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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:伊藤静雄「曠野の歌」

わがひとに与ふる哀歌/伊東静雄

「曠野の歌」

わが死せむ美しき日のために
連嶺の夢想よ! 汝(な)が白雪を
消さずあれ
息ぐるしい稀薄のこれの曠野に
ひと知れぬ泉をすぎ
非時(ときじく)の木の実熟(う)るる
隠れたる場しよを過ぎ
われの播種(ま)く花のしるし
近づく日わが屍骸(なきがら)を曳かむ馬を
この道標(しめ)はいざなひ還さむ
あゝかくてわが永久(とは)の帰郷を
高貴なる汝(な)が白き光見送り
木の実照り 泉はわらひ……
わが痛き夢よこの時ぞ遂に
休らはむもの!
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私製和歌まとめ「はだれ雪」他

◇はだれ雪-淡くかそけく-透き通り-地球の空を-見れば悲しも

◇風は凍(し)み-川は冷え寂び-数千の-シガ流れたり-朝の静寂(しじま)に(「シガ」=川の流氷。久慈川に稀に現れる)

◇風吹けば-冬の枯草-うち靡(なび)き-さやぐ野中に-人立ち尽くす

◇照り映ゆる-青き惑星-流れ行く-水の輪廻(りんね)の-行方知らずも

◇遥かなる-宇宙(そら)に輝く-銀の河-天の蛇よと-語られし日よ

◇かの星は-妖霊星よ-灼熱の-響きの中に-砕けし星よ(2013年2月15日、ロシア・チェリャビンスクに隕石落下)

◇地(つち)裂けて-激(しげ)くナヰフル-時区切て-春の初めの-偲びごとせむ

◇春の夜-桜の花を-雨(あめふら)し-風と雲とも-移り行く季節(とき)

◇雪解けて-土の香りが-立ちのぼる-緑萌え行く-春の激しさ

◇雪崩荒らぶる-春が来る-人を呼び-人を呑むなり-白き神々

◇花吹雪-花ぞ散りける-チハヤフル-神も舞い散る-嵐の中に


◇春や春-ひとり佇み-世をわたり-今こそ惜しむ-暁露(あかときつゆ)を

◇夜の彼方-海の船影-見果つれば-いと遠白き-時の虚しさ

◇伊勢の海-常世の重浪-返す波-日尽きるその日-逢はむとぞ思ふ

《禁じられた恋を運命付けられた男女の相聞歌として考案。男―女―男の順。なお、第二と第三の歌では、男は出征・戦死してこの世に居ない。第三の歌は、男の幽霊が、依坐(よりまし)の如き存在に歌わせたという設定。「伊勢の海」が出てくるのは、「伊勢国=常世の波の重浪寄する国(古事記・日本書紀)」にちなんでいる》

私製詩歌「神無月叙情」

秋風は もみずる袖をひるがえし
梢に 陽差し斜めなり

澄み明らかなり 青き空
雲無き真昼の青空よ
果てなき空のわだつみよ

紺碧の 遥けき天(あめ)の彼方より
光は黄金(きん)と零(こぼ)れ落ち
木の葉と共に舞い降りる

…いよいよ冷たく冴ゆる季節(とき)…
白き風なり 白き風!
誰が袖ふれし 風の色!

冬近き 緑は黄金(きん)を照り返し
さらさらさやぎ しきりに揺すれ

…たまゆらの あやしき歌を 織り成しぬ…

冬を貫く 常盤(ときわ)の緑
寂静の緑の焔の 不動の悲しみ

重き荷を背負いて 傷ついて
それでも見上ぐ 《無限》の底を

…紺碧の空に白き風神…

秋風は もみずる袖をひるがえし
木の葉に 陽差し斜めなり

梢の先に 風が鳴る 風が鳴る――