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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

制作プロットのメモ「瀬戸内」

第三部マレヒト@第一章「瀬戸内」プロット

日付は全てストーリー上の架空の旧暦のもの

■09/04■

(前の章「東奔西走」からつづく)鏡父子、門崎から鳴門海峡の方向を望む。早朝の散策と対話。

鏡父へ、カキ眉の豹~異民族としての豹トーテムの民が大陸に居なかったかどうか、ふと思いついて、質問。

鏡父、大陸での記憶をもとに重要情報を明かす。大陸に聖麻王国があった頃、交易相手の国々が色々あって、西域にそれっぽい戦士集団を抱えていた王国があった。戦士たちは、何らかの契約でもって、豹の毛皮のようなパターンの刺青を上半身全体に施していた。彼らは「ジン・パン」といった=漢字で書くと「金斑」。直接に、金斑の由来につながる事実。

カモさん、御影王、良基、ネコマタ・ハイネは盗み聞きしていたが、全員でビックリして飛び出し、鏡父へさらなる説明を促す。

(鏡父の説明)金斑の戦士集団を抱えていた王国はアンゲロス皇国といった。西域の山岳地帯に栄えた王国で、国土の規模としては小さかったけど、無限と言って良い程の黄金を産出する、周辺諸国の垂涎の的となる資源国だった。強力な戦士集団でもってよく防衛していたが、大乾帝国が大軍でもって、攻略したため、アンゲロス皇国は滅亡した。

(鏡父の説明・つづき)アンゲロス皇国の戦士集団もバラバラになったようだ。脱走兵は出た。脱走して来た少年戦士があり、彼が聖麻王国にひそかに亡命して来た。少年兵といえども手練れの大人の戦士を倒せるほどの戦闘力があった。厳しい戦闘訓練を受けているのは明らか。その腕でもって、王室お抱えの護衛に=聖麻の姫とひそかに恋愛関係になり、そして出来た男子が、鏡の友人の亮である。

鏡父、これらのことは前代の聖麻王による箝口令が敷かれていて秘密になっていたが、いまはもう時効だろうと明かす。これで鏡父の説明が終わる。

それぞれに新たに判明した事で思案することがあり、検討。

やがて昼食の刻。鳴門海峡の潮流が切り替わる。

昼の潮流(潮止まり)に乗って、不審な忍者らしき小舟が忍び寄る。上陸し、御影王の隙を窺う。

不意を突かれ、御影王、不審者たちに拉致される。不審者たちは小舟を熟練の技術でもって操り、潮流の変化に乗って、猛スピードで鳴門海峡を渡る。

カモさんたち、即座に気付いて追跡するが、舟を持っておらず、見送るのみ。次の潮流の具合が良くなるまで、鳴門海峡を渡れない。次のチャンスは夕方の頃。ともかく急いで旅装を整え、いろいろ準備。

(鳴門海峡:直線距離1.4km。潮止まりの時の潮流は2~3km/時)

夕方出発。カモ一行に鏡父も加わる。鳴門海峡で漁をする漁業者と交渉、舟に同乗して、鳴門海峡を渡る。

四国へ上陸。ほどなくして、上陸地点の近くに、御影王と、拉致した不審者たちの痕跡を見つける。痕跡は北西へつづいている。「高松?」「まっすぐ高松へ向かうかどうかは怪しい」足跡が工作されている部分も見受けられるため。

カモ一行、鳴門海峡を渡った後で体力消耗が大きく、近くの輸送業者の宿場町へ寄る。そこで少し食事と休養。体力回復したところで、馬を1頭借りて、御影王の追跡を再開。あたりは夜間で、とっぷりと日が暮れている状態。

何故か夜空をカラスが飛んでいて、カモ一行を先導している状態。実はヤタガラス一味が使う偵察用のカラスで、夜目が利く。鏡父は初めて見るので不思議がる。

偵察用のカラスは方々を飛んで、早速、御影王の居場所を発見する。その近くで飛びながら騒ぐ。御影王は四国の大尊教の勢力(コトヒラ派)が有する分館のひとつに囚われていた。御影王の遠縁の従兄弟・類仁王が首謀者として、御影王をさらってくるよう指示を出していた。

