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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

トゥキュディデスの罠・米中冷戦の記事メモ

◆「トゥキュディデスの罠」にかかった習近平
/2018.12.27記事(日経ビジネス)

将来の世界史の教科書は、2018年を「米中冷戦がはじまった年」と記述することになるでしょう。10月4日にトランプ政権の重鎮であるマイク・ペンス副大統領が、保守系外交シンクタンクのハドソン研究所で、中国に関する長時間のスピーチを行いました。
ペンスは19世紀以来の米中の友好の歴史を振り返ったあと、「改革開放」と称する中国の市場開放が、政治的自由、個人の人権の尊重、信教の自由に広がるだろうというアメリカの期待は裏切られたと語りました。
今は中国は不公正な貿易、米国企業が持つ知的財産権の侵害と軍事転用、南シナ海での際限なき軍拡、IT(情報技術)を駆使した検閲と監視システムの強化、チベットやウイグルでの少数民族弾圧、あらゆる宗教への政治介入、途上国への投資をてこにした軍事基地の建設、米国内の企業・大学・シンクタンク・マスメディアへの資金提供とプロパガンダ、米国の選挙への介入について実例を挙げてペンスは非難し、「トランプ大統領は引き下がらない。われわれの安全保障と経済のため、力強い態度を維持する」と明言したのです。

覇権国家と新興国との対立が大戦争をもたらす

古代ギリシアで陸軍国スパルタと海軍国アテネが約30年にわたって戦ったペロポネソス戦争。この戦争を記録したアテネの歴史家トゥキュディデスは戦争の要因について、新興国アテネが、旧覇権国家スパルタの地位を脅かしたことにある、と喝破しました。
米国の政治学者グレアム・アリソンは、このような覇権国家の交代が大戦争の要因になっているとして、「トゥキュディデスの罠」と名付けました。覇権国家イギリスに新興国ドイツが挑戦したのが第一次世界大戦、覇権国家アメリカに日本とドイツが挑戦したのが第二次世界大戦でした。
新旧両大国間で譲歩と妥協ができれば、この種の戦争を回避することができます。イギリスからアメリカへの覇権交代は、第一次世界大戦で疲弊したイギリスがワシントン会議で軍縮に応じた結果、平和的に実現しました。
第二次世界大戦後、東欧諸国と東アジアに勢力を拡大したソ連に対し、アメリカは圧倒的な核戦力でこれに対峙し(米ソ冷戦)、直接戦わずにソ連を崩壊へと導きました。

「トゥキュディデスの罠」にかかった帝国陸軍統制派

英・米はロシアの東アジア南下を防ぐため、防波堤としての大日本帝国を育てあげました。日本は日露戦争で英・米の期待に応え、英国は日英同盟、米国はポーツマス会議で日本をサポートしました。日本の戦時国債も、ロンドンとニューヨークで売りさばかれました。
日本は第一次世界大戦にも貢献して国際連盟の常任理事国になりました。しかし、その地位はあくまで東アジアの地域覇権国家であり、米・英に挑戦することは許されなかったのです。ワシントン海軍軍縮条約での米・英・日の戦艦保有率5:5:3はそのことを如実に示しています。日本の経済力を考えれば、この地位に満足すべきでした。
関東軍参謀・石原莞爾は、20世紀の後半に日米が太平洋の覇権を争って激突するという「世界最終戦論」を唱えました。米国との国力の差を縮めるために、満州を占領して工業化し、長期戦に耐えうる体制を確立しようとしました。満州事変(1931年)は、そのために起こしたのです。
しかし、二・二六事件(1936年)を機に日本陸軍の中枢を握った東條英機ら統制派は、石原のような遠大な構想も戦略も持ちえませんでした。補給も考えずに中国戦線を拡大し、日米関係を後戻りできないところまで悪化させ、準備不足のまま真珠湾を攻撃したあげく、4年で国を滅ぼしました。「トゥキュディデスの罠」にかかったのです。

習近平の中国は1930年代の日本と似てきた

中国も米国に育てられました。ペンス演説にもあるように、19世紀末に中国(清朝)が列強の勢力圏として分割されたとき、米国は常に中国の領土保全と門戸開放(自由貿易)を要求し、植民地化に反対してきました。大日本帝国が台頭すると一貫して中国の側に立ち、蒋介石政権を支援し続けました。第二次世界大戦後は、ソ連の脅威に対抗するため毛沢東の中国と手を結び(ニクソン訪中)、ばく大な対中投資を行なってきました。
中国は1970年代から太平洋進出を計画していました。2010年までに沖縄~フィリピン(第1列島線)から、2020年までに小笠原~グアム島(第2列島線)から米軍基地を撤収させ、中国海軍の内海にするというプランです。しかし鄧小平政権はこの野心を決して表に出さず、米中友好を演出してきました。「韜光養晦」(とうこうようかい)――能ある鷹は爪を隠す――戦術です。
ソ連崩壊(1991年)で「防波堤」としての中国の役割は終わりましたが、投資先として米国の金融資本を魅了し続けました。ばく大な対中投資は人民解放軍の軍備拡張に使われ、中国は米国本土を射程に収める核ミサイルを持つに至りました。
胡錦濤政権時代の2007年に訪中した米太平洋軍のキーティング司令官(当時)は、人民解放軍幹部から「太平洋を米中で二分しよう」と提案されたと証言しています。GDP(国内総生産)で日本を抜いて世界第2位となった中国。いまや習近平政権は、「米国恐るに足らず」と判断し、「韜光養晦」戦術をやめて公然と爪を研ぎ始めたのです。いまの中国は、1930年代の日本とよく似ています。
ともに核保有国である米中が、全面戦争になることはないでしょう。しかし核ミサイルが飛び交わなくても、サイバー空間における「真珠湾攻撃」はありえます。中国人民解放軍は1万人ともいわれる正規のサイバー部隊のほか、数百万人の民間人が「サイバー民兵」として軍に協力しており、米国の政府・軍・企業に対するサイバー攻撃はすでに日常化しています。もちろん日本も対象になっています。これに対して米軍のサイバー部隊は6000人、自衛隊のサイバー部隊は500人。安倍政権が防衛大綱を見直し、ようやくこれを見直そうという、お話にならないレベルです。

