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制作日誌/深森の帝國

〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)

海洋国家と海洋軍事・後

海洋国家と海洋軍事・前]のノートの続きです。

テキスト=『三千年の海戦史』松村劭(まつむら・つとむ)著、中央公論新社2006

◆海洋国家の性格(海洋国家と大陸国家の比較)

::海洋国家::

  • 国家の関心・・・交易地の獲得と商圏の維持(交易ルールが損なわれると不利益を被る)
  • 戦争目的と手段・・・目的は新たな商圏(市場)の獲得、手段は制海権の維持
  • 国家の構造・・・「団結(提携)」パターンのみ(リーダー不在で空中分解すると漂流)

::大陸国家::

  • 国家の関心・・・資源取得の対象となる領地の拡大(領土損失が出ると不利益を被る)
  • 戦争目的と手段・・・目的は敵国の占領支配、手段は敵方部隊の殲滅
  • 国家の構造・・・「中央集権」‐「分裂国家」の両方のパターンを取れる

・・・海洋国家の国力の指標・・・

  1. 海洋交通の要衝に位置する戦略的地勢
  2. 優れた基地としての軍港の戦略的展開
  3. 海洋民族性の国民(シーマンシップの普及)
  4. 海洋国家としての政策力(工業力・民度・外交力・海空軍力を追加)

・・・(補足)この場合の工業力とは、付加価値の高い輸出製品を作れる能力

◆大陸国家に対する海洋国家の国家戦略

  • 大陸に単一の強大な国を出現させない
  • 大陸沿岸における「海から陸への」牽制(湾岸の出入り口の制海権)
  • 大陸沿岸部における「ヒット・エンド・ラン」を可能とする基地ネットワークの敷設
    (基地の防護・維持に陸軍力を使う)
  • 火力・機動力・防護力・航続性(航空機の場合は空母で航続距離を補う)

◆海軍基地に求められる条件(空軍基地にも同じ条件が求められる)

・・・海軍基地に向くのは、防波条件が良く、物資補給の容易な港湾都市である・・・

  • 気象・海象条件が港湾に適し、1年中利用ができる。
  • 外敵の攻撃に対して防御が容易で出撃が迅速にできる。
  • 軍艦に必要な人員・物資の補給が受けられる。
  • 人員の休養・艦艇の整備ができる。

・・・(補足)最初の2点だけ満たす場合、一時停泊に向く「泊地」となる。

◆海軍の戦闘ドクトリン(=基本戦法のことらしい)の変化

  1. 手漕ぎの時代・・・戦闘陣形は横陣
  2. 帆船に大砲を搭載する時代・・・戦闘陣形は縦陣
  3. 潜水艦の群狼攻撃から通商防護する時代・・・戦闘陣形は方陣
  4. 空母機動部隊が主役の時代・・・戦闘陣形は円陣(現代、円サイズは拡大中)
  5. (将来の)核戦争の時代・・・戦闘陣形は小円陣の分散連携(予想のみ)

・・・(補足)基本的に、海洋国家の国防線の先端は、大陸側の基地港の背後に敷く

(付記:「基地港の背後に国防線を設置する」ことが何故に必要なのかは、ピンと来ませんでした。重要な事柄らしく、本の中で何度も言及されているので、ピックアップしました。センスがある人には分かるみたいですが…^^;)

◆海洋軍事に関する格言4つ

1.ギリシャの格言
(小アジアに強大なペルシャ帝国が出現したとき)
「軍隊ほど儲からないものはない。しかし、軍隊がなければもっと儲からない」

イオニア商圏に依存していたギリシャ諸都市は、ペルシャ帝国に怯えつつ、イオニア周辺海域を通行する羽目になった。イオニアから食糧も輸入していたため、影響は相当なものだった。

2.サラミスの海戦に際しての名セリフ(?)
(ギリシャ・テミストクレス執政官 vs ペルシャ・クセルクセス王)
「勝利は計画の中に既にあり!神は不注意を決して許さないことを思い知れ」byテミストクレス

サラミス水道の湾曲部の奥に背水の陣(というより背陸の陣?)を敷いたアテネ艦隊の姿に誘われて、ペルシャ艦隊が狭い水道に入り込み、身動きが取れなくなって混乱したのを見て。

3.ペロポネソス戦争に巻き込まれたミロス島の悲劇
(アテネ対スパルタの覇権争い)
「中立は強力な武装によってのみ成り立つ」

スパルタとの戦争を有利に運ぶため、アテネは非武装中立を貫いていたミロス島を予防占領。ミロスの男性はすべて殺され、婦女子はすべて奴隷として売られた。・・・> <;;

4.アレクサンドロスのエジプト占領
(ペルシャ海軍基地を軒並み破壊し、アレクサンドリアを築く)
「海軍基地を制するものは海洋を制する。基地とは、樹の根であり大地である。1年中、独立的にすべての海軍資源が入手できる戦略的な場所でなければならない」byアレクサンドロス大王

イッソスの戦いの後、ユーフラテス川に沿って退却するペルシャ軍を深追いせず、ガザ占領、エジプト占領に力を注ぐ。

◆大陸国家の海洋進出について

  • 大陸国家が大海軍を創設して征服事業に乗り出す事は、物理的に可能
  • 船乗りの養成には時間がかかる(=手っ取り早い方法は、沿岸漁民の徴兵?)
  • 「シーマンシップ」は、農耕民族・狩猟民族には理解できない特質(らしい)

・・・以上・・・

後編は固い感じになりました。「まったくの初心者にしてセンス無し」が取ったノートとしては、まずまずの内容としてまとめられたかな…と思いつつ。

全体を苦心して読んでみて、美月なりに思ったこと:

特に「シーマンシップ」への理解と洗練は、海洋国家を宿命づけられている日本の、緊急の課題のようです。瀬戸内海の歴史文化への注目が、もっとなされてしかるべきなのかも知れない…と感じました。…瀬戸内海含む海洋史&文化の探索なら、自分にもできるかも…できるかどうか分からないですが…^^;

おまけのおまけになりますが、空軍・海軍というのは、陸軍に比べて戦略や装備の手入れに細心の注意を払う必要があるらしい…という内容が、印象深いものでした。

陸軍の闘いの場合、現状に応じて戦術的低下ができる(粗雑な装備でも何とかなるという事らしい)、空軍&海軍の闘いの場合、目的達成まで戦術的低下はできない(船底1枚下は地獄というような事らしい)、という意味である…という風に理解しています…

最初にも述べておきましたが、自分に「その筋のセンス」が無いため、誤解の可能性もあるので、正確を期するため原書の入手を推薦するものであります…;^^ゞ

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