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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

新戦略「海洋プレッシャー戦略」記事メモ

《記事本文が長いので要点メモのみ》

中国の台湾や尖閣攻撃に対処する米最新戦略/米国有名シンクタンクCSBAが新戦略「海洋プレッシャー戦略」発表

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56655


ワシントンDCに所在の有名なシンクタンク「戦略予算評価センター(CSBA)」が米国のアジア太平洋地域における戦略として「海洋プレッシャー(Maritime Pressure)」 (注:海洋圧力ではなく、海洋プレッシャーを採用する) 戦略とその戦略の骨幹をなす作戦構想「インサイド・アウト防衛(Inside-Out Defense)」を提言している*1。

(*1=CSBA, “TIGHTENING THE CHAIN IMPLEMENTING A STRATEGY OF MARITIME PRESSURE IN THE WESTERN PACIFIC”)

この戦略は、強大化する中国の脅威に対抗するために案出された画期的な戦略で、日本の南西諸島防衛をバックアップする戦略であり、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」とも密接な関係がある。

【海洋プレッシャー戦略の背景】

海洋プレッシャー戦略が発表される以前に、これと関係の深い戦略や作戦構想が発表されてきた。例えば、CSBAが米海軍や空軍と共同して発表したエアシーバトル(ASB)は特に有名だ。

そのほかに、CSBAセンター長であったアンドリュー・クレピネヴッチの「列島防衛(Archipelagic Defense)」、米海軍大学教授トシ・ヨシハラとジェームス・ホームズの「米国式非対称戦*2」、海兵隊将校ジョセフ・ハナチェクの「島嶼要塞(Island Forts)」などだ。

(*2=Toshi Yoshihara and James R. Holmes “Asymmetric Warfare, American Style”)

ASBと密接な関係のある列島防衛戦略としての海洋プレッシャー戦略がトランプ時代に復活したことには大きな意義がある。米中覇権争いにおいて米国が真剣に中国の脅威に対処しようという決意の表れであるからだ。

【既成事実化(fait accompli)をいかに克服するか?】

この戦略のキーワードの一つは「既成事実化」だ。

これは、「相手が迅速に反応できる前に、状況を迅速・決定的に転換させること」を意味し、ロシアが2014年、ウクライナから大きな抵抗や反撃を受けることなくクリミアを併合した事例がこの「既成事実化」に相当する。

台湾紛争を例にとると、中国が台湾を攻撃し、米軍が効果的な対応をする前に台湾を占領してしまうシナリオを米国は危惧している。この場合、台湾占領が既成事実となり、これを覆すことは難しくなるからだ。

広大な太平洋を横断して軍事力を展開することは、米軍にとっても決して容易なことではない。

紛争地域外にいる米軍は、紛争現場に到着するために、中国の接近阻止/領域拒否(A2/AD)ネットワークを突破しなければならない。米海兵隊司令官ロバート・ネラー大将は「我々は戦場に到達するための戦いをしなければならない」と述べている*3。

(*3=ロバート・B・ネラー、下院歳出委員会・国防会議での証言、2018年3月7日)

【海洋プレッシャー(Maritime Pressure)戦略】

海洋プレッシャー戦略の目的は、西太平洋での軍事的侵略の試みは失敗することを中国指導者に分からせることだ。

海洋プレッシャー戦略は、防御的な拒否戦略で、従来提唱されていた封鎖作戦(blockade operations)や中国本土に対する懲罰的打撃を補完または代替する作戦構想である。

海洋プレッシャー戦略は、第1列島線沿いに高い残存能力のある精密打撃ネットワークを確立する。

米国および同盟国の地上発射の対艦ミサイルや対空ミサイルの大量配備とこれを支援する海・空・電子戦能力で構成されるネットワークは、作戦上は非集権的で、配置は西太平洋の列島線沿いに地理的に分散されている。

海洋プレッシャー戦略は、国防戦略委員会の要請に対する回答で、インド太平洋地域における中国の侵略を抑止するために前方展開し縦深防衛態勢を確立するなどの利点を追求すること、そして米国のINF条約からの離脱などの政策決定を勘案した案を案出することが求められた。

