私製詩歌「神の火」
空に遍(あまね)く 押し寄せ群れて、
黒く闇(くら)めく 雲の八重波(やえなみ)、
重く乱れる 異界(よみ)の空気が、
閃光(ひかり)に裂かれて 震えだす。
しきりにひらめく 天地の梯子、
遥けき虚空(そら)も ものとせず。
あれは異界(よみ)の 天(あま)ツ御柱(みはしら)、
果てにあるのは 地球(ホシ)なのか。
山に野に 灰陽炎(はい-かげろう)は 舞い狂い、
歪みて 澄みて 見えもせず、
ただ轟々と 鳴り渡る。
世界は激動(シャクジ)の波目(ナメ)に 呑まれて、
怒濤に消えて 色目なし。
ああなお暗い 昼下がり、
草木岩根が 喚き居て、
残れる震(ナヰ)も 消えぬ間に、
またも沸き立つ 禍ツ霊(マガツヒ)よ。
烈(はげ)しき揺れに 皹(ひび)割れて、
口を開けゆく 彼(か)の山に、
神の血潮の かたちして、
火霊色(かぐつち-いろ)こそ 浸(し)み透(とお)れ。
我や先、人や先、
目はかすみ、息は詰み、
誰(たれ)とも知れぬ 手を追うて、
時をも知れず 駆け抜ける。
灰神楽、灰神楽、
あつく覆える 坂の上、
焼けて爛れて 神崩れ、
いつとも知れぬ 雨ごとに、
山を枯らしぬ――
川を枯らしぬ――
我が 愛(は)しきひと 埋(うず)めらる。
いつしかも 陽はまた 雲間に輝いて、
はや遠白(とおしろ)く 傾(かたぶ)きぬ。
雲間より 斜めに陽は洩れ、
遠く消え行く 暗き異界(よみ)。
うら麗(ぐは)し 山――
うら悲(がな)し 春――
うら恋(ごい)し 君――
雪な踏みそね ……
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