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〝認識が言語を予感するように、言語は認識を想起する〟・・・ヘルダーリン(ドイツ詩人)
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異世界ファンタジー3-3茶サロンにて対峙:激情を奥底に秘め

「ねえ、あの噂、本当?!」
「まさか、ねえ、でも、ねえ…!やっぱ、身分とかアレとか、ねえ」

休憩を兼ねたティータイム。王宮の秋宮と冬宮をつなぐ棟の一角にある広々としたサロンで、王宮に上がっている貴族令嬢たちの声が、けたたましく上がった。見るからに、ゴシップに興じている風である。

ユーフィリネ大公女と取り巻きのグループ、その他の高位令嬢とその取り巻きのグループという風に、たむろする位置が分かれているのが笑える。身分差やその他の、貴族ならではの微妙な理由が重なって疎外されている下位貴族令嬢たちの多くは、華やかなグループを横目で見ながら、そんな冷ややかな感想を胸に抱くのであった。

――目下のゴシップは、今回の冬宮の会場設営で、汚職があったのではないかという内容だ。そして勿論、その俄かに湧いて来たゴシップの話題の中心人物は、名前こそ「あの彼女」という風に遠まわしではあるが、間違いなくロージーである。

令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕も、サロンの隅に一席を設けてお茶をしていたが、絶え間なく流れてくるゴシップに、腹が立つやら情けないやら、散々な気分であった。どちらからともなく、こそこそと内緒話を始める。

「ねえ、ローズマリーは汚職してなかったよね」
「してないしてない。彼女、そんな人脈、無いもの。うちもだけど」
「入札なしの一件の業者に賄賂込みで頼まれて結託して…って、冗談じゃないわよ。あの業者と初顔合わせしたの、スプリング・エフェメラル装飾のレイアウト計画が固まってからの話だもの。業者の方だって、スプリング・エフェメラル装飾なんて、こちらから案を説明するまで、チンプンカンプン状態だったわよ」
「私たちで最初のレイアウトを決める時も、クロード名義で特別な植物図鑑を借りて来てもらって、相談するくらいだったもんね」
「業者からの品だけでは足らないって状態で、ローズマリーがわざわざ見本市まで足を延ばして、注文して買い付けているし」

令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕は場の雰囲気に閉口し、野外の席に移動した。するとそこへ、女官長との話を終え、退出して来たロージーが現れた。大人しいデザインの緑のドレスに、喪に服していることを示す黒いリボン。サロンの中の令嬢たちの目が一気に、ロージーの方を向いた。

流石に鈍いロージーも、サロンの方から突き刺さるような視線を感じ、不可解そうな顔でサロンの方を慎重に見やる。

令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕が、「ローズマリー!」と呼び掛けながら駆け付ける。ロージーは、二人ののっぴきならぬ様子に首を傾げたが、二人の誘導に従って、サロンから距離を置いた。

――汚職の疑いがあるというゴシップが湧いて来た――その説明を二人から聞かされた後、ロージーは絶句する他なかった。監察官のアドバイスに応じて領収書にメモを付けたし、そのメモにしても女官長からサイン不備を指摘されて先ほどサインして来たばかりなのに、これは一体どういう訳なのか。

「監察官のアドバイスに、女官長の指摘?それなら潔白は証明されたような物だから、大丈夫かな」

令嬢アゼリア〔仮名〕が、ホッとしたように呟いた。そして、「それにしても何故――」と首を傾げる。令嬢アゼリア〔仮名〕の視線は、どうしてもサロンの中心人物でもあるユーフィリネ大公女の方を向いてしまう。令嬢アゼリア〔仮名〕は、ユーフィリネ大公女の性格をシッカリと見破っていた。それが、取り巻きから排除された理由でもあった――実際は、自分から飛び出してやったような物だが。

令嬢サフィニアが、いつも購読している占術雑誌を取り出し、顔をしかめた。

「うわ、不吉。この絶好の晴れ週間なのに、《死兆星》の多発に注意、ですって。《ライ=エル方式》による国家レベル速報」

令嬢アゼリア〔仮名〕とロージーは、「常識的に考えて、事故多発、あるいは反社会的勢力による暴動発生の注意警報というところではないか」と応じた。目下、冬宮への備品搬入が急ピッチなのである。《ライ=エル方式》による《死兆星》警報は、ビックリするほど的中率が高いし、とりあえず怪我には注意しましょうね、とうなづきあう三人であった。

やがて、ユーフィリネ大公女とその取り巻きが、茶会の後の優雅な野外散歩を始めた。必然というべきか見え見えというべきか、ユーフィリネ大公女とその取り巻きの集団は、三人とかち合う形になる。