【インサイド・アウト防衛(Inside-Out Defense)】

海洋プレッシャー戦略ではまず、距離と時間の制約を克服し、米軍の介入に対する中国の試みを挫折させ、既成事実化を防ぐという作戦構想「インサイド・アウト防衛」を採用する。

インサイド・アウト防衛とは、インサイド部隊とアウトサイド部隊による防衛だ。

インサイド部隊は第1列島線の内側(インサイド)に配置された部隊(例えば陸上自衛隊)のことで陸軍や海兵隊が中心だ。

アウトサイド部隊は第1列島線の外側(アウトサイド)に存在する部隊で海軍や空軍の部隊が主体だ。

インサイド・アウト防衛は、中国が米国とその同盟国に対して行っているA2/ADを逆に中国に対して行うことなのだ。

すなわち、西太平洋の地形を利用して、中国の軍事力を弱体化させ、遅延させ、否定するA2/ADシステムを構築しようということだ。

インサイド部隊は、厳しい作戦環境で戦うことのできる攻撃力と敵の攻撃に対して生き残る強靭さを持った部隊だ。

アウトサイド部隊は、機敏で長距離からのスタンドオフ攻撃が可能で、中国のA2/ADネットワークに侵入して戦うことのできる部隊だ。

これらの内と外の部隊が協力して、人民解放軍の攻撃に生き残り、作戦する前方縦深防衛網を西太平洋に構築し、紛争初期において人民解放軍の攻撃を急速に鈍らせる。

米国が中国との紛争に勝利するためには、インサイド・アウト防衛だけでは十分ではないかもしれないが、既成事実化を回避することはできる。

また、懲罰的攻撃や遠距離からの封鎖といった他の作戦が効果を発揮するために必要な時間を提供することもできる。

インサイド・アウト防衛がより手ごわい防衛態勢を中国に提示することによって、危機において中国が大規模でコストのかかる紛争のエスカレーションを避け、緊張の緩和を選択するように導くことを目指している。

【「インサイド・アウト防衛」の4つの作戦】

「インサイド・アウト防衛」は、次の4つの主要な作戦で構成される。

・海上拒否作戦:中国の海上統制に対抗し、中国の海上戦力投射部隊を撃破するための第1列島線での作戦

・航空拒否作戦:中国の航空優勢に対抗し、中国の航空宇宙戦力投射部隊に勝利するための第1列島線における作戦

・情報拒否作戦:中国の情報支配に対抗し、米国の情報優位を可能にする作戦

・陸上攻撃作戦:中国の地上配備のA2/ADシステムを破壊し、中国の戦力投射部隊を味方またはパートナーの領土に引き寄せるための作戦

次の3つのサポート・ラインにより、上記4つの作戦が可能になる。

・競合が激しくパフォーマンスが低下する環境においてC4ISRシステムを確保し、米国の情報の優位性を可能にする

・中国のマルチドメイン攻撃から友軍と基地を防御する

・攻撃されている間、分散した戦力を維持する

【海洋プレッシャー戦略に対する評価】

・米中覇権争いの様相が濃くなり、米中のアジア太平洋における衝突の可能性が取り沙汰されている。

中国が目論む台湾占領などの既成事実化を許さない海洋プレッシャー戦略は、米中紛争を抑止する戦略、日本の防衛をバックアップする戦略として評価したい。

・海洋プレッシャー戦略を成立させるためには、第1列島線を形成する日本をはじめとする諸国(台湾、フィリピン、インドネシアなど)と米国との密接な関係が不可欠である。

国防省や国務省はその重要性を深く認識しているだろうが、唯一不安な存在は、アメリカ・ファーストを主張し世界中の米国同盟国や友好国に緊張をもたらしているドナルド・トランプ大統領だ。

