詩歌鑑賞:西脇順三郎(眼・睡蓮・元)
眼/西脇順三郎
白い波が頭へととびかゝつてくる七月に
南方の奇麗な町をすぎる。
静かな庭が旅人のために眠つてゐる。
薔薇に砂に水
薔薇に霞む心
石に刻まれた髪
石に刻まれた音
石に刻まれた眼は永遠に開く。
宝石の眠り/西脇順三郎
永遠の
果てしない野に
夢みる
睡蓮よ
現在に
めざめるな
宝石の限りない
眠りのように
元/『西脇順三郎詩集』鹿門(ロクモン)
この野いばらの実の
夜明けは
この永遠という杯に汲まれて
新しい時間として流れはじめ
またいつしか去つて行く
でも人間よ
この青ざめた野原を
もう一度さまよつてみようか
また降る雪の中から
めざめるみどりの草を摘んで
あけぼののかゆに入れて
すすつてみようか
黄色のヒョウタンからしたたる
星のような酒で心を濡らして
もう一度よく考えてみようか
ほんのり山々の影が浮ぶとき
人間よ――はばたきして
時を告げてみようか
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