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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

いとも恐ろしき神なる豹の話(材料)

エジプトの悪神セトについて、正統派とはまた違うバリエーションの神話メモ

セト神は無秩序、不毛、悪と同化の象徴とされる。調和・和解の可能性を全く含まない絶対的な「対立」的な存在。

少なくとも8度は殺され、毎度、そのたびに生き返る。

神話において、セトは、二元論の両立を証明する神として動く。正義の概念があれば、それに対する対立概念=悪の概念として、セト神が充当されたと言える。

セト神が「神々の王」王位を得たのは、オシリスの贓物を盗むことによってである。オシリスの神威を奪取し、その借り物の神威をもって、世界的な影響力を及ぼす。これは「虎の威を借る狐」モチーフと共通していると解釈できる。

なお、異聞であるが、セトはオシリスを殺害した後、自身を豹に変化させたとされている。

豹の姿となったセト神は、証拠隠滅して逃走したが、アヌビス神がそれを捕縛し、裁判の末に烙印を施した。(トト神の書物に、その時の裁判記録が含まれる)

ちなみに、アヌビス神によって施された烙印の痕が、ヒョウ柄になったと言われている。儀式のときに豹の皮をマントとして身に付けるのが定番の風習となっていたのは、この時の、豹の姿をしたセト神に対する勝利を祈念しての事と伝えられている。ヒョウ柄のマントを最初に身に付けたのはアヌビス神である。

必然として、正統性を認められない借り物の神威によって築いた立場は、不安定である。

オシリスの正統な後継として、その神威を継ぐとするイシス(オシリスの妻)が、セト神を滅ぼしにかかる。

神話・異聞によれば、イシスはセトを噛みちぎり、セトは豹に姿を変えた。此処に「豹の神」としてのセト神が存在していた。

豹に姿を変えたセト神は、アヌビスに焼き殺された、とされる。その時の煙のにおいを、ラー神や他の神々が楽しんだとされるので、いちおう、芳香の類ではあったらしい。

実際、エジプト神話の遠い影響下にあった、欧州中世の神話幻想的な認識において、「豹(パンサー)は芳香を持つ」という説があった。欧州中世の一部の人々にとって、パンサーは、ライオンやユニコーンと並ぶ、キリスト教の世界を構成する聖なる動物であった。それは、リアル動物としての豹とは別物であることは、注意する必要がある。

話は再び、エジプトの豹神と化したセト神の、その後に戻る。

セトはアヌビスに焼き尽くされ、煙となったが、その後、よみがえったとされている。

元々はオシリスの正統な神威を継いだとするイシスが、セト神を嚙みちぎって、ダメージを与えたのが原因である。セト神はイシスに復讐を挑んだ。

セト神は雄牛の姿となってイシスを襲うが、イシスは尾が刃物になった犬に姿を変えて逃走する。おそらく犬神=アヌビス神の勢力をあげての協力があったのであろう。

イシスを遂に捕えることが出来なかったセト神は、砂漠で粗相したとされる。それを見てイシスはセト神を糾弾し、侮辱する。(おそらく諸勢力は、イシスの主張に賛意を示した)

イシスは勢いに乗り、セト神の不利を見て蛇に姿を変え、セトを噛み殺した。蛇を崇拝する派閥はエジプトに多く、大多数の味方があったことが窺える。

だが、セト神は、なおも再生した。砂漠の側に、セト神を支持する勢力が広がっていたのではないかと推測される。

セト神が再生するのを見た犬神アヌビスは、ハヤブサの姿となりホルスの目を回復させる(ホルスはオシリスの息子であり、セト神によってオシリスが殺害された時、目を失っていたと思われる)。

アヌビスは更に、トト神と協力して、オシリスを生き返らせる。ちなみにトト神は医学に優れていたとされているから、その辺りの加味があると思われる。

アヌビスは、勢力を盛り返したオシリス・ホルス派と共に、セト神を砂漠へ永久的に追放(ないしは封印)しようとする。

セト神はトト神の書物(裁判の記録?)を盗んだりしたが、最後に大きな戦いがあり、ホルスがセト神を殺害することで終結した。合わせて、セト神を信仰する土地を荒廃させ、セトの名や像を破壊する。

ホルス神(?)は、セト神の手を切り落とし、メスケティウ(天の大熊座)に送り、セト神を幽閉する。

※ここで、セト神=北極星(太陽ホルスと、永遠に対立する夜の星/北の星=不毛の星)認識の関係が生まれたと思われる。さらに豹皮の斑点の模様は、夜空の星と同一視され、死者の国の象徴ともみなされた。

セト神は、メスケティウ(天の大熊座)で、夜の星々=悪霊・死霊に守られ(=意味的・象徴的には、豹の皮の斑点の模様に包まれた状態ともいえる)、他の神々の接近を遠ざける存在となった。

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