アメリカ・ファーストを貫くと、関係諸国との関係がより親密になるとは思えない。

・自由で開かれたアジア太平洋戦略や海洋プレッシャー戦略のためには米軍のさらなる前方展開が必要だが、米国内にはこれに抵抗するグループがいる。

米中覇権争いにおいて、米国は本当に中国の脅威の増大に真剣に対処しようとしているのか否か、その本気度が試される。

・我が国は、この海洋プレッシャー戦略を前向きに評価しつつも、これに過度に頼ることなく、わが国独自に進めている南西防衛態勢の確立を粛々と推進すべきだ。

いずれにしても、中国の増大する脅威に日本単独で対処することは難しい。常に日米同盟の強化、第1列島線を構成する諸国との連携を今後さらに推進すべきであろう。


こぼれ話

【川端祐一郎】米軍が落とせなかった橋
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190523/

【https://twitter.com/h_criterion/status/1131727373219483648】
“米軍の航空機が多数の大型爆弾をもって攻撃を繰り返したものの、一向にこの橋を崩壊させることができません。困った米軍は、橋の設計に携わった小田技師を呼び寄せて「どこを狙えば落とすことができるのか」と相談までしたそうです。”/【川端祐一郎】米軍が落とせなかった橋

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トゥキュディデスの罠・米中冷戦の記事メモ

◆「トゥキュディデスの罠」にかかった習近平
/2018.12.27記事(日経ビジネス)

将来の世界史の教科書は、2018年を「米中冷戦がはじまった年」と記述することになるでしょう。10月4日にトランプ政権の重鎮であるマイク・ペンス副大統領が、保守系外交シンクタンクのハドソン研究所で、中国に関する長時間のスピーチを行いました。
ペンスは19世紀以来の米中の友好の歴史を振り返ったあと、「改革開放」と称する中国の市場開放が、政治的自由、個人の人権の尊重、信教の自由に広がるだろうというアメリカの期待は裏切られたと語りました。
今は中国は不公正な貿易、米国企業が持つ知的財産権の侵害と軍事転用、南シナ海での際限なき軍拡、IT(情報技術)を駆使した検閲と監視システムの強化、チベットやウイグルでの少数民族弾圧、あらゆる宗教への政治介入、途上国への投資をてこにした軍事基地の建設、米国内の企業・大学・シンクタンク・マスメディアへの資金提供とプロパガンダ、米国の選挙への介入について実例を挙げてペンスは非難し、「トランプ大統領は引き下がらない。われわれの安全保障と経済のため、力強い態度を維持する」と明言したのです。

覇権国家と新興国との対立が大戦争をもたらす

古代ギリシアで陸軍国スパルタと海軍国アテネが約30年にわたって戦ったペロポネソス戦争。この戦争を記録したアテネの歴史家トゥキュディデスは戦争の要因について、新興国アテネが、旧覇権国家スパルタの地位を脅かしたことにある、と喝破しました。
米国の政治学者グレアム・アリソンは、このような覇権国家の交代が大戦争の要因になっているとして、「トゥキュディデスの罠」と名付けました。覇権国家イギリスに新興国ドイツが挑戦したのが第一次世界大戦、覇権国家アメリカに日本とドイツが挑戦したのが第二次世界大戦でした。
新旧両大国間で譲歩と妥協ができれば、この種の戦争を回避することができます。イギリスからアメリカへの覇権交代は、第一次世界大戦で疲弊したイギリスがワシントン会議で軍縮に応じた結果、平和的に実現しました。
第二次世界大戦後、東欧諸国と東アジアに勢力を拡大したソ連に対し、アメリカは圧倒的な核戦力でこれに対峙し(米ソ冷戦)、直接戦わずにソ連を崩壊へと導きました。

「トゥキュディデスの罠」にかかった帝国陸軍統制派

英・米はロシアの東アジア南下を防ぐため、防波堤としての大日本帝国を育てあげました。日本は日露戦争で英・米の期待に応え、英国は日英同盟、米国はポーツマス会議で日本をサポートしました。日本の戦時国債も、ロンドンとニューヨークで売りさばかれました。
日本は第一次世界大戦にも貢献して国際連盟の常任理事国になりました。しかし、その地位はあくまで東アジアの地域覇権国家であり、米・英に挑戦することは許されなかったのです。ワシントン海軍軍縮条約での米・英・日の戦艦保有率5:5:3はそのことを如実に示しています。日本の経済力を考えれば、この地位に満足すべきでした。
関東軍参謀・石原莞爾は、20世紀の後半に日米が太平洋の覇権を争って激突するという「世界最終戦論」を唱えました。米国との国力の差を縮めるために、満州を占領して工業化し、長期戦に耐えうる体制を確立しようとしました。満州事変(1931年)は、そのために起こしたのです。
しかし、二・二六事件(1936年)を機に日本陸軍の中枢を握った東條英機ら統制派は、石原のような遠大な構想も戦略も持ちえませんでした。補給も考えずに中国戦線を拡大し、日米関係を後戻りできないところまで悪化させ、準備不足のまま真珠湾を攻撃したあげく、4年で国を滅ぼしました。「トゥキュディデスの罠」にかかったのです。