類仁王は、新しい親王宣下つまり叡都王が親王となることについて、不平不満でいっぱい。目下、四国の大尊教も分裂して勢力衰退が大きいので、これを盛り返し、その結果について御影王から中央に話をするようにし、類仁王の功績をアピールさせたい。そうすれば、類仁王もその功績でもって、叡都王と同じように、親王宣下が来るだろうという見込み。ただし甘い見込み。

大尊教の別の一派(コンピラ派)が、いきなり夜間襲撃を仕掛けて来る。

類仁王を警護していたコトヒラ派はたるんでいたので、あっと言う間にコンピラ派によって制圧される。夜を徹して、説教道場で、コンピラ派の神学でもって説教される。

御影王と類仁王は、建物の隅に縛られ放置される。四国の霊峰・剣山から出て来た世界救済の予言、玉手箱=世界を救う「契約の箱」、それを原因とする四国の大尊教の分裂状況(コトヒラ派vsコンピラ派)について、ボケとツッコミの応酬。

■09/05■

早朝、御影王と類仁王は捕縛された状態のまま、同様に捕縛されたコトヒラ戦士たちと共に、コンピラ派に護送されて象頭山方面へ移動。分館はコンピラ派の戦士たち一部が残って警備・管理する。

大尊教の分館は、御影王と類仁王が連行された後は、コンピラ派の戦士たちがウロウロする場に。一方で、カモさん一行が分館へ接近中。

もう一方で、九鬼の御曹司・幸隆青年と、元・山伏の迫さんが別方向から分館へ接近。(カモさんたちとは別の目的。四国で、大尊教の派閥の分裂が大きいので、瀬戸内海の航路について交渉するため、いったん対立を収めてもらうよう説得する予定だった)

カモさん一行と、九鬼2人、分館へ向かう路上でバッタリ。互いに偶然の再会に驚きながらも情報交換。分館を急襲し、御影王の身柄を確保出来たら、次の段階、交渉事に移ることで同意。

合流したカモさん一行、分館を急襲、制圧。コンピラ派をとりあえずアチコチに拘束。コトヒラ派のほうは最初から牢の中。コトヒラとコンピラの対立状況に困惑しながらも事態を整理。事情聴取。御影王がすでに別の場所へ連れ去られたことを確認。

事情聴取を通じて、四国の大尊教に広がっている教義の対立が、剣山の予言にある事を突き止める。それは裏の光連衆が仕掛けたものと推測できる。タイミング的に、亡命してきたのが同じ。

鏡父、四国の大尊教を混乱させている特定の世界救済の予言の内容を聞いて、それはアンゲロス皇国の建国神話をなぞったものと気付き、指摘。欠き眉が地方回りの活動に熱心だった事実も含めて考えると、このような異形の予言は全国に広まっていると推測できる。カモさん、その大掛かりな神話的な侵略の構図に呆然。

何としてでも、大急ぎで金斑や光連衆と対決し、玉手箱を奪う必要がある。その方針を固めると、同じように玉手箱を狙うコトヒラ派とコンピラ派が反発するが、カモさんの説得により(我が国の亡国の危機につながる)協力的な行動をとる。

■09/06■

雨天。カモさん一行と、分館の残党たちは、コトヒラ派とコンピラ派の本拠地、四国の大尊教の本堂を目指して、街道を移動する。御影王と類仁王の追跡も兼ねる。

夕方、御影王と類仁王は、コンピラ派の戦士に連れられて、象頭山の界隈、コンピラの宮に到着。そのまま、座敷牢へ押し込められる。

コンピラの宮の座敷牢の中で、今までこのような乱暴な扱いを受けたことの無い類仁王はショックで色々喚くが、御影王は座敷牢に茶も用意してあるのを見て、落ち着いてお茶。「伊勢の時に比べれば随分とマシな扱い」

程なくして、座敷牢の前にコンピラ派の説教師がやって来て、コンピラ派の神学の巻物を手にして、深夜であるにも関わらず熱く説教し始める。延々と続く説教。御影王と類仁王は、呆れかえる。

同じ深夜、コンピラの宮の本堂。コンピラ教主が上座にいて、大勢の信者たちを睥睨。そこへ急使が到着し、玉手箱=契約の箱が、吉備国の「鬼ノ城」へ運ばれたと言う情報をもたらす。

つまり、現在時点、鬼ノ城を影響下においているコトヒラ派が玉手箱=契約の箱を手中にしつつあるということ。コンピラ教主は急遽、みずから赴いて鬼ノ城を攻略することを決断、信者たちに指示を下す。

