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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

「はやぶさ2」帰還ミッション/宇宙とテクノロジー

“はやぶさ2”の旅が「帰り道も気が抜けない」理由。2020年に地球帰還、新ミッションの可能性【帰還編】

https://www.businessinsider.jp/post-204957(2019.12.30)

2010年に地球へと帰還を果たした「はやぶさ」は、小惑星を探査する技術を実証することが目的だった。その点、「はやぶさ2」はサンプル採取技術をさらに確実なものにするとともに、小惑星への理解を深めることも重要な目的としていた。

これから続々と公表される小惑星のサイエンス、そして、はやぶさ2の後に続く小天体探査の展望について、【探査編】に引き続き、JAXAの津田雄一はやぶさ2プロジェクトマネージャに語ってもらった。

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「全然ちゃうやん!」の想定外から見えてきたもの

――リュウグウに到着した際、「リュウグウが牙をむいてきた」と表現していましたね。当初想定していたリュウグウと実際のリュウグウはどの程度開きがあったのですか?

津田雄一プロジェクトマネージャ(以下、津田):「全然ちゃうやん!」という印象でした。

リュウグウの形状の推定はずっと難しい、難しいと言われていたんです。事前に「自転軸は横倒しのはずだ」「ジャガイモのような形状のようだ」などと予想されていましたが、近づいてみると、小惑星研究者の間ではよく知られたソロバン玉型だったので、不思議な感覚でした。

科学者も「あれ、ソロバン玉じゃん」と最初は少し戸惑っていましたね。はじめに推定されていた形の中に1つでもソロバン玉型があれば「おおーっ」と思ったでしょうが、まったく想定されていなかったのは、やはり難しかったんだろうなと思います。

実は、NASAの小惑星探査機「オサイリス・レックス」が探査しようとしている小惑星「ベンヌ」もソロバン玉型なんです。

よくよく考えてみると、こんな典型的な天体を初めて、しかも2天体同時に探査ができる。「これはすごい科学ができる!」と盛り上がりました。リュウグウとベンヌは同じソロバン玉型ですが、よく見ると表面の状態が違います。似ていて比較しやすく、かつ違いがあるというのは、科学的に最も面白いパターンです。

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「何なのか全然説明できない」深まったリュウグウの謎

―― 1年5カ月の間に、さまざまな探査が行われました。実際に探査を行ってみて、どういった成果が得られそうなのでしょうか?

津田:今回の探査では、なんといっても衝突装置(SCI)運用によるクレーター生成の結果が重要です。科学的考察やそこから得られた発見についてはまだ公表されていませんが、今後、確実に成果が出てくるところです。

着陸やクレーターを作った際に小惑星の表面に紙吹雪のような岩の破片がパーッと出てきたのは、僕らにとってもすごく意外でした。誰も予想していなかったし、何なのか全然説明できません。サイエンスチームには、もう解明に取り組んでいる人たちがいるので、そこから小惑星表面の状態についての理解が深まると良いなと思います。

その意味でも、リュウグウに2回着陸できたことは大きかった。2回以上の観測によって初めて、リュウグウ全体の一般的な情報を見ているのか、その着陸した地点の固有の情報なのかを識別できます。

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帰り道も気が抜けない

――はやぶさ2は2020年12月には地球へ帰還し、リュウグウで採取したサンプルが入ったカプセルを大気圏へ投下する予定です。それまでにどのような困難が予想されるのでしょうか?

津田:リュウグウから地球への帰還には約1年かかります。2020年12月末までには帰還しているはずです。

メインの「イオンエンジン」の運転は2回に分けて行う予定です。第1期はすでに始まっていて1月末まで。第2期は2020年の5月~9月の間です。全部で2400時間程度イオンエンジンを噴射することで、地球を通過するコースに入ります。

地球へカプセルを再突入させるおよそ2カ月前からは精密誘導を行って軌道を微修正し、オーストラリアの狙った場所にサンプルの入ったカプセルが着陸するように探査機を誘導します。

実は、みなさん行きは心配してくれたのですが、タッチダウンを超えたあたりから、「これができるなら帰りは余裕では?」と、あまり心配してくれなくなりました。

はやぶさ2を地球に返すには、決められた計画通りにはやぶさ2をずっと制御しつづけなければいけません。日ごろ当たり前に運用していることをちょっとでも失敗すると、帰れなくなってしまいます。途中で装置が壊れることもあり得ます。普通の運用なら壊れても直してやり直せば良いのですが、帰る時期が決まっているので、それを逃すと地球に帰ってこられません。絶対に故障は起きてもらっちゃ困ります。

そういった事故を起こさないようになんとかコントロールしているのですが、なかなかその難しさは見えづらいんです。

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「はやぶさ2」の旅は、地球へ帰還しても終わらない

――2010年に地球へ帰還した「はやぶさ」は、最後には大気圏に突入して燃え尽きてしまいました。はやぶさ2も同じ最後を遂げるのでしょうか?