中国が「歴史に学ぶ」べきこと

中国人民解放軍とも繋がりの深い通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の機器が、遠隔操作可能なマイクロチップを組み込んでいると報道され、トランプ政権は政府機関から同社の製品を排除する通達を出しました。英・豪・仏もこれに同調し、日本でも安倍政権が同社の製品を政府調達から排除しました。この問題の急展開も、米国がいかにサイバー戦争を警戒しているかの証(あかし)です。
米国はソ連に対して功を奏したような、長期的な「対中封じ込め」を行うでしょう。中国との貿易、対中投資は徐々に規制され、同盟国にも同調を求めてくるでしょう。トランプがはじめた「米中貿易戦争」はその始まりであり、これを単に米国の貿易赤字解消の手段と見るべきではありません。
習近平政権には、
(1)米国の軍門に下って臥薪嘗胆するか
(2)ソ連のように「封じ込め」に耐えながら徐々に衰退するか
(3)日本のように「真珠湾攻撃」に打って出て国を滅ぼすか
の3つの選択肢があります。
日本に対し、事あるごとに「歴史に学べ」と説教するのがお好きな中国の指導者たちが、まさか(2)・(3)の道を選ぶことはないであろうと私は期待します。(茂木誠)

◆中国の新興はトゥキュディデスの罠か?国際社会に差し迫る本当の脅威とは
/2018.06.08記事(JBPRESSより抜粋)

戦前の独英あるいは日米と現代の状況とを比較する際、決定的に異なる要素がある。当時は核兵器が存在しなかったのだ。核兵器が存在し、「相互確証破壊」(mutually assured destruction:通称MAD)が起きる潜在的可能性のある状況下では、国家間の全面戦争が起きるとは考えづらい(あくまで「理性的な」指導者を想定した場合だが)。
アリソン教授の事例研究もこの結論を裏付けるものだ。ヒロシマ以後の世界において、教授は2つの「トゥキュディデスの罠」を取り上げている。1つは、ソビエト連邦がアメリカ合衆国に対して世界の覇権を巡り挑戦した時代。もう片方は、統一ドイツが欧州最大の勢力となった1990年代だ。これら双方とも戦争には発展しなかった。これらは(アリソン教授の合計16の事例のうち)戦争が回避された4つのうちの2つだ(その他の2つは、15世紀末にポルトガルを追い越したスペインの例と、19世紀の初めにイギリスを追い越したアメリカだ)。
【結論:非対称性がより大きな難題を突きつける?】
このように、20世紀初頭から現代にかけては典型的な「トゥキュディデスの罠」との類似性よりも「違い」の方が際立っているといえよう。新興の中国と(相対的な)地位を落とすアメリカの対立が「hot war」に発展する可能性は低い。
実際のところ、「トゥキュディデスの罠」との違いが決定的なものとなるためには、指導者が理性的な判断をするという前提を置かなければならない。その点、中国の指導者は極めて理性的な戦略の持ち主といえる。私はアメリカの指導者に対しては中国の指導者ほどの信頼は置いていないが、彼は生涯、大統領であり続けるわけではない(習近平とは違い)。長期的には、アメリカの戦略も理性的なものになっていくだろうと私は考えている。
差し迫っている脅威は「トゥキュディデスの罠」によるものではない。核兵器が比較的小規模な国家、あるいは国家以外の組織によって保有されることによる危機だ。その非理性的な指導者たちは、自暴自棄や何らかの誤解で戦争への階段を上るかもしれないのである。核武装した北朝鮮の金正恩がまっさきに想起されるが、それが、同様に予想がつかないドナルド・トランプというリーダーと対峙しているのである。
米朝両国が置かれている状況を考えれば、両者が満足できる妥協点を見出すことは容易ではないと、アナリストの多くは考えていた。だが、トランプ大統領は北朝鮮との会談を中止すると一度は表明したものの、交渉と非核化に向けた会談への準備が進んでいる。ただし、予想不可の流動的な状況の中、確かに言えることは、現実的な準備もなく、いたずらに期待を高め、直後に裏切るという結末ならば、一連の急速な和解が起きる以前よりも国際情勢の行く末がいっそう危ないということだ。

◆「トゥキュディデスの罠」中国、北の暴挙で米国対峙も夢に
/2017.09.21記事(SankeiBiz)