■09/07■

コンピラの宮は、早朝から騒がしい。夜を徹して軍備を整え、今にも出発する段階。目的地は高松港、そこから吉備国を目指して瀬戸内海を渡る予定。

座敷牢に閉じ込められていた御影王と類仁王も引き出され、連行される。目的地は「鬼ノ城」と聞き、土地勘のある類仁王は即座に「目的地は吉備国で、これから吉備の穴海を渡る事になる」と真っ青。

類仁王は、実は船の揺れに弱い。吉備の穴海を苦手としている。

コンピラ軍、高松に到着。港は多くの軍船で物々しい。

カモさん一行も高松へ到着。(コンピラの宮へ通じる道が高松を通る。そのせいで、コンピラの宮から出て来た軍勢と、予想外に早く遭遇する形になった)

カモさん一行、すぐには事情が良く分からず、海事に詳しい九鬼メンバーが、心当たりのある情報先で色々聞き込む。村上軍の番屋でだいたいの事情が分かる。

村上軍の番屋の担当たち、前日に九鬼メンバーに大尊教の分館への道筋を案内したのが戻って来たので「鳴門の分館のほうへ行ったのでは無かったのか?」と仰天しながらも、事情説明。

大尊教が大きな動きを見せたと言う事で、高松港まで村上軍の大将がやって来て、カモさん一行を見出し、色々と情報交換。神戸の方で光連衆の残党を捕まえたなど、話が大きくなる。鬼ノ城に諸勢力が集まって、大混乱~大戦闘が発生する見込みが確実になった。

カモさん一行、村上軍を含む瀬戸内海の海軍と合流。瀬戸内海はかつて、欠き眉が絡む雨竜島戦争の余波を受けて大混乱になった事があった。再び血の海にするわけにはいかない。

カラスがコンピラの軍船をひととおり偵察、御影王と類仁王は、司令船に同乗させられている事が判明。好機を窺って、身柄を取り返す必要が出て来た。

村上軍の大将を旗印に、瀬戸内海のすべての海軍を緊急招集、鬼ノ城の混乱に備えるよう、急いで軍備整える。コンピラ軍が出港。その後で、瀬戸内海の海軍も追跡のため、瀬戸内海を渡る予定。

神戸で拘束した光連衆の忍者を児島の番屋で拘束中。事情聴取のため、カモさん一行、吉備の穴海を渡って児島へ上陸。コンピラ軍は夕方遅く、対岸の吉備国の沿岸(国分寺あたりの湾岸)に上陸。※中世の海岸は、地形がかなり入り組んでいる

児島の番屋にて、カモさん一行、忍者の尋問を始める。

拘束済みの忍者は、前もって塩田で日干し拷問されており、逃走を防ぐため眠り薬を盛ってあるので、グッタリしている状態。カモさん、呪術的手段で忍者の意識をハッキリさせ、尋問を始める。

忍者は、光連衆メンバーだが、元々は紅蓮教団の者。光連衆の内部構造を説明。上層部が胡蝶公主や大銭屋をはじめとする光連衆メンバー、中層部が欠き眉や紫銅を含む金斑メンバー、下層部(奴隷扱い)が紅蓮教団のメンバー。互いに火花を散らす関係。玉手箱=契約の箱に関しては争奪戦が始まっている。鬼ノ城は地獄になるだろう。

目下、鬼ノ城では、大尊教コトヒラ派が立てこもっている。

大尊教コンピラ派が上陸し、鬼ノ城を攻略しようと進軍している。

紫銅たち金斑は神戸の道を通って、鬼ノ城へと肉薄中。(欠き眉は目下、道成寺の妖異事件の時以来、行方不明だが、そろそろこの世界に出て来るタイミングなので、鬼ノ城に現れる見込みが高い)

ひそかに、光連衆(天角が率いる)も接近。

忍者が属する紅蓮教団メンバーも赤日をリーダーとして接近中。

深夜、アザミ衆メンバー、鬼ノ城へ続く山道の上で、ひそかに動く聖麻メンバーを発見。戸惑いながらも、聖麻も油断できない優秀なプレイヤーと気付く。聖麻の中も、上層~下層に分かれている筈。

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トールキン「神話を創る」

「神話を創る」――J.R.R.トールキン

神話は嘘の話、だから価値がない、たとえ
銀の笛で奏でられようと、と言った人へ

フィロミュトスよりミソミュトスへ(神話を愛する人から神話嫌いの人へ。即ちトールキンからC.S.ルイスへ)

