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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

ヨーガの私的研究:言語篇

「ヨーガ」の語源は、サンスクリット語までさかのぼる。

※アーリア文明以前のインダス文明の時代からヨーガは知られていたという、かなり信憑性の高い説があるのですが、実際の言葉としては残っておらず、サンスクリット語が一番古い言葉である、という状態なのだそうです。インダス文明の言語は印章文字などが有名ですが、ロゼッタ・ストーンのようなバイリンガル石碑が発見されていないため、いまだ解読されていないそうです…^^;

サンスクリット語の母音には原則として短母音と長母音の区別があるが、エ行とオ行に限りその対立はなく、すべて長い音として発音するのが決まり。例えば「deva(神)」は「デーヴァ」と読み、「soma(神酒)」は「ソーマ」と読む。「yoga」は「ヨーガ」と読む。

ただし、サンスクリット語やヒンディー語の長音は、故意に伸ばして発声される場合を除き、日本語の長音に比べると、心持ち短めに発音される傾向がある。だから日本人の耳で聞くと「ヨガ」と聞こえる事も少なくない。

サンスクリット語の「yoga」は、英語の「yoke」と同源。サンスクリット語はインド=ヨーロッパ語族に分類され、同じ言語グループに属する古代ギリシャ語、ラテン語、ゲルマン語などと多く共通する部分がある。

>>サンスクリット語「yoga」同系語(※注=サンスクリットからの借用語ではない):
@ギリシャ語・・・「zugos(ズゴス)」
@ラテン語・・・「iugum(イウグム)」
@ロシア語・・・「igo(イゴ)」
@フランス語・・・「joug(ジュ)」
@スペイン語・・・「yugo(ジュホ/ユホ)
@ドイツ語・・・「Joch(ヨホ)」
@英語・・・「joint(ジョイント)」

インド=ヨーロッパ祖語では「yeug」(再建語)。サンスクリット語根は「√yuj(くびきで繋ぐ)」

サンスクリット語の「yoga」は、名詞として「くびき、結合、連結」の意味を表す。ヨーロッパ諸語の対応語も、総じて「くびき」または「くびきで繋ぐ」を意味する。古代アーリア民族は馬車を利用した民族であり、移動手段として牛馬にくびきを繋いでいた事が知られており、これらの事柄から、本来の「yoga」は極めて日常的な語彙であった事が推測される。

「yoga」を神秘的に解釈すると、「絶対者と我とを繋ぐ」「自己内奥と繋ぐ」という風になり、これが現在の哲学的な意味での「yoga」の定義になっていったのではないかと言われている。(現在のヨーガの定義=「心と身体を結びつける」?)

※ちなみに、チベットはヨーガを受け入れたとき、チベット訳「ネー・ジョル」を作っています。これは「ヨーガ」の原義と修行の意味を十分捉えつつ、一対一に翻訳されたものだそうです。「ネー=沈着・平静」、「ジョル=保つ、くっつく、手中にする」の意味だという話。

◆瑜伽という漢訳語について・・・◆

東アジアに伝播した大乗仏教の伝統においては、玄奘三蔵以前の訳経(=旧訳・くやく=)では、「yoga」=「相応(=合わさる)」という漢語が充てられた事が知られています。サンスクリット語根に忠実に翻訳した言葉(意訳)。

玄奘三蔵以後の訳経(=新訳・しんやく=)では、「yoga」=「瑜伽」という音写語に改められ、それ以後は、これが定着した用語となり、現代に受け継がれているという事です。

今日の中国語発音では「瑜伽=ユーチエ」。玄奘三蔵の時代の発音(唐音)を復元すると「ユカ/ユキャ」となり、本来のサンスクリット語の発音にかなり近いと言われています(その当時、ヨーガは既に壮大な歴史を持っており、一対一の漢訳語に置き換えにくかったらしい…)。

現代は、華僑の間では「瑜伽(ユーチエ)」「瑜珈(ユーチア)」の混乱、或いは併用が起きているそうです(※華僑の出身地が華南地方に集中しており、華北と華南との発声習慣が異なるためらしいと言われていますが、詳細はよく分からない)

※瑜=美しい玉
※伽=なすび(主にサンスクリット語の音写に用いられた文字)
※珈=婦人の髪飾り

◆ヨーガ行者(ヨーギン/ヨーギニー)という語について・・・◆

サンスクリット語の名詞には男性、女性、中性という3つのジェンダーがあり、曲用(実名詞=名詞・形容詞の語形変化)の仕方がそれぞれ異なっています。サンスクリット語の実名詞は、語幹の語末の音によって、別々の曲用パターンとなります…と、いう話(?)。

(※語末が子音・母音のいずれで終わるか。子音の場合、どの子音で終わるか。母音の場合、短母音か長母音か。など。)

サンスクリット語の実名詞には、主格・対格をはじめとする8つの格があります。

更にサンスクリット語の名詞には、単数形と複数形に加えてデュアル(双数形)という形態があります。対をなす2つのものを一まとめにして言及するときも、曲用のパターンがさらに異なるという訳です(=ちゃんと理解できているかどうか自信ありませんが、資料を読む限りでは、そのように説明されています)

>>「ヨーガ」は「ア」という短母音で終わる男性名詞。「ヨーガは」=「ヨーガハ/ヨーガス」、「ヨーガを」=「ヨーガム」と変化する。

>>これに続いて、「ヨーガをする人(語幹)」=「ヨーギン(男性の場合)」、「ヨーギニー(女性の場合)」となる。これらが単数・複数・双数の3通りにわたり、それぞれ8つの格変化形を持つ。

>>ヨーガを行なう男性の事を「ヨーギー」と呼ぶが、これは「ヨーギン」の単数・主格形(忠実に訳すと「1人の男性ヨーガ行者は」)。「ヨーギニー」は「女性ヨーガ行者(サンスクリット語幹)」の単数・主格形。

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