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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:北原白秋「水上」

「水上(みなかみ)」

水上は思ふべきかな。
 苔清水湧きしたたり、
 日の光透きしたたり、
 橿(かし)、馬酔木、枝さし蔽(おお)ひ、
 鏡葉(かがみは)の湯津(ゆづ)真椿(まつばき)の真洞(まほら)なす
水上は思ふべきかな。

水上は思ふべきかな。
 山の木の神処(こころど)の澄み、
 岩が根の言問ひ止み、
 かいかがむ荒素膚(あらすはだ)の
 荒魂(あらみたま)の神霊(かみむす)び、神つどへる
水上は思ふべきかな。

水上は思ふべきかな。
 雲、狭霧、立ちはばかり、
 丹(に)の雉子(きぎし)立ちはばかり、
 白き猪(ゐ)の横伏し喘(あへ)ぎ、
 毛の荒物のことごとに道塞(ふた)ぎ寝(ぬ)る
水上は思ふべきかな。

水上は思ふべきかな。
 清清(さわさわ)に湧きしたたり、
 いやさやに透きしたたり、
 神ながら神寂(さ)び古(ふ)る
 うづの、をを、うづの幣帛(みてぐら)の緒(を)の鎮(しづ)もる
水上は思ふべきかな。

水上は思ふべきかな。
 青水沫(あおみなは)とよみたぎち、
 うろくづの堰(せ)かれたぎち、
 たまきはる命の渦(うづ)の
 渦巻の湯津(ゆづ)石村(いはむら)をとどろき揺(ゆす)る
水上は思ふべきかな。
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