習近平の中国は1930年代の日本と似てきた

中国も米国に育てられました。ペンス演説にもあるように、19世紀末に中国(清朝)が列強の勢力圏として分割されたとき、米国は常に中国の領土保全と門戸開放(自由貿易)を要求し、植民地化に反対してきました。大日本帝国が台頭すると一貫して中国の側に立ち、蒋介石政権を支援し続けました。第二次世界大戦後は、ソ連の脅威に対抗するため毛沢東の中国と手を結び(ニクソン訪中)、ばく大な対中投資を行なってきました。
中国は1970年代から太平洋進出を計画していました。2010年までに沖縄~フィリピン(第1列島線)から、2020年までに小笠原~グアム島(第2列島線)から米軍基地を撤収させ、中国海軍の内海にするというプランです。しかし鄧小平政権はこの野心を決して表に出さず、米中友好を演出してきました。「韜光養晦」(とうこうようかい)――能ある鷹は爪を隠す――戦術です。
ソ連崩壊(1991年)で「防波堤」としての中国の役割は終わりましたが、投資先として米国の金融資本を魅了し続けました。ばく大な対中投資は人民解放軍の軍備拡張に使われ、中国は米国本土を射程に収める核ミサイルを持つに至りました。
胡錦濤政権時代の2007年に訪中した米太平洋軍のキーティング司令官(当時)は、人民解放軍幹部から「太平洋を米中で二分しよう」と提案されたと証言しています。GDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位となった中国。いまや習近平政権は、「米国恐るに足らず」と判断し、「韜光養晦」戦術をやめて公然と爪を研ぎ始めたのです。いまの中国は、1930年代の日本とよく似ています。
ともに核保有国である米中が、全面戦争になることはないでしょう。しかし核ミサイルが飛び交わなくても、サイバー空間における「真珠湾攻撃」はありえます。中国人民解放軍は1万人ともいわれる正規のサイバー部隊のほか、数百万人の民間人が「サイバー民兵」として軍に協力しており、米国の政府・軍・企業に対するサイバー攻撃はすでに日常化しています。もちろん日本も対象になっています。これに対して米軍のサイバー部隊は6000人、自衛隊のサイバー部隊は500人。安倍政権が防衛大綱を見直し、ようやくこれを見直そうという、お話にならないレベルです。

中国が「歴史に学ぶ」べきこと

中国人民解放軍とも繋がりの深い通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の機器が、遠隔操作可能なマイクロチップを組み込んでいると報道され、トランプ政権は政府機関から同社の製品を排除する通達を出しました。英・豪・仏もこれに同調し、日本でも安倍政権が同社の製品を政府調達から排除しました。この問題の急展開も、米国がいかにサイバー戦争を警戒しているかの証(あかし)です。
米国はソ連に対して功を奏したような、長期的な「対中封じ込め」を行うでしょう。中国との貿易、対中投資は徐々に規制され、同盟国にも同調を求めてくるでしょう。トランプがはじめた「米中貿易戦争」はその始まりであり、これを単に米国の貿易赤字解消の手段と見るべきではありません。
習近平政権には、
(1)米国の軍門に下って臥薪嘗胆するか
(2)ソ連のように「封じ込め」に耐えながら徐々に衰退するか
(3)日本のように「真珠湾攻撃」に打って出て国を滅ぼすか
の3つの選択肢があります。
日本に対し、事あるごとに「歴史に学べ」と説教するのがお好きな中国の指導者たちが、まさか(2)・(3)の道を選ぶことはないであろうと私は期待します。(茂木誠)

