忍者ブログ

制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:ブレイク「狂ほしきうた」

「狂ほしきうた」/ウィリアム・ブレイク-作/寿岳文章-訳

風狂ほしく泣き、
 夜は冷たし。
ここに来て、睡眠よ、
 わがかなしみをくりひろげよ。
されど見よ! 東の崖の向ふより
 朝はさしのぞき、
あかときの鳥さやさや
大地をせせら笑ふ。

見よ! 石敷きつめし
 大空の底まで、
かなしみうちのせ
 わがうたごゑののぼりゆく。
このこゑ夜の耳をうち、
 昼の眼を泣かしむ。
そのこゑ吹きおらぶ風を狂はせ、
 あらしをもてあそぶ。

雲の中の羅刹のごとく、
 かなしみどどめあへず。
夜のあと追ひせまり、
 夜とともに我行かむとす、
われは東に背を向く、
 なぐさめの多かる東に。
ああ光ぞわが脳髄をとらへたる
 狂ほしき激痛もて。
PR

詩歌鑑賞:ブラウニング「岩陰に」

岩陰に/ロバアト・ブラウニング(翻訳:上田敏)

ああ、物古(ものふり)し鳶色(とびいろ)の「地(ち)」の微笑(ほほゑみ)の大(おほ)きやかに、
親しくもあるか、今朝(けさ)の秋、偃曝(ひなたぼこり)に其骨(そのほね)を
延(のば)し横(よこた)へ、膝節(ひざぶし)も、足も、つきいでて、漣(さざなみ)の
悦(よろこ)び勇み、小躍(こをどり)に越ゆるがまゝに浸(ひ)たりつゝ、
さて欹(そばた)つる耳もとの、さゞれの床(とこ)の海雲雀(うみひばり)、
和毛(にこげ)の胸の白妙(しろたへ)に囀(てん)ずる声のあはれなる。

この教こそ神(かん)ながら旧(ふる)き真(まこと)の道と知れ。
翁(おきな)びし「地(ち)」の知りて笑(ゑ)む世の試(こころみ)ぞかやうなる。
愛を捧げて価値(ねうち)あるものゝみをこそ愛しなば、
愛は完(まつた)き益にして、必らずや、身の利とならむ。
思(おもひ)の痛み、苦みに卑(いや)しきこゝろ清めたる
なれ自らを地に捧げ、酬(むくひ)は高き天(そら)に求めよ。

詩歌鑑賞:ブレイク「序詩/無明の歌」

「序詩/無明の歌」ウィリアム・ブレイク-作/寿岳文章-訳

古りにし日の樹の間をあゆみし、
神のみことばを、
耳に聞きて忘るるなく、
現在、過去、及び未来を見る
詩人の声を聞け!

行きはぐれたる魂を呼びつつ
露むすぶたそがれに泣きつつ。
そは星の空を
ととのへんため、
また落ちに落ちたる光をよみがへらせんため!

おお大地よおお大地よかへれ!
つゆしもの草より立て。
夜は更けて、
朝はいましも
睡迷のむくろより醒めむとす。

そむき去らざれふたたび。
なぜに汝はそむき去らむとする
星のゆか
水の岸辺の
ながものなるは夜あけまでなるに。