紀元前5世紀、古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスは『戦史(ペロポネソス戦争の歴史)』を著した。ペロポネソス戦争とは当時の覇権国スパルタに対して勃興するアテネが挑戦した戦争である。これについて、米ハーバード大学のグレアム・アリソン教授(政治学)は「台頭する国家は自国の権利を強く意識し、より大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求めるようになる。チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、不安になり、守りを固める」とし、覇権国に対する勃興国の挑戦を「トゥキュディデスの罠」と呼び仮説を立てた。彼の近著によると過去500年間のうちでこうしたケースは16回あり、そのうち12回で大きな戦争になっているという。
その中で現代に近い事例では、ちょうど100年前に起きた第一次世界大戦がこれにあたる。当時はパクス・ブリタニカ(イギリスによる平和)と呼ばれた大英帝国の覇権に対して、急成長してきたドイツが挑戦し、国際社会に対して影響力と敬意を求めた。イギリスはこれを恐れ、戦争になったという見立てである。
この「トゥキュディデスの罠」が最近注目を浴びている。アメリカが覇権を握り、曲がりなりにもパクス・アメリカーナとして世界平和を実現しているところに、勃興国である中国がより大きな影響力(利益)と敬意(名誉)を求め始めたからである。習近平国家主席は「中国の夢」として「中華民族の偉大なる復興」を掲げて、これは中国共産党の統治理念ともなっているから、正面から堂々と「トゥキュディデスの罠」を設定し、チャレンジを宣言しているようなものだ。
しかし、過去の歴史もそうであったように現実は分かりやすいモデルに集約できるほど単純ではない。ここで北朝鮮というワイルドカードが登場してきた。もし中国がパクス・シニカ(中国による平和)の覇権国(地域覇権としてもだ)として、影響力と敬意を求めるのであれば、地域の平和を保障しなければならない。
その際には、今まで衛星国のように扱ってきた北朝鮮が今では核保有国である。今の状況が続けば、アメリカから見た以上に中国にとって目障りな国になるはずだ。
第一次世界大戦後、新興国アメリカが台頭したために、イギリスもドイツもどちらも覇権を持てなかった。ところが、アメリカは当時覇権国の立場にありながら国際連盟に参加せず、世界平和を保つための公共財(平和)の提供をしなかった。これが第二次世界大戦を引き起こす原因となったという仮説も最近話題になっている。これを国際政治学者のジョセフ・ナイが有名な経済学者の名前をとって「キンドルバーガーの罠」と呼んだ。
もしも中国が十分に強力であれば、アメリカに覇権喪失の恐怖を呼び「トゥキュディデスの罠」に陥るが、もし中国が弱いまま覇権の責務を顧みず中途半端に夢を追えば「キンドルバーガーの罠」を呼び起こす。
中国は果たして北朝鮮をコントロールできるのか。北朝鮮は38度線の緩衝国としての存在意義から、今では目の上のたんこぶへと代わりつつある。これこそが、今現在の中国の「偉大なる復興」への一番大きな課題である。
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蝗害&食害:食糧危機に注意2020年記事メモ

《食糧危機に注意/時事メモ》

新たな恐怖“ツマジロクサヨトウ”(蝗害よりも恐ろしいかも)

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64884?page=2(2019.05.31記事)

2017年2月にフランス通信社(AFP)が「国連食糧農業機関(FAO)がアフリカ南部の数カ国で幼虫による食害で地域の食糧生産地全域に被害が及ぶ恐れがあると警告した」と報じた害虫の蛾「ツマジロクサヨトウ(学名:Spodoptera frugiperda)」である。この虫は中国名を“草地貪夜蛾”あるいは“秋行軍蟲(英名:Fall Armyworm)”と言う。
ツマジロクサヨトウの成虫は体長3.8センチ程で、黄色味を帯びた緑色から淡い黄褐色、さらにはほとんど黒に近い色まで多種多様で形状は醜く、たいていの場合は体長方向に白みがかった縞が見られる。また、幼虫の頭の前面には転倒した「Y」の字があるのが特徴である。ツマジロクサヨトウは、チョウ目ヤガ科ヨトウ亜科に属する昆虫で、同類の仲間は多数あり、日本ではヨトウムシ類として「夜盗蛾(ヨトウガ)」、シロイチモジヨトウ、ハスモンヨトウなどが野菜、花、果樹などに深刻な食害を与える害虫として知られている。

◆2019年5月11日付で米国ニュースチャンネルCNNは次のように報じた。
1.米国農務省(USDA)が最近発表した報告によれば、2019年の初旬にアフリカや南北アメリカ大陸を起源とする害虫であるツマジロクサヨトウがミヤンマーから中国の雲南省へ侵入した。この害虫は繁殖が速く、拡大の距離が広く、根絶が難しく、幼虫が農業に及ぼす損失は甚大なものがあり、ツマジロクサヨトウの出現は各種の農作物について言えば深刻な災難と言えるものである。
2.ツマジロクサヨトウは中国国内ですでに雲南省、広西チワン族自治区、広東省、貴州省、湖南省、海南省に拡大しており、その拡散速度は中国当局が予想したものより格段に速かった。ツマジロクサヨトウの繁殖が拡散されることによって、稲、大豆、トウモロコシなどの重要作物に深刻な影響を及ぼすことが予想される。重要なことは、目下のところ、この種の害虫を大規模に全滅させる方法は未だ発見されておらず、一度この種の害虫の侵入を許せば、根治の方法はなく、ただ手をこまねいているしかないのが実情である。

これとは別にFAOが以前発表した情報によれば、ツマジロクサヨトウの起源はアフリカであり、アフリカの一部地域では農作物の70%がツマジロクサヨトウによる食害で壊滅的な被害を受け、人々を深刻な飢餓状況に陥れると同時に、60億ドルもの損失をもたらした。
ツマジロクサヨトウは移動能力が極めて高いことで知られており、専門家によれば、1昼夜に200キロメートルを飛ぶことができ、メスは産卵前に500キロメートルを飛行して移動することも可能だという。
この長距離移動によって、ツマジロクサヨトウはアフリカからアジアへと侵略を始めており、FAOがタイで開催した会議「アジアにおけるツマジロクサヨトウ検討会」では、次のような実情が紹介された。
すなわち、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミヤンマーでは合計4053平方キロメートルの農地がツマジロクサヨトウの被害を受けた。スリランカでは433平方キロメートルの農地が被害を受け、トウモロコシの作付面積の52.4%が被害を受けた。また、タイでは全国75県中の50県で被害が発生し、そのうち6県では被害が甚大で、トウモロコシの被害率は100%に達したという。