◆中国の新興はトゥキュディデスの罠か?国際社会に差し迫る本当の脅威とは
/2018.06.08記事(JBPRESSより抜粋)

戦前の独英あるいは日米と現代の状況とを比較する際、決定的に異なる要素がある。当時は核兵器が存在しなかったのだ。核兵器が存在し、「相互確証破壊」(mutually assured destruction:通称MAD)が起きる潜在的可能性のある状況下では、国家間の全面戦争が起きるとは考えづらい(あくまで「理性的な」指導者を想定した場合だが)。
アリソン教授の事例研究もこの結論を裏付けるものだ。ヒロシマ以後の世界において、教授は2つの「トゥキュディデスの罠」を取り上げている。1つは、ソビエト連邦がアメリカ合衆国に対して世界の覇権を巡り挑戦した時代。もう片方は、統一ドイツが欧州最大の勢力となった1990年代だ。これら双方とも戦争には発展しなかった。これらは(アリソン教授の合計16の事例のうち)戦争が回避された4つのうちの2つだ(その他の2つは、15世紀末にポルトガルを追い越したスペインの例と、19世紀の初めにイギリスを追い越したアメリカだ)。
【結論:非対称性がより大きな難題を突きつける?】
このように、20世紀初頭から現代にかけては典型的な「トゥキュディデスの罠」との類似性よりも「違い」の方が際立っているといえよう。新興の中国と(相対的な)地位を落とすアメリカの対立が「hot war」に発展する可能性は低い。
実際のところ、「トゥキュディデスの罠」との違いが決定的なものとなるためには、指導者が理性的な判断をするという前提を置かなければならない。その点、中国の指導者は極めて理性的な戦略の持ち主といえる。私はアメリカの指導者に対しては中国の指導者ほどの信頼は置いていないが、彼は生涯、大統領であり続けるわけではない(習近平とは違い)。長期的には、アメリカの戦略も理性的なものになっていくだろうと私は考えている。
差し迫っている脅威は「トゥキュディデスの罠」によるものではない。核兵器が比較的小規模な国家、あるいは国家以外の組織によって保有されることによる危機だ。その非理性的な指導者たちは、自暴自棄や何らかの誤解で戦争への階段を上るかもしれないのである。核武装した北朝鮮の金正恩がまっさきに想起されるが、それが、同様に予想がつかないドナルド・トランプというリーダーと対峙しているのである。
米朝両国が置かれている状況を考えれば、両者が満足できる妥協点を見出すことは容易ではないと、アナリストの多くは考えていた。だが、トランプ大統領は北朝鮮との会談を中止すると一度は表明したものの、交渉と非核化に向けた会談への準備が進んでいる。ただし、予想不可の流動的な状況の中、確かに言えることは、現実的な準備もなく、いたずらに期待を高め、直後に裏切るという結末ならば、一連の急速な和解が起きる以前よりも国際情勢の行く末がいっそう危ないということだ。

◆「トゥキュディデスの罠」中国、北の暴挙で米国対峙も夢に
/2017.09.21記事(SankeiBiz)

