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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:ヘルダーリン「生の行路」「眺望」

生の行路(ドイツ詩人ヘルダーリン・作/手塚富雄・訳)

もっと偉大なことを求めておまえも昇ろうとした、しかし愛は
私たちすべてを引きもどす。悩みはもっとつよい力で私たちの軌道を下にたわめる。
だが私たちの生の虹が
ふたたび大地に戻るのは意味のないことではない。
昇るにせよ、下るにせよ、物言わぬ自然が
未来の日々を思念のうちに孕んでいる聖なる夜にも、
またはひびきの絶えた冥府にも、
愛のいぶきは吹きかよっているのではないか。
このことをわたしはようやく知った、この世の師たちとはちがって、
万物をたもつおんみら 天上の神々は
わたしの知るかぎり 心して
わたしをみちびいて平坦な道をいかせはしなかったのだ。
天上の神々はいう、人間はすべてのことを試みよ、
そして強い滋養をうけて すべてのことに感謝することを学べ、
そして知れ、自分の望むところを目指して
敢為に出発するおのが自由を と。

Die Aussicht / Friedrich Hölderlin

Wenn in die Ferne geht der Menschen wohnend Leben,
Wo in die Ferne sich erglänzt die Zeit der Reben,
Ist auch dabei des Sommers leer Gefilde,
Der Wald erscheint mit seinem dunklen Bilde.

Daß die Natur ergänzt das Bild der Zeiten,
Daß die verweilt, sie schnell vorübergleiten,
Ist aus Vollkommenheit, des Himmels Höhe glänzet
Den Menschen dann, wie Bäume Blüt umkränzet.

「眺望」

人の住む生の世界が遠ざかり
葡萄の時の輝きもはるかになれば
夏の野はうつろに拡がり
森は黒々とかたちをあらわしている。

自然が季節のかたちを補完し
とどまり そして過ぎ去るのは
完全性の故なのだ、天の高みはひとに
輝く 木を花が囲み咲くように。

『ヘルダーリン詩集』川村二郎・訳/岩波文庫

人間の住み慣れた生活が遠くへ去るとき、
葡萄の季節が遠くに輝く場所、
そこには夏の何もない広野がある、
森はその暗い姿で現れる。

自然が時の姿を補い、
自然が留まり、時が素早く通り過ぎて行くのは、
完全さに由来する、天の高みはその時
人間に向って輝く、木々の回りを花が飾るように。
(高木昌史・訳?)
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