◆早くも東京23区以上の面積が
それでは、ツマジロクサヨトウの一生はどうなっているのか。
1.成虫は羽化後4~5日で産卵する。メスが一生に産める卵は1500~2000個である。
2.メスは一回に100~200個の卵を産むが、卵の塊の表面は細い繊毛で覆われている。
3.幼虫は脱皮を6回繰り返すが、5~6回目の脱皮を行う時期に農作物を食い荒らす。
4.成熟した幼虫は地中に入って蛹(さなぎ)となり、その後羽化して成虫となる。
なお、ツマジロクサヨトウ は1カ月で1世代を産むことが可能であり、1年間では十数世代が出現することになる。

中国政府“農業農村部”直属の事業組織である「全国農業技術普及サービスセンター」が発表した情報によれば、雲南省、広西チワン族自治区、貴州省、広東省、湖南省でツマジロクサヨトウによる被害が確認された後、4月下旬以降にツマジロクサヨトウは海南省、福建省、浙江省、湖北省、四川省、江西省、重慶市、河南省で相次いで幼虫による食害が発見されており、ツマジロクサヨトウの拡散と蔓延は明らかに加速している。
2019年5月13日までに、中国では13の一級行政区(省・自治区・直轄市)内の61の市(州)、261の県(市、区)でツマジロクサヨトウの幼虫による食害が発見されており、その食害の発生面積は初歩的な統計で108万ムー(720平方キロメートル)に及んでいる。ちなみに、東京23区の面積は約620平方キロメートルであるが、720平方キロメートルはあくまで初期段階の数字であり、実際はこれを遥かに上回っているはずである。

2019年5月16日付の経済紙「第一財経」は、ツマジロクサヨトウについて次のように報じた。
1.2019年5月13日に報じたように、ツマジロクサヨトウは米州起源の害虫であり、米州で蔓延した後に速やかにアフリカ、南アジア、東南アジアに伝播した。今年(2019年)1月11日に我が国の雲南省西南部に出現したツマジロクサヨトウは、その後南方諸省に急速に拡散した。ツマジロクサヨトウは強力な危害性を持つので、農作物を全滅させて収穫ゼロとする可能性がある。
2.2019年5月13日までに、中国では13の一級行政区がツマジロクサヨトウの被害を受けている。このため、農業部門はツマジロクサヨトウの被害を高度に重視し、観測・予報を強化し、全力を挙げてツマジロクサヨトウの被害を防止して豊作を実現すべく努力しなければならないと指示を出した。ツマジロクサヨトウは俗称を“秋粘虫(秋に粘る虫)”と言うが、米州の熱帯と亜熱帯地域を原産とする雑食性の害虫である。ツマジロクサヨトウは食べる量が多いが、その対象はトウモロコシ、水稲、サトウキビ、煙草などのイネ科の植物であり、なおかつ繁殖力が強く、飛行移動の能力が高い。彼らは暴食害虫に属して群体作戦を展開し、1日でトウモロコシの作付け地を食い尽くし、その後は隊列を組んで別の土地へ移動する。このため、またの名を“秋行軍虫(Fall Armyworm)”と呼ばれる。

トルコ、シリア難民の欧州流入「阻止せず」 アサド政権軍に反撃(ロイター2020.02.28)

[アンカラ/イスタンブール 28日 ロイター] - トルコは28日、同国軍兵士33人がシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを受け報復攻撃を実施、トルコ政府高官は、欧州を目指すシリア難民を阻止しない方針を示した。
27日、シリア北西部イドリブ県で、アサド政権軍の空爆で、反体制派を支援するトルコ軍兵士33人が死亡した。これにより、同地域で今月、死亡したトルコ兵士は54人となった。
トルコのエルドアン大統領は同日夜に緊急会議を開催。国防相や軍司令官がトルコ国境のシリア側で作戦実施を指示した(国営通信)という。
トルコ政府の報道官は、「把握しているすべての」シリア政府拠点に対し報復として砲撃を行っていると述べた。ただ、報復攻撃の詳しい内容は、現時点では不明。
イドリブでは、ロシアが支援する政権軍の制圧に伴い昨年12月以降、約100万人の住民が難民と化した。
トルコ政府高官は、イドリブから難民が近く到着すると見込み、「シリア難民が海路や陸路で欧州に渡るのを阻止しないことを即日付で決定した」とロイターに明らかにした。
米国務省は、報道されているトルコ軍兵士への攻撃を非常に憂慮しているとし、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるトルコを支持すると表明。「アサド政権、ロシア、イランの支援を受けた勢力による卑劣な攻撃の即時停止を引き続き求める」との声明を出した。
トルコ政府の2人の高官は、イドリブ情勢について、エルドアン大統領とトランプ米大統領が電話会談する可能性があるとロイターに語った。

(コメント)確か、これらの地域では蝗害が広がっていなかったかと調べてみる…

1日で数万人分の作物が… バッタが東アフリカを食い尽くす(ロイター2020.02.28)

