詩歌鑑賞:北原白秋「水上」
「水上(みなかみ)」
水上は思ふべきかな。
苔清水湧きしたたり、
日の光透きしたたり、
橿(かし)、馬酔木、枝さし蔽(おお)ひ、
鏡葉(かがみは)の湯津(ゆづ)真椿(まつばき)の真洞(まほら)なす
水上は思ふべきかな。
水上は思ふべきかな。
山の木の神処(こころど)の澄み、
岩が根の言問ひ止み、
かいかがむ荒素膚(あらすはだ)の
荒魂(あらみたま)の神霊(かみむす)び、神つどへる
水上は思ふべきかな。
水上は思ふべきかな。
雲、狭霧、立ちはばかり、
丹(に)の雉子(きぎし)立ちはばかり、
白き猪(ゐ)の横伏し喘(あへ)ぎ、
毛の荒物のことごとに道塞(ふた)ぎ寝(ぬ)る
水上は思ふべきかな。
水上は思ふべきかな。
清清(さわさわ)に湧きしたたり、
いやさやに透きしたたり、
神ながら神寂(さ)び古(ふ)る
うづの、をを、うづの幣帛(みてぐら)の緒(を)の鎮(しづ)もる
水上は思ふべきかな。
水上は思ふべきかな。
青水沫(あおみなは)とよみたぎち、
うろくづの堰(せ)かれたぎち、
たまきはる命の渦(うづ)の
渦巻の湯津(ゆづ)石村(いはむら)をとどろき揺(ゆす)る
水上は思ふべきかな。
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