詩歌鑑賞:西脇順三郎(エピック)
「エピック」/西脇順三郎(部分抜粋)
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彼らに近づくには
困難な階段を登らなければ
ならない
脳髄は時間と空間を征服する
悪魔の笛の饗宴に
われわれは燕尾服を着た
栗と鶉(うずら)の間をさまよう色の
ネクタイをしめている
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外界と内界が
せせらぎの渦巻のように
混合する
やがてそれがかたまって
アメスィストのように光る
その宝石で舌が切れるまで
それをなめながら
この重い光明と暗黒の世界を
担いで歩く
人間が考えられない
オブジェを発見するのだ
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すべて内面だ
すべて外面だ
内面は外面だ
外面は内面だ
螺旋だけが残る
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ススキの生えた
外面の世界をのぼつて行く
内面はアマラントの影だ
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あの家の前にある
小さい庭は
一万年前の夢だ
永遠は回転しない
時間のロクロは
空間で廻るだけだ
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もめんづるのからむ
藪の路を
青ざめた人間が
通る
人間は果しないものへ
流れて
行く
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