(抜粋)アフリカ・ケニア北部では次の世代のバッタがすでに生まれている。だが、東アフリカのケニアやソマリア、エチオピアなどではただでさえ、国内暴動や物資不足で疲弊しており、バッタの害を食い止める体力は残っていない。
この地域ではすでに1900万人が飢餓に直面。国連食糧農業機関(FAO)ケニア担当者タカバラシャ博士は、他をしのぐ災害だと話す。
「大きな、最大の脅威だ。干ばつも洪水も脅威だと言われるが、ランク付けするならどれも脅威だ。だが、バッタの大量発生は食糧確保にとってかつてない脅威だ」
1平方キロに広がった大群は、1日で3万5000人分の食料を食い尽くすほど。
FAOは1月、放置すれば東アフリカのバッタの個体数は6月までに500倍に膨れ上がると警告した。

バッタの大量発生は、東アフリカでこれまでに7カ国に拡大/「サイクロンの多い年が続けば、『アフリカの角』と呼ばれる北東部での蝗害の発生数も増加するでしょう」国連食糧農業機関(FAO)上級蝗害予報官キース・クレスマン氏

サバクトビバッタの大量発生のきっかけは2018年5月のサイクロン「メクヌ」=アラビア半島南部の広大なルブアルハリ砂漠に雨を降らせ、砂丘の間に多くの一時的な湖を出現させた。同年10月にはアラビア海中部でサイクロン「ルバン」が発生して西に進み、同じ地域のイエメンとオマーンの国境付近に降雨。(大量の水分の供給はバッタの繁殖にとって有利)2019年10月に東アフリカの広い範囲で激しい雨が降り、さらに12月には季節外れのサイクロンがソマリアに上陸。

2020年6月にはサバクトビバッタの個体数が現在の400倍に増え、もともと飢饉に脅かされているこの地域の作物や牧草地に壊滅的な打撃をもたらすおそれ。FAOによると、現在、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ケニア、ソマリアの1300万人が「きわめて深刻な食料不足」に陥っていて、さらに2000万人がその一歩手前の状況。

(おそらく)シリアでも食糧危機による難民発生⇒欧州へ大量に流れる可能性(トルコは、これを止めるつもりは無い)

読書メモ『中国4.0』

『中国4.0―暴発する中華帝国』エドワード・ルトワック著、奥山真司訳、文春新書2016年

▼前書き「日本の読者へ」より、要約

アメリカや日本に比べると、中国の国家的な意思決定プロセスは明確化されていない。

中国共産党政治局常務委員会の7つの椅子に囲まれたテーブル?中央軍事委員会の11の椅子に囲まれたテーブル?習近平自身の頭の中?

習近平が言うところの「核心的リーダー」の意味も、実際は明確では無い。その意味を決められるのは習近平自身だけだ。こういった大国は、日本に3つの「逃れられない現実」を突きつける。

【1】「たった1人の頭脳が中国の動向を決めつつある」

構造的な意味で、権力者に帰するフィードバックが無いため、信じがたいほど愚かな決定がなされても、政策が修正されずにそのまま続けられる可能性がある。最近の例としては、西暦2000年以降の中国における環境政策だ(環境汚染、人民の中の奇形児増加の問題などによる一人っ子政策の無意味化)。

更に、胡錦涛政権時代にスタートした対外政策「中国2.0」問題~南シナ海の周辺海域の不穏化。中国の経済政策~破滅的な「反腐敗」運動を含む「改革」。

【2】「離島戦略~尖閣諸島の奪還などの問題」

日本は、中国の将来の離島領土侵犯に対して、早急に現実的な対応(軍事的な対応)を確立させておかなければならない。アメリカの安全保障は、小さな離島まで保護しきれるものでは無い。地域紛争と言った小規模なレベルの物は、日本自身の軍事力によって解決しなければならないのである。

スピード対応を可能とするために、国会承認を得ずに行動できるプロセスが必要になって来る(これは、国民的なコンセンサスを早急に得なければならない)。

【3】「人民意識の変化~共産党イデオロギーの死滅」

これは長期的な変化ではあるが、喜ばしい変化と捉えられる。富を求めるレベルから、徳を求めるレベルまで向上しつつある(衣食足りて礼節を知る)。ただし、社会変化と意識変化がスムーズにかみ合うのか、将来の中国がどんな性格の国になるのかは、まだ分からない。

▼中国1.0…平和的台頭(西暦2000年代~2009年)

鄧小平1997年死亡~「中国は更に豊かになり、更に近代化し、その経済規模は日本を超えて、いつの日かアメリカに迫る」&「どの国も、中国経済の台頭を恐れたり、反発したり必要は無い。何故なら中国の台頭は完全に平和的なものであり、また既存の権力構造を変化させず、国際的なルールにも従うからだ」

ここで重要なのは、当時の中国は国際社会に統合されることを完全には望んでいなかった点である。国内の一党独裁を維持しつつ、外国の富の上澄みを取り入れるのみの姿勢とも言える。

▽(解説)戦略の論理から見る「中国1.0」の成功&その後

ある国が台頭し始めると、周辺諸国は警戒感を抱き、多くは軍備増強に走る。しかし、「中国1.0」の場合は、周辺諸国に対してその類の反応は起こさなかった。平和的対等のポジティブな面として、中国がWTOやIMFに加盟し、国際的なルールを一定レベル以上で守っていたという事実があったためである。

台湾問題に対しては、中国は目下のところ「軍事力は行使せず、交渉を通じてのみ解決する」と公式に確約していたため、これも平和的台頭の後押しとなっていた。

しかし、2000年代を過ぎて2010年代に入ると、中国のGDFが爆発的に伸び、軍事費も比例して上昇した。これが周辺諸国の警戒心を煽る事になった。バランシングの論理が働き、中国に対する経済支援の見直しが起き始めた。

▼中国2.0…対外強硬路線(西暦2010年~2014年秋)

