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〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)
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【セム系物語論の伝統・・・〝存在の夜〟と預言者たち(旧約/新約)】

非セム系のシュメール人の時代から、セム系諸民族の時代に移行する。セム系諸民族が生み出した最大の物語が、『旧約/新約』であろうと思われる。

『旧約聖書』/『新約聖書』については多くの文献研究があり、ここでは省略する。特に興味深いと思ったのが、預言者の物語である。ここでは、古代メソポタミアと中世イスラームの物語世界を結んだ『旧約/新約』の世界に注目し、「預言」という言語現象とは如何なるものであるかを考察したい。

預言とは、いかなる時空における言語現象であろうか。預言と言われる意識プロセスを突き詰めると、「存在の闇」という一種の深層的存在(異様に暗い世界次元)に行き着くのではないだろうか、という説が、井筒俊彦氏によって提唱されている。

『旧約』の宗教性を底辺で支えている世界感覚とは、「存在の夜」である。井筒氏によれば、この時代の預言者文学を当時の意味で読む場合、「暗い夜」という感覚が必要だという。濃密に妖気漂う、闇の世界。百鬼夜行の闇。『旧約』では特にその気配が濃厚であり、闇の感覚が表層まで沸きあがってきているという。

ここでは、太古の呪術的思考を彩った「言語呪術の次元」として理解したい。言語魔術が「現実」の世界に強力に干渉してくる世界である。(古代の人々の世界感覚には一種の異様さがあり、現在の我々には理解しがたい代物である。呪いの藁人形が本当の武器として生きていた世界、として考えるのが一番適当なようである)

『旧約』詩篇41篇=すべて我を憎む者、互いにささやき、我を損なわんとて相はかる。

古代のヘブライ語においては、「ささやく」に相当する単語は、呪詛・呪縛の言葉を意味していた。「我を破滅しようとてささやく者ら」とは、言ってみれば、恐ろしい呪詛をかけようとしている者らの事である。古代社会では、人を憎んだり呪ったりする事は、そのまま人の破滅を実現する行為であった。

悪霊的なものが漂う世界。

魔性的な存在のほかに、人間の意識の深層から湧き上がってくる暗い炎のようなエネルギーが、そのまま空中を漂う「何か」となって徘徊する世界・・・その不気味な暗さが織り成す物語の中を、当時の人は生きていたという事であろう。

文字と呪術の帝国、殷の人々が生きていた世界、呪術的論理で構成された世界そのものである。将来の害を滅するために、敵方の呪術師は、捕らえ次第、殺さなければならなかった。更に強力な呪禁を施し、堅牢な境界を敷かねば、安心出来なかったのである。呪術的パワーに満ちた世界とは、そういう闇の世界であった・・・という事であろう。

総じて、言語呪術の生きている物語世界は、非常に陰鬱である。

そういう存在感覚の中で預言は起こり、預言の内容は『旧約聖書』に書かれてきたのであろう。『旧約』、そして後の『コーラン』の宗教性のコアである「預言」という事象は、魔性的な者どもに満ち満ちた存在の夜からの救済を求めて、ひたすらに神にすがりつく、という切実な条件のもとに成り立ってきたのであると想像できる。

古代イスラエルの宗教史において、預言者のギルドがあった事が知られている。厳密には中世のギルドとは異なるが、大体において、遺伝的に憑依状態に陥って預言現象を起こしやすい人々が集まって、一種の団体を形成したものと考えてよいようである。

この集団のメンバーが預言者であり、一般の人がいきなり預言者になることは余り無かったと言う。(つまり、マホメットのように、個人的に預言者になるのは極めて珍しかったと言える。霊的現象の一種である「イニシエーション」を経た上で預言者になるのであるが、一般にその「イニシエーション」は、「スピリチュアル・エマージェンシー」とも言われ、激烈なものだったようである)

さて預言現象を起こすと、人はどのようになるのかと言うと、狂乱状態に陥るのである。我を失なって、刃物で我が身を傷つけたりしながら預言するのである。当時カナンの地には、『旧約』によれば、「バアル」を筆頭に大勢の邪神がおり、神官の集団に、集団憑依現象を起こしたと言われているのである。

(補遺と私見)

ユダヤの「律法(トーラー)」は、呪詛的行為を禁ずる法律でもあった事が知られている。

ササン朝ペルシャ(226-651)の時代、『タルムード』成立期になると、言語呪術が醸し出す「闇の世界」がはっきりと打ち出されるようになり、デモーニッシュとすら言えるレベルになっていたそうである。

このような「夜の世界」に救済があるとすれば、それは闇夜を貫くまばゆい一条の光であり、偉大なるメサイアによる救済であった。

ヘレニズム時代に始まる「神々と悪霊」の混乱をそのまま引き継いだローマ帝国では、このメサイアの役割は、イエス・キリストが担っていた。この救済の物語が、『新約』としてまとめられた・・・と考えることが出来る。

一方、アラブを含むセム系の諸民族の中で、この「夜の世界」からの救済者、メサイアとして白羽の矢を立てられたのが、マホメットと『コーラン』であったと言う事が出来る。ムスリムの人々がマホメットを、『旧約聖書』に連なる正統かつ最後の預言者であると考えているのも、必然といえば必然である。

マホメットの登場は、当時のアラブにとっては、間違いなく福音であったのだと考えたい。

・・・次回に続く・・・

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