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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

ゲーテ『爽やかな航海』『トゥーレの王』

『爽やかな航海』ゲーテ

雲が切れる
青空の眸がのぞく
しづかにエオルスが
袋のひもをとく
微風はそよぎ
舟子ははしり
ひたひたと
舳(へさき)はみづを切り
舟足かるく
すでに陸地が
眼前に迫っている

『トゥーレの王』

昔トゥーレに王ありき
契りをかえぬこの王に
いとしき人は黄金(こがね)の杯を
遺してひとりみまかりぬ。

こよなき宝と愛でたまい
乾しけり宴のたびごとに
此の杯ゆ飲む酒は
涙をさそう酒なりき。

王、死ぬる日の近づくや
国の町々数えては
世つぎの御子に与えしが
杯のみは留め置きぬ。

海に臨める城の上(へ)に
王は宴を催しつ。
壮士あまた宮のうち
御座の下に集ひけり。

老いにし王は飲み乾しき
これを限りの命の火
いとも尊き杯を
海にぞ王は投げてける。

落ちて傾き、海ふかく
沈み行くをば見おくりぬ。
王はまなこを打ち伏せて
飲まずなりにき雫だに。
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