2009年リーマン・ショックが起き、世界経済が後退した。リーマン・ショックの影響を直接には受けなかった中国の経済規模は、急激に上位にランクインするようになった。

中国は元々、アメリカに追いつくには20年以上掛かると見積もっていたが、落ち目の世界経済と高度成長を続ける中国経済とを比較して、中国指導者層は「目標達成は目前」と判断したのである。ここには3点の錯誤があった。

  1. 「金(カネ)すなわち権力 money talks」~経済力と国力の関係性を見誤る
  2. 「線的(リニア)な予測」~ゴールドマン・サックスのセールストーク、投資優良案件の売り込みだった「BRICs」経済予測を丸呑みする。China up, US down.
  3. 「大国は二国間関係 bilateral relationsを持てない」~二国間関係を見誤る

3点の錯誤が中国の知識人階級を席巻した結果、「(当時の国家主席であった)胡錦涛は弱腰であり、我々の外交は弱腰外交である。大国としてのリーダーシップを発揮する時が始まった」と言う意見が強くなった。ASEANにおいても、小国と個別に交渉することで、大国ならではの圧倒的な影響力の波及を目論むようになる。

対外強硬路線~【南シナ海「九段線マップ」に沿った領土主張】

中国は、ベトナム沖にオフショアの石油掘削用のプラットフォーム(リグ)を送り込んだ。これにベトナムが反発し、沿岸警備隊が持つ全20隻の艦船を送り込み、中国の活動を妨害し、100隻超の中国艦船との抗争になった。ベトナムに対して、ロシア、アメリカ、インドが援助(小国を支援する第三国が現れ、他国同士の協力関係を促進)

中国から外交的圧力を受けた日本では、「尖閣問題」「靖国参拝問題」が炎上。「安倍コミュニケ(2014年11月):双方は歴史を直視し、未来に向かうと言う精神に従い、両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の一致をみた/尖閣諸島等、東シナ海の海域において近年、 緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」…つまり日本は尖閣問題や参拝問題について、中国の主張を無視したと言う形になる

▽(解説)逆説的論理からみる「中国1.0」と「中国2.0」の違い

ある国が大国になればなるほど、それに対抗しようとする小国同士の連携が進む。ある国が大きくなって、しかもそれが"平和的台頭"で無ければ、台頭して強くなったおかげで、かえって立場が弱くなるのである。これが大国化に関わる「逆説的論理(パラドキシカル・ロジック)」である。

単純に、次々に行動を起こせば、最終的に勝利につながると言う訳では無い。そこにはダイナミックな相互作用がある。ある国が一手を繰り出したことで、それを受けた国が動き、中立の立場に居た国々も連鎖して動く。最終的には同盟関係が動く(変化する)。

▼中国3.0…選択的攻撃(西暦2014秋・2015年~2016年現在)

「抵抗の無いところには攻撃的に出て、抵抗があれば止める」という外交パターン。「中国2.0」の戦略的失敗「反中同盟の出現」という結果を受けて、対外強硬路線を改めた物になる。「中国1.0:平和的台頭」と「中国2.0:対外強硬路線」を足して、二で割ったような物と理解できる。

【フィリピン】中国は南シナ海・スプラトリー諸島に軍事基地を建設し始めた。それに対してフィリピン政府の対応は鈍かった(中国人観光客へのアンダーグラウンドでの暴力許可や、フィリピン沿岸警備隊への発砲許可は出なかった)。

此処には、フィリピンが安全保障面の対応に関して、余りにもアメリカに頼り過ぎていたと言う問題があった。フィリピンはアメリカ軍を実質的に追い出していたが、中国の脅威を明確に意識し、アメリカ軍を再び呼び戻す事になった。

【インド】2009年から2014年まで、中国はインド国境地帯への侵犯を繰り返していたが、「中国3.0」の段階になると、一時的に活動は沈静化している。

胡錦涛のインド訪問時に、中国兵が中印国境を越えた事件がある。2014年、習近平のインド訪問時にも、中国兵が中印国境を越えた事件が起きた。この時、インドのモディ首相は「中国側とは交渉しない」と突っぱね、結果として習近平は人民解放軍の国境付近からの撤退を命じ、侵犯活動は沈静化した。

この他、習近平はスリランカを訪問し軍事基地の建設を進めているが(2016年3月14日~スリランカ政府によるコロンボ港の整備工事の許可あり)、これもインド側の警戒を招く結果になっている。

【日本】2016年~2017年現在、日本への集中的な批判は沈静化。ただし、安倍首相との交渉では結果を残せずメンツを潰された形なので、いつか、何らかの形で"捲土重来"的な動きはあると予想(尖閣諸島への侵犯回数は増大している)。

@考察:ステージ「中国3.0」における内外のリスク

中国は巨大国家であるゆえに、内政に問題が山積みして、外政にリソースを割きにくい。つまり、外部から何らかの情報なりメッセージなりを受け取っても、これに反応しにくい(フィードバックが働きにくい)というのが常態と化している。

内政的には…

「反腐敗闘争」が続いた。習近平は、石油利権や人民解放軍の有力者を粛清している。一方で、「太子党(共産党幹部の特権階級一族)」にはタッチが無かったため、このダブルスタンダードが目立ち、習近平は暗殺リスクを抱えている状態である。実際、天津爆発事故(2015年8月)では、「習近平・暗殺説」が出回った。

※…とはいえ、太子党にまで手を入れると、共産党の機能が崩壊する。また、経済成長の鈍化が始まっており、これまで高い伸びを見せていた国防費についても、コスト削減の必要性が出ている。人民解放軍の予算を減らすことについては、当然ながら、人民解放軍からの激しい反発が予期されている。