「あんな破廉恥なゴシップが湧いて来るなんて、さすがアレですわね?」
「平民上がりのアレなんて、こんな物かも知れませんわねぇ、オホホ」

尊大に構えた取り巻きが早速、悪意の演奏を始めた。意味深な眼差し、不自然に上げられる口角、斜に構える立ち姿。そして、ユーフィリネ大公女はことさらに「我関せず」といった純真そうな表情をし、最初から最後まで聞こえているだろうに、取り巻きの言葉をいさめる風は無い。

令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕は、「また始まったか」という風に聞き流している。初めてユーフィリネ大公女とその取り巻きに絡まれる事になったロージーは、硬い表情を守って、中心人物たるユーフィリネ大公女を注目した。

取り巻きによる遠まわしな当てこすりは続いた。

「アレが婚約者だなんて、ギルフィル卿も何を考えていらっしゃるのやら」
「まあオホホ、流石にあの汚職の話が公になれば、…ねぇ?」
「オホホ、ねぇ!見本市で見かけましたわよ、青い目の君と一緒のところ。身分違いのアレは、流石に、ねぇ…?」

取り巻きの令嬢たちが、如何にも「破廉恥な女」という風に、ロージーに意味深な視線を投げた。

ユーフィリネ大公女が、そこでやっと「ああ、そう言えば」と口を開いた。玉音の如き美しい声音だ。

「わたくしも、見本市に出掛けておりましたの。青い目の君といらっしゃるのは、どなたなのかと思っておりましたが――」

ロージーは、「青い目の君」というのが誰を差すのか、シッカリと直感していた――あの、監察官の事だ。

――見本市では確かに、監察官と親しく手を組んだ。それは不義密通とは行かなくても、疑われて当然の行動だった。婚約者の居る人と、恋人でもあるかのように振る舞ってしまった。そのどうにも言い訳のきかない事実が、ロージーを打ちのめした。ギルフィル卿や令夫人、そしてそしてジル〔仮名〕卿の耳に、この話が間違った内容で入ったら――と思うと、ロージーは足元が崩れるような気持ちがした。

随分久しぶりというべきか、貧血で倒れそうな感覚がグルグル回る。

――お勤め中は、動揺をあからさまに見せないように。

女官長の言葉が頭の中で繰り返し響いた。ロージーは蒼白になりながらも歯を食いしばり、言葉を押し出した。

「お言葉ですが、私に後ろ暗いところはございません」

ユーフィリネ大公女とその取り巻きが、ハッと息を呑んだ。取り巻きが顔を歪めた。何かしら激しい言葉が飛び出して来そうな気配である。令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕がさすがに気付き、先手を打とうと口を開いた。

「貸し出していた植物図鑑、まだ返却できないんですかー?」

場違いなまでに陽気な男性の声が響いた。令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕が、驚きのあまり口をつぐんだ。ユーフィリネ大公女とその取り巻きも、気勢を削がれたように、ボンヤリと声の主を振り返る。

「ガイ〔仮名〕占術師ではございませんか、アージェント卿の御子息の」

どこまでも美しいユーフィリネ大公女が、淑やかに頬に手を当てて驚きを表しながら、輝くような笑みを浮かべた。流石に大公女、主だった貴公子や役人の顔は、全て頭に入っているらしい。

「相変わらず絶世の美女でいらっしゃいますね、ユーフィリネ大公女。先ほど面白そうな話を小耳に挟みましたが、あの冬季装飾の見本市にいらしたのは、まさかのユーフィリネ大公女でいらっしゃいましたか?今年の冬宮の装飾は、見本市から大胆に導入した新型モデルが含まれ、新しい定番パターン装飾の先駆になる可能性があるとかで、常ならず評判が高いとのこと」

ガイ〔仮名〕占術師は人好きのする顔に笑みを浮かべ、歯が浮くようなお世辞を一気に並べたてながら優雅な一礼をして見せた。

「まあ、耳が早くていらっしゃるのね」
「後学のために、どの店を訪ねたか聞いてみても?」
「全ての店という訳ではありませんのよ、ガイ〔仮名〕占術師。民間業者の品々は流石に選外ですしね。上から三番目のコーナーや四番目のコーナーなど――」

ユーフィリネ大公女はガイ〔仮名〕の質問に次々に応じ、取り巻きがキャアキャア言いながら 「流石ユーフィリネ大公女さま」と合いの手を入れていた。令嬢サフィニアと令嬢アゼリア〔仮名〕は、「そりゃ違う」と言いたそうにしていたが、先手を取られて具体的な回答をされてしまった手前、ロージーが見本市で買い付けて来ていた事を説明できなくなってしまった。

――そう、冬宮の装飾の評判は、ロージーに帰する物ではなく、ユーフィリネ大公女に帰することが決定してしまったのだ。

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