紀元前5世紀、古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスは『戦史(ペロポネソス戦争の歴史)』を著した。ペロポネソス戦争とは当時の覇権国スパルタに対して勃興するアテネが挑戦した戦争である。これについて、米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授(政治学)は「台頭する国家は自国の権利を強く意識し、より大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求めるようになる。チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、不安になり、守りを固める」とし、覇権国に対する勃興国の挑戦を「トゥキュディデスの罠」と呼び仮説を立てた。彼の近著によると過去500年間のうちでこうしたケースは16回あり、そのうち12回で大きな戦争になっているという。
その中で現代に近い事例では、ちょうど100年前に起きた第一次世界大戦がこれにあたる。当時はパクス・ブリタニカ(イギリスによる平和)と呼ばれた大英帝国の覇権に対して、急成長してきたドイツが挑戦し、国際社会に対して影響力と敬意を求めた。イギリスはこれを恐れ、戦争になったという見立てである。
この「トゥキュディデスの罠」が最近注目を浴びている。アメリカが覇権を握り、曲がりなりにもパクス・アメリカーナとして世界平和を実現しているところに、勃興国である中国がより大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求め始めたからである。習近平国家主席は「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げて、これは中国共産党の統治理念ともなっているから、正面から堂々と「トゥキュディデスの罠」を設定し、チャレンジを宣言しているようなものだ。
しかし、過去の歴史もそうであったように現実は分かりやすいモデルに集約できるほど単純ではない。ここで北朝鮮というワイルドカードが登場してきた。もし中国がパクス・シニカ(中国による平和)の覇権国(地域覇権としてもだ)として、影響力と敬意を求めるのであれば、地域の平和を保障しなければならない。
その際には、今まで衛星国のように扱ってきた北朝鮮が今では核保有国である。今の状況が続けば、アメリカから見た以上に中国にとって目障りな国になるはずだ。
第一次世界大戦後、新興国アメリカが台頭したために、イギリスもドイツもどちらも覇権を持てなかった。ところが、アメリカは当時覇権国の立場にありながら国際連盟に参加せず、世界平和を保つための公共財(平和)の提供をしなかった。これが第二次世界大戦を引き起こす原因となったという仮説も最近話題になっている。これを国際政治学者のジョセフ・ナイが有名な経済学者の名前をとって「キンドルバーガーの罠」と呼んだ。
もしも中国が十分に強力であれば、アメリカに覇権喪失の恐怖を呼び「トゥキュディデスの罠」に陥るが、もし中国が弱いまま覇権の責務を顧みず中途半端に夢を追えば「キンドルバーガーの罠」を呼び起こす。
中国は果たして北朝鮮をコントロールできるのか。北朝鮮は38度線の緩衝国としての存在意義から、今では目の上のたんこぶへと代わりつつある。これこそが、今現在の中国の「偉大なる復興」への一番大きな課題である。

蝗害&食害:食糧危機に注意2020年記事メモ

《食糧危機に注意/時事メモ》

新たな恐怖“ツマジロクサヨトウ”(蝗害よりも恐ろしいかも)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64884?page=2(2019.05.31記事)

2017年2月にフランス通信社(AFP)が「国連食糧農業機関(FAO)がアフリカ南部の数カ国で幼虫による食害で地域の食糧生産地全域に被害が及ぶ恐れがあると警告した」と報じた害虫の蛾「ツマジロクサヨトウ(学名:Spodoptera frugiperda)」である。この虫は中国名を“草地貪夜蛾”あるいは“秋行軍蟲(英名:Fall Armyworm)”と言う。
ツマジロクサヨトウの成虫は体長3.8センチ程で、黄色味を帯びた緑色から淡い黄褐色、さらにはほとんど黒に近い色まで多種多様で形状は醜く、たいていの場合は体長方向に白みがかった縞が見られる。また、幼虫の頭の前面には転倒した「Y」の字があるのが特徴である。ツマジロクサヨトウは、チョウ目ヤガ科ヨトウ亜科に属する昆虫で、同類の仲間は多数あり、日本ではヨトウムシ類として「夜盗蛾(ヨトウガ)」、シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウなどが野菜、花、果樹などに深刻な食害を与える害虫として知られている。

◆2019年5月11日付で米国ニュースチャンネルCNNは次のように報じた。
1.米国農務省(USDA)が最近発表した報告によれば、2019年の初旬にアフリカや南北アメリカ大陸を起源とする害虫であるツマジロクサヨトウがミヤンマーから中国の雲南省へ侵入した。この害虫は繁殖が速く、拡大の距離が広く、根絶が難しく、幼虫が農業に及ぼす損失は甚大なものがあり、ツマジロクサヨトウの出現は各種の農作物について言えば深刻な災難と言えるものである。
2.ツマジロクサヨトウは中国国内ですでに雲南省、広西チワン族自治区、広東省、貴州省、湖南省、海南省に拡大しており、その拡散速度は中国当局が予想したものより格段に速かった。ツマジロクサヨトウの繁殖が拡散されることによって、稲、大豆、トウモロコシなどの重要作物に深刻な影響を及ぼすことが予想される。重要なことは、目下のところ、この種の害虫を大規模に全滅させる方法は未だ発見されておらず、一度この種の害虫の侵入を許せば、根治の方法はなく、ただ手をこまねいているしかないのが実情である。