対外的には…

ベトナム自身の手による石油生産がスタートした事(2014年8月~)で、中国-ベトナム間の関係は軟化している。日本との「尖閣問題」についても、北京政府からの大々的な宣伝は沈静化。インドに対しては「アルナチャル・プラデシュ州(南チベット)全返還」という無茶な主張はしなくなっている。フィリピンに対する強硬姿勢も、沈静化する見込み。

▽(解説)「中国3.0」における国際関係の変化~習近平の訪米は何をもたらしたか

2015年9月、習近平が訪米した(オバマ大統領との会談)。習近平の目的は「国内向け:習近平が世界のトップと並ぶ写真」「G2=新型大国関係への道筋をつける」の2つ。

アメリカ(特にアメリカ海軍)側は、中国の南シナ海に対する実効支配に対して、「航行の自由作戦」を通じて否定している。なおかつ中国側の、「岩礁&暗礁の埋め立て人島化⇒200海里の排他的経済水域(EEZ)の主張」という目論見を崩そうとしていた。

しかし、習近平-オバマの間の首脳会談では、中国側は南シナ海問題に対する解決案を提示せず、人工島の埋め立て事業の中止も表明していない。

この中国の明確な意思が、アメリカ側の対応を「外交交渉」⇒「軍事的交渉」のレベルに押し上げる事になった(ハリー・ハリス太平洋艦隊司令官「我々はフィリピンから中国を押し返す」)。

▼中国4.0(2016年~考察&予測)

@感情の爆発が国策を誤らせ、戦略的失敗の原因となる

  • 例:1941年:日本による真珠湾攻撃(石油の確保)/発動条件=軍部に大きな権限あり
  • 例:2003年:アメリカによるイラク攻撃(9.11テロの衝撃)/発動条件=戦争を扱う人材の不在

いずれも、「自分に都合良く動いてくれる相手」を幻想してしまったと言う点で、共通している。

例に見られるように、大国による戦略的錯誤は、常に世界に大きな影響を及ぼすような「巨大な間違い」となる。巨大な間違いを現実化するには、それだけの能力や資源が必要となる。そして、中国にも、「そのような可能性がある」という事を考慮しなければならない。

@中国の暴発のきっかけとなるような発動条件を考察:

【「天下」という文化的概念のシステム(華夷秩序世界観)とG2論の合体】

G2(新型大国関係)論は、キッシンジャーの発明。元々、巨大すぎる領土・歴史を持つ中国は、国内問題が深刻化しやすいという前提条件を抱えており、外交方面にリソースを割きにくい状態が続いている。

(中国の弱点=「内的コンセンサスの欠如」&「外的な理解の欠如」)

中国の考える「G2」が実現すれば、中国は米国との関係のみに注力できる状態になり、「大国に働く逆説的論理(バランシングによる抑え込み)」から解放される(=小国を含む、その他多くの反中同盟の傾向のある他国に対しても、「G2で決めたとおりにやれ」と言えば済む)。

なおかつ、将来的予測によれば、このG2関係はダイナミックに変化し、蛮族・匈奴を中華世界ロジックに取り込んだように、米国を中華世界ロジックに取り込めるようになる(筈である)。

一方、アメリカ側は「G2」を受け入れる事は出来ない。G2が実現すると、双方が抱える同盟国のパワーがカウントされなくなるためである。(中国の同盟国:パキスタン、カンボジア、北朝鮮。以前はミャンマーも入っていたが、最近、ミャンマーは民主化した)

【共産党イデオロギーの無意味化~マネー志向の激化】

かつて、共産党員は、自らの社会地位ランクを高める事で、相応の収入や影響力を確保していた。その中には、一つの街を起こしたり、地域活性化ビジネスを呼び込んだりした有能な人材も居た。

こういった党員たちが必要としているのは、数千万円~数億円と言う巨額のマネー収入である(そのため、汚職に手を染める党員が数多であった)。多くの高位党員たちの子息の多くは海外留学しており、学費に充てるマネーも膨らむ傾向にある。よって、汚職は蔓延する。

汚職の一掃を目指す習近平の反腐敗闘争は、結果として、共産党の活力を奪う方向に行っている。イデオロギー志向、権力志向、マネー志向の強い有能な人材の枯渇につながるという事である。

【中央向きインテリジェンス方面におけるフィードバック機能の欠落】

例えば、「習近平の訪米」を多方面から分析するメディアや評論家が居ない。ミャンマーの離反に関しても、そのきっかけとなる、ミャンマー側の不満の高まりを正確に北京政府に伝えるためのルートが機能していなかった(※当時、「カネがモノをいう」という錯誤も、此処に加わっていた)。

【韓国の事情】

韓国は、アメリカからの軍の「戦時指揮権の移譲」を、意識的に遅らせている。此処には、「有事に際して責任を取りたくない」と言う韓国の思惑がある(これは、「独立国家になる事に興味が無い/独立国になる事を恐れている」という潜在的な意思を示している)。

なおかつ、韓国は、アメリカ圏から中国圏に乗り換える事については、常時、積極的な関心を抱いている。実際、パク・クネ大統領は北京訪問時、ハルビン駅に安重根の記念碑を建てる事をお願いしており(これは「ご機嫌取り」と解釈される)、小国が生き延びるためのルール「大国に対する要求の列挙」をしていない。

※韓国は、日帝の支配に対してロクに抵抗をしなかった先人たちへの恨みつらみを、日本に投影している。従って、この意味で、「謝罪・賠償の要求」は永遠的に続くという分析がある。

この韓国の事情を取り巻く国民感情は、中国の戦略的誤りの考察にも応用できる。例えば、リーマン・ショック後、中国が経済指標の上位ランクに食い込んだ事で中国人が自信を持ち、時の胡錦涛政権は、「弱腰」だという批判を受けた。「かつて西洋列強や日本に国土を荒らされた」と言う過去のフラストレーションが爆発した事が大きいと理解できる。

