるボード。
チェスと同じように、2人のプレイヤー「奇数プレイヤー」「偶数プレイヤー」がボードを挟んで対戦します。各プレイヤーは、24個の駒を持ちます。
*****
★セットアップ
「奇数プレイヤー」が持つ24駒(黒い駒、x)
円形の駒(4個)[3]、[5]、[7]、[9]――[駒ナンバー]=x(※1~9のうち奇数)
円形の駒(4個)[9]、[25]、[49]、[81]――[駒ナンバー]=x2
三角形駒(4個)[12]、[30]、[56]、[90]――[駒ナンバー]=x(x+1)
三角形駒(4個)[16]、[36]、[64]、[100]――[駒ナンバー]=(x+1)2
正方形駒(4個)[28]、[66]、[120]、[※190]――[駒ナンバー]=(x+1)(2x+1)
正方形駒(4個)[49]、[121]、[225]、[361]――[駒ナンバー]=(2x+1)2
※特別数:190=82+72+62+52+42
【奇数プレイヤー(プレイヤー視点から見た盤面)】
↑対戦相手(偶数プレイヤー)の方向↑
●9 | ●7 | ●5 | ●3 | ||||
▲100 | ▲90 | ●81 | ●49 | ●25 | ●9 | ▲12 | ▲16 |
■190 | ■120 | ▲64 | ▲56 | ▲30 | ▲36 | ■66 | ■28 |
■361 | ■225 | ■121 | ■49 |
※特別数「190」はピラミッドを模した駒になっている事があるようです
-------------------
「偶数プレイヤー」が持つ24駒(白い駒、y)
円形の駒(4個)[2]、[4]、[6]、[8]――[駒ナンバー]=y(※1~9のうち偶数)
円形の駒(4個)[4]、[16]、[36]、[64]――[駒ナンバー]=y2
三角形駒(4個)[6]、[20]、[42]、[72]――[駒ナンバー]=y(y+1)
三角形駒(4個)[9]、[25]、[49]、[81]――[駒ナンバー]=(y+1)2
正方形駒(4個)[15]、[45]、[※91]、[153]――[駒ナンバー]=(y+1)(2y+1)
正方形駒(4個)[25]、[81]、[169]、[289]――[駒ナンバー]=(2y+1)2
※特別数:91=62+52+42+32+22+12
【偶数プレイヤー(プレイヤー視点から見た盤面)】
↑対戦相手(奇数プレイヤー)の方向↑
○8 | ○6 | ○4 | ○2 | ||||
△81 | △72 | ○64 | ○36 | ○16 | ○4 | △6 | △9 |
□153 | □91 | △49 | △42 | △20 | △25 | □45 | □15 |
□289 | □169 | □81 | □25 |
※特別数「91」はピラミッドを模した駒になっている事があるようです
*****
【ゲームのルール】
- 円形の駒(○、●)はマス目を1つ移動
- 三角形駒(△、▲)はマス目を2つ移動※
- 正方形駒(□、■)はマス目を3つ移動※
※昔の数え方では、現在のマス目を1つ目として数えた。なので、昔の言い方で言うと△▲は3マスを動き、□■は4マスを動く
@「遭遇/捕獲」…動けるマスの範囲内に相手の駒があり、同じ数字が書かれていた場合、自分の駒は相手の駒を取って、その位置に移動できる
@「突撃」…小さな数が大きな数を取る。
「自分の駒ナンバー」×「間にある空白のマス目の数」=「相手の駒ナンバー」の時、捕獲できる。この場合、移動できるスペース数に限界は無い
(例:[●9]×9コマ移動で、[□81]を取れる)
@「待ち伏せ」…小さな数の駒を2つ配置して、大きな数の駒の「遭遇・突撃」を防ぐことができる
(例:[●3][○8]の並びの所へ、待ち伏せしていた[●5]が1スペース動いて、全体で[●3][○8][●5]と並んだ場合→●3+●5(総合8)=○8となり、○8を取れる)
@「攻囲」…敵の駒に前後左右のスペースを塞がれた場合、自分の駒は死ぬ
小回りの利く[○2]、[●3]、[○4]、[●5]、[○6]、[●7]、数合わせの難しい[□153]、特別数[■190]は、「攻囲」方法でしか取れない。
同じく特別数[□91]も取りにくい駒で、「攻囲」または「待ち伏せ[●25]+[■66](総合91)」という方法でしか取れない。
【勝利判定は、現代から見るとかなり変わっていた】
例:勝利条件=「スコア160、捕獲駒5、桁数9」の場合
⇒奇数プレイヤーから奪うべき駒リスト=●5、●25、▲30、▲36、▲64
⇒偶数プレイヤーから奪うべき駒リスト=○2、○16、○36、△42、○64
ツウの人が「素晴らしい勝利!」とした駒並びの例
…勝負判定タイミングで、盤上で以下のようなナンバー並びになり、なおかつ「負け」側の駒が動けない
- 2-3-4-6(4/2=6/3、等比の組)
- 3-5-15-25(15/3=25/5、等比の組)
- 4-6-8-12(8/4=12/6、等比の組)
- 5-9-45-81(45/5=81/9、等比の組)
- 5-25-45-225(45/5=225/25、等比の組)
- 6-8-9-12(9/6=12/8、等比の組)
- 12-15-16-20(16/12=20/15、等比の組)
勝利条件が変わるたびに数の組み合わせが一変するので、チェスと同じような「定石を記憶する」という備えは、難しいそうです。
*****
★参考論文(PDFファイル)http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81001248.pdf
『リトモマキア:中世西欧の数学ゲーム』三浦伸夫,著(2002年3月)@国際文化学研究:神戸大学国際文化学部紀要,17:113*-143*
★iPhoneアプリ「リトモマキア(Rithmomachia)」、英語版、有料ゲーム
https://itunes.apple.com/jp/app/rithmomachia/id544328265
★参考書籍『数秘術大全』(青土社2010年)アンダーウッド・ダッドリー,著(アメリカ数学者)/森夏樹,訳
〈訳者あとがきより抜粋&引用〉…著者のダッドリーは数学者でありながら、というべきか数学者としての使命感のためなのだろうか、30年以上にわたって数秘術の研究を続けて来た。 ここではピュタゴラスに始まる数の神秘主義から、数秘術と呼ばれる数多くのジャンルまで、人間が数に託したあらゆる夢の数々が語られている。そしてダッドリーは次のような感想を抱いた。「数や数字には確かに力がある。が、その力は世間の出来事や人間の運命に影響を及ぼすものではなく、あくまでも人間の心に影響を与えるに過ぎない」