これとは別にFAOが以前発表した情報によれば、ツマジロクサヨトウの起源はアフリカであり、アフリカの一部地域では農作物の70%がツマジロクサヨトウによる食害で壊滅的な被害を受け、人々を深刻な飢餓状況に陥れると同時に、60億ドルもの損失をもたらした。
ツマジロクサヨトウは移動能力が極めて高いことで知られており、専門家によれば、1昼夜に200キロメートルを飛ぶことができ、メスは産卵前に500キロメートルを飛行して移動することも可能だという。
この長距離移動によって、ツマジロクサヨトウはアフリカからアジアへと侵略を始めており、FAOがタイで開催した会議「アジアにおけるツマジロクサヨトウ検討会」では、次のような実情が紹介された。
すなわち、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミヤンマーでは合計4053平方キロメートルの農地がツマジロクサヨトウの被害を受けた。スリランカでは433平方キロメートルの農地が被害を受け、トウモロコシの作付面積の52.4%が被害を受けた。また、タイでは全国75県中の50県で被害が発生し、そのうち6県では被害が甚大で、トウモロコシの被害率は100%に達したという。

◆早くも東京23区以上の面積が
それでは、ツマジロクサヨトウの一生はどうなっているのか。
1.成虫は羽化後4~5日で産卵する。メスが一生に産める卵は1500~2000個である。
2.メスは一回に100~200個の卵を産むが、卵の塊の表面は細い繊毛で覆われている。
3.幼虫は脱皮を6回繰り返すが、5~6回目の脱皮を行う時期に農作物を食い荒らす。
4.成熟した幼虫は地中に入って蛹(さなぎ)となり、その後羽化して成虫となる。
なお、ツマジロクサヨトウ は1カ月で1世代を産むことが可能であり、1年間では十数世代が出現することになる。

中国政府“農業農村部”直属の事業組織である「全国農業技術普及サービスセンター」が発表した情報によれば、雲南省、広西チワン族自治区、貴州省、広東省、湖南省でツマジロクサヨトウによる被害が確認された後、4月下旬以降にツマジロクサヨトウは海南省、福建省、浙江省、湖北省、四川省、江西省、重慶市、河南省で相次いで幼虫による食害が発見されており、ツマジロクサヨトウの拡散と蔓延は明らかに加速している。
2019年5月13日までに、中国では13の一級行政区(省・自治区・直轄市)内の61の市(州)、261の県(市、区)でツマジロクサヨトウの幼虫による食害が発見されており、その食害の発生面積は初歩的な統計で108万ムー(720平方キロメートル)に及んでいる。ちなみに、東京23区の面積は約620平方キロメートルであるが、720平方キロメートルはあくまで初期段階の数字であり、実際はこれを遥かに上回っているはずである。

2019年5月16日付の経済紙「第一財経」は、ツマジロクサヨトウについて次のように報じた。
1.2019年5月13日に報じたように、ツマジロクサヨトウは米州起源の害虫であり、米州で蔓延した後に速やかにアフリカ、南アジア、東南アジアに伝播した。今年(2019年)1月11日に我が国の雲南省西南部に出現したツマジロクサヨトウは、その後南方諸省に急速に拡散した。ツマジロクサヨトウは強力な危害性を持つので、農作物を全滅させて収穫ゼロとする可能性がある。
2.2019年5月13日までに、中国では13の一級行政区がツマジロクサヨトウの被害を受けている。このため、農業部門はツマジロクサヨトウの被害を高度に重視し、観測・予報を強化し、全力を挙げてツマジロクサヨトウの被害を防止して豊作を実現すべく努力しなければならないと指示を出した。ツマジロクサヨトウは俗称を“秋粘虫(秋に粘る虫)”と言うが、米州の熱帯と亜熱帯地域を原産とする雑食性の害虫である。ツマジロクサヨトウは食べる量が多いが、その対象はトウモロコシ、水稲、サトウキビ、煙草などのイネ科の植物であり、なおかつ繁殖力が強く、飛行移動の能力が高い。彼らは暴食害虫に属して群体作戦を展開し、1日でトウモロコシの作付け地を食い尽くし、その後は隊列を組んで別の土地へ移動する。このため、またの名を“秋行軍虫(Fall Armyworm)”と呼ばれる。