津田:カプセルとともに地球の大気へと突入し燃え尽きた「はやぶさ」と大きく違うのは、分離した後にはやぶさ2が地球重力圏から脱出することです。地球を離れるためには、軌道修正用に長時間、大量の燃料を噴射する必要があります。

地球から離れた後の予定は、本当に完全未定です。良い行き先を探しつつ、生き残って何ができるか検討しています。

――地球へと送り届けられたサンプルは、その後どうなるのでしょうか?

今後、リュウグウで得た科学的成果は世界に全面公開する予定です。現在はまず、はやぶさ2に貢献した人が成果を出す期間ですが、はやぶさ2が地球に帰還するころには全面公開され、世界中の科学者がそのデータにアクセスして研究できるようになります。

地球に帰還したサンプルの中身は、1年かけて一次的に分類されます。そして世界中の科学者から研究方法を募り、良いアイデアに対してサンプルを配ります。

サンプルを配る時にも、すべて配ってしまうのではなく、約40%のサンプルは残しておくことになります。10年先に良い分析技術が出てきたら、その技術を使える人たちに渡す。かなり息の長い話です。

将来、はやぶさ2のサンプルやデータが思ってもなかった使い方をされて、新しい成果や知見が出てきたらすごく楽しいですよね。

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宇宙資源としての小惑星を探査する可能性

ーーはやぶさ2で実証された日本の探査技術は、今後の太陽系探査にどう生かされるのでしょうか? また今後、津田さんが取り組んでみたい探査計画などはありますか?

津田:はやぶさ2のミッションを行った者の責任として、「はやぶさ2の技術をベースにした次のミッション」は、どうしても考えなければいけません。

例えば、2つの小惑星が互いの周囲をぐるぐる回っている「バイナリー」(二重小惑星)や、3つの小惑星が一体になった「トリプル」(三重小惑星)に行き、それぞれの小惑星からサンプルを採取するというようなミッションでしょうか。

また、今回は表面に穴をあけてサンプルを採取することができましたが、科学者が本当に見たいのは、『小惑星を輪切りにした断面の構造』だと思います。そういったデータを直接観察することも考えたい。そういうことができれば、世界の科学に貢献できるミッションになりますし、面白いと思います。

また、将来的に小惑星や彗星などの小天体は、宇宙資源として見られると思います。日本ではまだ真面目に議論されていないですが、世界ではもう法律を作った国もあります。

数十年後には、人間の経済活動に有用な小惑星をどうやって探査するのか、経済の中にどう組み込んでいくのかという議論が起きるでしょう。はやぶさ2では、その手始めとなることをやってしまったといえます。

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惑星探査の究極的なゴールは、大きな天体からのサンプルリターン

――はやぶさ2で実証された技術は、これからの宇宙探査・開発においても非常に有用なものだといいますが、具体的にどんなことが想定されるのでしょうか?

津田:1つ重要な点として、地球に衝突しそうな小惑星から地球を守る「プラネタリーディフェンス」という考え方があります。

リュウグウにクレータを作ったことを今はみんなすごいと言ってくれますが、だからといってリュウグウの軌道が変わったわけでも、リュウグウを破壊したわけでもない。

いざ地球に小惑星が衝突しそうになった際に役立つかと言われると、その第1歩目というか、0.1歩目くらいのところですかね。少しずつでも小惑星に対してできることを多くして、いざというときのために本当に役に立つプラネタリーディフェンスの技術を作らないといけないと思います。

また、大きい天体のサンプルリターン(=試料を採取して持ち帰ること)にもつなげていきたいです。大きい天体に行って帰ってくるというのは、惑星探査の一つの究極的なゴールです。

僕らは小惑星探査という“変化球”を使っているので、この変化球を伸ばしながら、どの国も考えていない戦略で大きな天体に行って帰ってきたいです。木星や土星の衛星まで行ければ、太陽系のかなりの探査ができます。

リュウグウでは、これ以上はない成果が出せました。これを大きな天体への探査につなげていきたいし、どこかで必ずつながると思います。

(文・秋山文野 編集・三ツ村崇志)

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