詩歌鑑賞:「からだ」谷川俊太郎
からだ/谷川俊太郎
からだ――うちなる暗がり
それが私
ただひとりの
そよぐ繊毛の林
うごめく胃壁の井戸
ほとばしる血液の運河
からだ――闇に浮かぶ未知の惑星
それがあなた
私にほほえむ
*
いのちはひそんでいる
たったひとつの分子にも
だがみつめてもみつめても
秘密は見えない
見いだすのはいつも私たち自身の
驚きと畏れの――よろこび
*
そんなにも小さなかたちの
そんなにもかすかな動き
その爆発の巨大なとどろきを
誰ひとり聞きとることができない
いのちの静けさは深い
死の沈黙よりも
*
とおくけだものにつらなるもの
さらにとおく海と稲妻に
星くずにつらなるもの
くりかえす死のはての今日に
よみがえりやまぬもの
からだ
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