君は木を見て、木と名づける、
(なぜなら木は〈木〉だし、生えるは〈生える〉だから)。
君は地球を歩く。宇宙にあまた在る
小惑星のひとつをもったいぶって踏みしめる。
星は星だ、なにやら球形をした物質で、
冷たい無限の空間を厳密に編成された
道のりに従って動いている、
毎秒、定めのままに、無数の原子が死にゆくなかを。

大いなる意志にわたしたちは従う(従わねばならない)が、
ただぼんやりと知るだけで、
大いなる行進は続き、〈時〉は
暗い始まりから不確かな目的地へと開示してゆく、
筋書がわからない物語を。
文字と色もあやに描かれた
無数のかたちが群れなして現れる。
恐ろしいもの、か弱いもの、美しいもの、奇妙なもの、
それぞれ異質であって、しかもひとつのはるかな
始原の裔(すえ)である、蚋(あぶ)、人、石、そして太陽。
神は石質の岩石、樹木のかたちの木木、
地球のかたちの地球、星型の星、そして
地上を歩き、光と音に触れると
うずいて震える神経を持ち、人のかたちをした人をお創りなされた。
海のうねり、木木の枝を吹く風、
緑の草、ゆっくり動く大きくて奇妙なかたちの牛、
雷と稲妻、空に輪を描き飛び鳴く鳥、
泥から這いあがって、生きて、死ぬなめくじ、
みな、ひとつひとつ
脳のしわにきちんと刻まれている。

木はまだ〈木〉ではない、木と名づけられて、見られるまでは。
人が言語のこみいった息づかいを解きほぐすまで、
木は木という名前を持たなかった。まだ世界の
発する微かなこだまとおぼろげな絵、
音もかたちも捕えがたい
予見、判断、そして笑い。
木木や獣たちの星星の生死を告げる
深い動きに心動かされて
人は木を木と呼んだのだ。
見えない壁を掘り崩し、経験から先見を見つけ
感じたことから知識を掬い分けて、
囚われていたものを解き放った。
人はゆっくりと自らのなかから偉大な力を採り出した。
振りむくと妖精たちが
巧みに鍛冶場を作り、
秘密の織り機で光と闇を織り合わせるのを見たのだ。

古い歌に歌われた、花のように輝き燃える
力強い銀の星を見た人こそが、
空の星を見るのだ。その歌の
名残のこだまを、人は
追い求めて来た。神話が織りなし、
妖精が宝石をちりばめ飾った
空の天幕がなかったら、大空は無く、空虚あるのみ。
大地もない、命の源である母の胎(はら)がなかったら。
人の心は嘘でできているのではなくて、
全知の神からいくばくかの知恵を仰いだものとして、
いまなお神を想いおこす。楽園を追われて久しくとも、
人は堕落しきったのでもなく、まったく変わってしまったのでもない。
神の恩寵を汚したかもしれないが、被造物の王座を追われてはいない。
かつてまとうていた王の衣、その破衣(やれい)を、
世界の主権を、創造という行為を通してまだ持っている。
巨大人工物など崇めようとは思わぬ。
人は準創造者、屈折した光、
唯一の神の純白の光を多様な色に分け、
無数の組み合わせによって、
心から心へと伝わる生きたかたちを創る者。
わたしたちは、世界中の大地の裂け目を
妖精や小鬼で満たし、大胆にも闇と光から
神々を創り、神の館を建て、竜の種を蒔いた。
創ることは人の権利だ(善く使われたこともあるし、悪用されたこともあるが)。
この権利は衰えていない。今なおわたしたちは
神の定めた掟のままに創造するのだ。

そうなのだ! 願いをかなえる夢をわたしたちは紡ぐ、
臆病な心と醜い事実を打ち負かすために。
願いはどこから、夢見る力はどこからくるのか?
そして善いもの、醜いものを知り分ける力は?
すべての願いは無駄でなく、わたしたちはいたずらに
願いをかなえようとするのではない。ただ痛み苦しみは
願い下げだ、悪いものだから。
願いを叶えようと焦るのも、願いを抑えるのも、
ひとしく神の恩寵に背くこと。そして悪についておそろしくも
確かなのは悪は存在するということだ。