トルコ、シリア難民の欧州流入「阻止せず」 アサド政権軍に反撃(ロイター2020.02.28)

[アンカラ/イスタンブール 28日 ロイター] - トルコは28日、同国軍兵士33人がシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを受け報復攻撃を実施、トルコ政府高官は、欧州を目指すシリア難民を阻止しない方針を示した。
27日、シリア北西部イドリブ県で、アサド政権軍の空爆で、反体制派を支援するトルコ軍兵士33人が死亡した。これにより、同地域で今月、死亡したトルコ兵士は54人となった。
トルコのエルドアン大統領は同日夜に緊急会議を開催。国防相や軍司令官がトルコ国境のシリア側で作戦実施を指示した(国営通信)という。
トルコ政府の報道官は、「把握しているすべての」シリア政府拠点に対し報復として砲撃を行っていると述べた。ただ、報復攻撃の詳しい内容は、現時点では不明。
イドリブでは、ロシアが支援する政権軍の制圧に伴い昨年12月以降、約100万人の住民が難民と化した。
トルコ政府高官は、イドリブから難民が近く到着すると見込み、「シリア難民が海路や陸路で欧州に渡るのを阻止しないことを即日付で決定した」とロイターに明らかにした。
米国務省は、報道されているトルコ軍兵士への攻撃を非常に憂慮しているとし、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコを支持すると表明。「アサド政権、ロシア、イランの支援を受けた勢力による卑劣な攻撃の即時停止を引き続き求める」との声明を出した。
トルコ政府の2人の高官は、イドリブ情勢について、エルドアン大統領とトランプ米大統領が電話会談する可能性があるとロイターに語った。

(コメント)確か、これらの地域では蝗害が広がっていなかったかと調べてみる…

1日で数万人分の作物が… バッタが東アフリカを食い尽くす(ロイター2020.02.28)

(抜粋)アフリカ・ケニア北部では次の世代のバッタがすでに生まれている。だが、東アフリカのケニアやソマリア、エチオピアなどではただでさえ、国内暴動や物資不足で疲弊しており、バッタの害を食い止める体力は残っていない。
この地域ではすでに1900万人が飢餓に直面。国連食糧農業機関(FAO)ケニア担当者タカバラシャ博士は、他をしのぐ災害だと話す。
「大きな、最大の脅威だ。干ばつも洪水も脅威だと言われるが、ランク付けするならどれも脅威だ。だが、バッタの大量発生は食糧確保にとってかつてない脅威だ」
1平方キロに広がった大群は、1日で3万5000人分の食料を食い尽くすほど。
FAOは1月、放置すれば東アフリカのバッタの個体数は6月までに500倍に膨れ上がると警告した。

バッタの大量発生は、東アフリカでこれまでに7カ国に拡大/「サイクロンの多い年が続けば、『アフリカの角』と呼ばれる北東部での蝗害の発生数も増加するでしょう」国連食糧農業機関(FAO)上級蝗害予報官キース・クレスマン氏

サバクトビバッタの大量発生のきっかけは2018年5月のサイクロン「メクヌ」=アラビア半島南部の広大なルブアルハリ砂漠に雨を降らせ、砂丘の間に多くの一時的な湖を出現させた。同年10月にはアラビア海中部でサイクロン「ルバン」が発生して西に進み、同じ地域のイエメンとオマーンの国境付近に降雨。(大量の水分の供給はバッタの繁殖にとって有利)2019年10月に東アフリカの広い範囲で激しい雨が降り、さらに12月には季節外れのサイクロンがソマリアに上陸。

2020年6月にはサバクトビバッタの個体数が現在の400倍に増え、もともと飢饉に脅かされているこの地域の作物や牧草地に壊滅的な打撃をもたらすおそれ。FAOによると、現在、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリアの1300万人が「きわめて深刻な食料不足」に陥っていて、さらに2000万人がその一歩手前の状況。

(おそらく)シリアでも食糧危機による難民発生⇒欧州へ大量に流れる可能性(トルコは、これを止めるつもりは無い)