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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

詩歌鑑賞:伊藤静雄「疾風」

「疾風」/伊藤静雄

わが脚はなぜか躊躇ふ
疾風よいづこに落ちしぞ
われかの暗き生活(たつき)の巷を過ぎて
心たじろがざりし
そは地を襲ひ砂を飛ばせしが
また抗し難くわれを駆りぬ
疾風よいづこに落ちしや
何故に恐ろしき静寂の中にわれを見捨つるや
わが髪に氷れる雪は
またわが山野の道を埋み果てつ
のぞまざる月さへ
いまは虚空の中(うち)に浮かびぬ

※この詩の初出は『新潮』昭和十一年三月号

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