▼日本の課題(戦略的方面から)

@シベリア圏

中国が絶対的な帝国パワー(ランドパワー)を発揮するか否かは、中国がシベリア圏を押さえるか否かに掛かっている。何故かと言うと、中国は、ロシアを吸収する事で帝国として完成し、海洋覇権を目指さなくても良くなるからである。

中国の脅威、すなわち中国の大国化に対して、バランシングとして現れる可能性が高いのは、ロシアの親米化である。

アメリカとロシアの間に立って間合いをはかりつつ、生き残り路線を模索する…というのは、非常に骨が折れる作業だが、日本としては、これをやらなければならない。

@離島防衛プロセスの確立

尖閣問題でも指摘した事だが、アメリカは、日本の小さな離島の防衛まで軍事的に負担する意志は無い。日常的な小さな脅威や、離島防衛といった小規模な領土保全については、日本自身で対応しなければならない問題である。

ハード面では、物理的装備すなわち艦船や戦車の確保。ソフト面では、日本国内の一致(コンセンサス)付きで、安全保障関連の法整備が急がれる。軍事的行動において、正統性(レジティマシー)を担保するためである。

自国領土保全の最低条件として「他国に領土を占拠された時に、迅速に奪還できる仕組み」を確立しておかなければならない。スピード対応のためには「国会承認を必要としないプロセス」にする必要がある。

※ウクライナは、ロシアによるクリミア侵犯が発生した際、EU&アメリカや国連に相談している間に、クリミア半島を失った。


(コメント)

ルトワック氏の提言は、いずれも興味深い物でした。特に興味深いのが、最終パートで語られている「封じ込め政策」の内容。中国から繰り出される、予期できない一手一手に対して、意図的な計画は持たぬままに、ひたすら受動的に反応するパターン。

かなり嫌らしい行動パターンだけに、上手くやれば、「コスト対効果(最小限の暴力で、最大限の確実な結果を得る)」は割と見込めるのでは無いかと思いました。「幅広い範囲での多元的な阻止能力」が必要と語られていますが…

――中国軍が尖閣諸島に上陸し、これを占拠した時
▽海上保安庁が初動対応する(続く漁船団が現れた場合、これをブロックする)
▽海上自衛隊が軍事的に対応する(奪還のための特殊部隊を送り込むなど)
▽航空自衛隊は連動して制空権をコントロールし、島を隔離する…など
▽外務省は行政手続きの一環として、中国との物流の流れを止める通達を各国に出す(グローバル規模の貿易取引禁止状態などに持ち込む。ただし、これが即座に実現するように、前提として、他国との関係を良好状態&緊密状態にしておく必要がある)

離島防衛に関する対応プランは、中国軍による尖閣上陸が発生した瞬間、多数の独立した機関が一斉に協力的に動く、すなわち「スタンド・アローン・コンプレックス」的な概念を持った内容になるかも知れないと想像です。

※英国的な海洋パワー:港湾を持つ多国間との協力的な国際関係。これを維持するには、国同士の付き合いがよほど上手くないと難しい。中国は対外強硬路線を突っ走っているため、沿岸の周辺諸国の反発心や警戒心を招いている。この状態だと、英国的な意味での海洋パワーには結び付かない。

なお、海軍力 naval power 等をカウントする個別の「シーパワー sea power」と、多国間ネットワークをカウントする「海洋パワー maritime power」とは、意味合いが異なるので注意(海洋パワーは、シーパワーの上位概念)。

アメリカの、「文化」に対する意外なまでの「観念の薄さ」というのは、読んでいて驚きました。

アメリカは移民国家としてスタートしただけに、「人類には文化を超えた普遍的な性質がある」というような観念の方が強いらしく。また、それゆえに、「人種」「文化」「宗教」という類の単語に対して異様に敏感で、「レイシスト(人種差別主義者)」等というレッテルを張られると、まともに話が出来ない状態になるそうです。

これは、アメリカの「アキレス腱」的な部分だと思われました。「弁慶の泣き所(?)」と言うか…アメリカを説得する時には、意識して頭に入れておくべきかも…と思案です。


【調査メモ】日本の鉄技術の概略(特に日本刀に注目して)

日本刀という呼称は明治になってからの物である。それまでは「太刀」と呼ばれていた。

刀剣類は大陸からもたらされた物で、古墳時代からあったが、当時は全て直刀だった。大和鍛冶と呼ばれた集団が「直刀」タイプの刀剣製造に関わっていた。その技術は朝鮮にルーツがある。

一方、近畿とは別に、奥州にも古くから鍛冶集団が居た。彼らは「舞草(もうくさ)」と呼ばれた。奥州の鍛冶集団が、今のような「反り」のあるタイプの刀剣類を創作したと言われている。その技術は渤海にルーツを持つ。

朝廷の中で広く用いられた刀剣は、聖徳太子の時代は「蕨手刀」であった。平安中期、平将門の時代、奥州から関東へ向かって、「毛抜形」と言う反りの入ったタイプの刀剣が広がる。これが、鉄製品の最高峰でもある「日本刀(太刀)」に進化したのである。

奥州平泉の藤原三代の滅亡があった後、奥州鍛冶はパトロンを失って壊滅した。優れた刀工たちは頼朝政権や朝廷政権に連行され、その後、日本各地に散って行った。

その中で一番有名なのが、岡山の「備前長船」である。鎌倉時代、相模国の鎌倉鍛冶から「正宗」ブランドが現れた事は有名である。