幸いなるかな、臆病な人よ。悪を憎み、
悪の影に脅えながらも、門を閉ざして、
会うことをこばみ、狭く家具もない部屋にひきこもって、
ままならぬ織り機に向かい、影の支配のもと
希望と親交の揺らぐことなかった昔日の
金箔を施した薄絹を織る人よ。

幸いなるかな、ノアの一族よ、小さな箱舟を作り、
もろく積荷も乏しいながら、逆風のなか、
信仰の導くままに、人びとの噂をつてに
まぼろしの港に向かって漕ぎ進んだ人びとよ。

幸いなるかな、伝説の作り手よ、
有史以前のことどもを詩に歌った人びとよ。
彼らは夜を忘れなかった。
物質的快楽を求めて、蓮食い人の住む島の
組織ぐるみの歓楽に逃避せよと命じたり、
キルケのキスをいたずらに約束などしなかった。
(それは、機械で作られた偽の誘惑、
二重に誘惑された者の偽の誘惑というものだ。)

そのような島島、さらに美しい島島を詩人たちははるかに見た。
その話を聞くものは今なお用心するがよい。
詩人たちは死と究極の敗北を見たのだが、
それでも絶望して退こうとはしなかった。
幾たびも竪琴を奏でて勝利に導いた。
心に伝説の火をともし、
現在と暗い来し方を、人がまだ目にしたこともない
太陽の光で照らし出した。

わたしは吟遊詩人とともに歌い、
目に見えぬものを竪琴の震える弦に呼びおこしたい。
険しい絶壁で細長い木を伐りだし
あてもないさすらいの旅に船出して、
伝説の西方の国のかなたに行ったという、
大海原の船乗りたちとともに旅したい。
わたしは愚者たちとともに語り伝えられたい。
隠れ家に金の原石を僅かながらも蓄えて
はるかな古(いにしえ)の王のおぼろげな像をかたどって、
目に見えぬ神の輝く紋章を
不思議な旗に織り上げる愚者たちとともに。

わたしは、君の直立した賢い
進歩的なサルといっしょには歩くまい。その進歩の
行く手には闇の地獄が口をあけているから――
神の慈悲によって進歩が止まるのでなければ。
名前を変えるだけで、絶え間なく
無益な進行を繰り返すだけならば。
わたしは君のほこりまみれの単調な道を
あれこれにあれこれと印をつけながら行きたくはない。
君の変化にとぼしい世界の中では、小さな作り手が
作る技を生かす場所を持てないからだ。
わたしはまだ鉄の王冠に屈しない、
わたしはこの小さな黄金の笏を捨てはしない。

天国で、時として、永久不変の白昼から
目をそらし、太陽に照らされた地上の
真理の似姿を思い起こすことがあるかもしれない。
そして天国を目のあたりして、すべてはあるがままで、
しかも解き放たれて自由であるのを見るであろう。
主なる神の救済は変わることなく、
庭も庭師も、子どもも玩具も、破壊されることはない。
目は悪を見ないであろう、なぜなら悪は
神の描く絵にはなく、ゆがんだ目の中にあるからだ。
起源にはなく、邪悪な選択にあるからだ。
音にではなく、調子はずれの声にあるからだ。
天国で、人びとはゆがんだ目で見ることはない。
新たに作るけれども、嘘は作らない。
人びとはなおも作ると信じるのだ、死んではいないのだから。
詩人は頭上に炎を戴き、
竪琴がそのあやまたぬ指に天降るであろう。
天国では、ひとりひとりが、永遠に、森羅万象から選ぶのだ。

グリーン・エフェメラル

【グリーン・エフェメラル考…緑白(あおじろ)い宇宙観】

今回のエントリは、「なんちゃって断章」としてまとめてみました

「坂下宿」で引用していた、道元『正法眼蔵』の私的解釈といったものになります。『深森の帝國』ならではの、「色眼鏡がかかった解釈」なので、その点ご了承いただければ、幸いです…(正統なアカデミズムにのっとった解釈ではありません)

『正法眼蔵』のエッセンスが濃密に詰まっている…と感じているのが、山頭火の以下の俳句であります…(それで、時代考証を無視して、「坂下宿」に引用したのであります)

生(しょう)を明(あき)らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり(修証義)
生死(しょうじ)の中の雪ふりしきる…(山頭火)

ここからが、当サイトならではの解釈…「グリーン・エフェメラル考」になります。

宮澤賢治の作品に、以下のような歌があります。

そらに居てみどりのほのほかなしむと地球のひとのしるやしらむや…(宮澤賢治)

この作品を知ったのは割と最近のことなのですが、ほのかな幽体離脱感覚が感じられて、それなりに宇宙的オカルトな歌である…と思っています。なにげに伝統的和歌の範囲も拡張しているらしいのが、また興味深いなという感じです…

宮澤賢治が、本当に幽体離脱体験をしていたかどうかは知りません。ただ、かれは若くして結核をわずらったと言われており、死線をさ迷い続けた時間は、とても深い体験をもたらし続けていた時間でもあったのだろう…と推測するのみです。

昔、個人的に…理由は分かりませんが、宇宙遊泳感のある作品を作った事があります。実を言えば、『深森の帝國』物語そのものの序詩として『深森の鎮魂曲』という詩歌を作っていまして、この作品の、特に「みどりのうみ…」の部分の元となったイメージでもあります:

電場磁場あやと織り成すその果てにプラズマ燃える地球磁気圏…私製

作ったその当時は、まだどのように説明したらよいのか分からずに放置していたのですが、その後、宮澤賢治の歌を知り、山頭火と『正法眼蔵』を知り、今回の物語シーンを構想してみて、個人的にだんだん納得してきた…という気分であります。

(何はなくとも、物語は作ってみるものですね…)

私製の上の歌は、読んで分かるように、オーロラ現象を歌ったものです。

オーロラは、大気中の原子がプラズマ粒子によって励起され発光する光の集合体です:

  • 上空=濃密な酸素原子=レッド
  • 中空=希薄な酸素原子=グリーン
  • 低空=希薄な窒素原子=パープル&ピンク

(参考)オーロラについて詳しいサイト:[オーロラのしくみ

よく見られるのは、希薄な酸素原子が発する緑の炎だそうです。原子核の周りに不確定性の渦を巻いて回転し続ける電子軌道、その軌道の高揚の命はあまりにも短く、その短い一瞬が、あのような美しい緑の…緑白(あおじろ)い光を生み出す。

そして、希薄な大気の中、次にどの酸素原子の軌道が燃えるのかは、まったくの未知の領域にあります。過去にどの原子の軌道が燃えたのかは、分かっている…しかも、その記憶はだんだん薄れてゆくものです。そして、未来にどの原子の軌道が燃えるのかは、分からない。

…「今」という時空は、厳粛なる運命の〈遭遇〉で出来ている…

地球の生命を支える酸素が出す、一瞬の緑の炎…緑のアラベスク。この地球においては、生の贈与も、死の贈与も、酸素の役割…生命に欠かせない水もまた、そうです。水は、水素と酸素の化合物です。

グリーン・エフェメラル…たまゆらの、プラズマの火花。この現し世に、たまさかに映し出されて輝く、一期一会の命の息吹き。(霊能者みたいに「謎のビジョン」で見たわけではなく、単にオーロラの記録動画をじーっと見て、ふと思った、というだけの事ですが…)

個人、個人、というローカルな地球人(アーシアン)の〈場〉も、そのようなものかも知れません。

泉の底のエリキシル…と仮に名づけてみた、そういう、目を開けていられないほどのまばゆい永遠の光に貫かれて、たまさかのこの現し世に、「地球」という名を授かった深い闇の中に、「命」という名前のオーロラを映し出す。

さらに言えば、「宇宙」という事象もまた、時空マトリックスの闇の中に、たまさかに輝くグリーン・エフェメラルでは無いでしょうか…「グリーン・エフェメラル」。当サイトの言葉でイメージングするなら、「みどりのうみ」であり、「深森の鎮魂曲」であります…

電場と磁場の中を揺らぎ続ける、無数の星々の不確定性潮流…自らの重みで重力場を作りながらめぐり続ける生と死の渦巻き、巨大な幻影の中の乱舞。

<渦巻きに関する考察は、螺旋という象徴図形の考察にもつながり、自分でも訳が分からなくなって混乱してくるので、省略です。

…以上のように、『正法眼蔵』の奥義を、詩的に想像してみましたが…

さしたる霊感も無いですし(霊的知識はもっと無いですし)、理系知識の地道な延長に過ぎない平凡なもので…自分が説明できる「何か」と言っても、こんなものだろうなと思いつつ…;